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2020年読了本ベスト10

今年も間に合いませんでしたが、仕事始めの前なのでギリギリセーフ…のつもり。で書き出しましたが結局全然間に合いませんでした。

2020年はあまり読書が捗りませんでしたが(特に後半)、それでも振り返ってみるとたくさんの素敵な本に出会うことができました。

10.ずっとお城で暮らしてる/シャーリイ・ジャクスン


この本を読んだのは3月頃で、少し読書に対するテンションが下がっている時期、自分の中では「巡り会わない」時期でした。
だからこそこの本に会えた時は嬉しかった、そうそうこういうのが読みたかったんだよ、という気持ちに久しぶりになれた。
これは好きな作品の被っているフォロワーさんが何人か推していらしてずっと気になっていたのだけど、地元の図書館に入っていなくてなかなか機会がなかったので電子書籍で買って読みました。結果的に手元に置いて読み返したい本だったので、買って良かった。
語りは穏やかなのにずっと不穏なうっすらした怖さが漂っていて、それら全ての火種に唐突に火がつくように終盤で一気に加速する感じ。
桜庭一樹が解説を付けているのだけれどわかるなぁと思った。作品の雰囲気が同じ。

9.雪が白いとき、かつそのときに限り/陸秋槎


去年「色のない緑」を読んで以来どハマりしてしまった現代作家。
常々ミステリを読みながら思っている「探偵が導く答えしか本当に解き方はないのか?」の問いについてしつこく突き詰めてくれる姿勢が凄く好きでした。良い意味での理屈っぽさが、作品にプログラム言語やチョムスキーを取り上げるような作家ゆえだな、と感じました。
勿論青春ものとしても一級品。

8.上弦の月を喰べる獅子/夢枕獏

夢枕獏は実はあまり読んだことがなかったのだけど、これで一気にやられました。完全に没入型。読み終わるまで帰ってこられないタイプの読書体験でした。
壮大すぎる構成と、夢と幻を漂うような作品世界に否応なしに浸らされる。最近なかなかない骨太な強さを持った作品でした、立ち向かうのに疲れるくらい。

7.ソーネチカ/リュドミラ・ウリツカヤ

不思議に淡々とした作品。
「幸福とは何か」について、しみじみ考えさせられた作品でした。
主人公のソーネチカの身には、特に何かが起こるわけでもありません。どちらかといえばあまり良いことがない人生のようにも思えます。でも彼女は、本によって幸福であり続ける。本によって幸福である、というのは小難しく頭を使った結果の幸福のような手触りの言葉ですが、ソーネチカの場合はなんだかそういう難しい話ではないような気がしました。
捉え所がなくて考えているうちに読了ツイートのタイミングを逃してしまい、そのまままとめず終いになっていたのですが、妙に記憶に残る作品です。

6.カート・ヴォネガット全短編

大学卒業直前にハマったヴォネガット。
なんとなく(名前の印象から?)ガッツリした手応えがあるアメリカ文学の作家だと思っていたけれど、良い意味で裏切られる読みやすい作品を書く人で最初はこんな感じなんだ、とびっくりしました。
短い期間にまとめて山ほど読んでしまったのもあって、これ!という印象的な短編はあまり無いのですが、一定数ポートフォリオを作る人が主人公の作品があるというのが面白くて記憶に残っています。経済を扱う人と文学はどことなく縁遠いイメージが自分の中にあるからかもしれません。

5.猫を棄てる 父親について語るとき/村上春樹

村上春樹がすごく好きなわけではないんですが、木に登っていった白い子猫の印象が強烈すぎて頭にこびりついてしまったので、この順位。木の上で爪を立てたまま干からびてゆく子猫のイメージなんて、どうやったら湧いてくるのかしら。

4.夜と霧/ヴィクトール・E・フランクル

何年か前に読んでいるので再読なのですが、「今年読んだ本」として強く印象に残ったので。
この一年、程度の差はあれどすべての人が災禍の中を生きてきたと思います。
そんな時世だったからか、昔読んだ時とは全然違う部分が心に残りました。
特に印象的だったのは、繊細な人間の方が、地獄のような現実から空想によって距離を置けたためにかえって生き延びやすかったエピソード。
不要不急とはなんたるかについて、もう一度考えさせられる気がしました。


3.夕陽の道を北へゆけ/ジャニーン・カミンズ

これは日経新聞のおすすめ書籍欄で知った作品でした。
まず冒頭から物語の中に引き込む力が凄い。息もつかせぬ展開、なんて表現をしてしまうと陳腐になるのであまり言いたくはないけれど、本当に最初の5ページくらいは呼吸を忘れてしまうほどに入り込んでしまいました。
ジャーナリストの夫が書いた記事が原因で一族を惨殺された母子がメキシコからアメリカへと亡命する物語なのですが、事件の描写やフラッシュバックの描写があまりにリアルでびっくり。後書きを読み、著者自身が似たような事件で従姉妹を亡くしていると聞いて納得でした。あの淡々としていながらものすごいリアリティを持って迫ってくる描写が、体験に基づいて書かれていると知って少しほっとするところすらありました。あれがすべて想像力によって作られているとしたら、凄い才能だとは思うけれど正直なところ少し怖いので。

2.チボー家の人々/マルタン・デュ・ガール

一度目の緊急事態宣言の間、図書館も開かず、とにかく暇だけはあったので大作にでも手を出してみようかと大人買いしてこれをずっと読んでいました。
ジャック・チボーが少年から青年になっていく姿を追っていくだけの話かと思いきや、父や兄についても掘り下げられたり、主役として焦点を当てられたりもして、チボー家の人々、というだけあるなと思わせる作品。
みんなに手当たり次第薦めたい!という本ではないけれど、わたしはこの作品を読めて良かったし、今後コロナ禍のことを思い出す時にはずっとこれを思い出すのだろうなと思いました。
2020年、これが一位のはずなんですよね。占めるボリューム感的にも、読んだタイミング的にも、今年を象徴するタイトルという意味では確実にこれでした。しかしそれを凌駕する、一位にするしかない作品に出会ってしまったので二位です。そういうこともあります。

1.革命前夜/須賀しのぶ

上でも書きましたが、2020年の一冊を選ぶのならチボー家の人々だと思います。
けれど、もし2020年に読んだ本の中で一冊だけの記憶を残し、あとはすべて永久に出会えない本にしてしまうと言われたら、わたしはあまり躊躇うことなくこの本を選ぶと思いました。
そういう意味で、2020年の一番はこの本でした。

私事ですが、数年前一年間旧東ドイツに住んでいたことがあります。
いくつか選べた候補の中でその街に決めた理由自体、そこが旧東独だったから。西は観光や短期留学などで何度か見る機会があり、なんとなく雰囲気が掴めていたので、どうせ住むのであれば東独に長期で滞在してみたいと思ったからです。
そこで日本ではあまり好きではなかったバッハがすっかり好きになって帰国しました。
日本で聴いていてもバッハの良さはわからなくて、あれは教会という空間の中で目を閉じて聴くための音楽だということに、教会が身近にある環境に住んで初めて気が付いたのです。
それに気づいて以来自分の中でのバッハの聴き方も確立され、気付けば好きになっていました。

そんな風に思い入れのあるライプツィヒとバッハの旋律を、この作品は損なうことなくさらにアップデートしてくれました。
もちろん作者はそういうことを意図してはいないけれど、わたしにとってこの作品は読んでいる間ずっと二重構造の物語でした。
作品に描かれる当時のDDRと、自分の体験の中にある今の旧DDR。重なるところもありつつ全く知らない世界のように感じられる部分もあり、でも同じ土地なんだということを、ずっと感じながら読んでいました。

そういう極めて私的な読書体験をわたしは書籍に求めているのだな、とこの本について考える中で気が付きもしました。完全に違う世界へと没入するのも好きだけれど、わたしにとって本は自分の現実を少し拡張してくれるような存在なんだと思います。
今年もなかなか物理的な現実を広げる機会は少ない年になってしまいそうですが、たくさんの良い本と出会い、少しずつ世界を広げていけたらと思っています。

今年もたくさんの素敵な本と出会えますように。

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