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百年文庫60 肌

「肌」というテーマからイメージされるような生々しい雰囲気の作品は無くて、作品は共通して「話の筋は暗いのに暗い雰囲気のない作品」だった。

交叉点/丹波文雄

「落ちるところまで落ちた」-そんな思いで住みついたアパートみどり荘で、川上は隣室の若い女にふとした好奇心を抱く。憐れみから惰性へと関係を深めてしまう男女のあやうさ。

友子が可哀想だけれど、その気持ちに自分を殉じることまではできない男。本人も言っているけど、ヒモの男よりも残酷な気がする。終わり方が友子が部屋に戻る直前で切れているのが切ない。

ツンバ売りのお鈴/舟橋聖一

執筆のためカンヅメにされた旅館で、あれやこれやと「私」を世話する仲居の鈴音にはもう一つの顔があった。

自分に盗みを働いた女についてが男の視点から描かれている。お鈴がカラッとしているのが良いと思っていたけれど、だんだんと逆に哀しい気もしてくる。本人は無自覚だけれど、境遇ゆえにまっとうに生きられない可哀想な女、みたいな読まれ方を結構しているっぽいのが面白かった。作者の目線がそうなのかもしれない。

金色の鼻/古山高麗雄

零細映写機会社の支社長と事務員。恋して暮らして二十年、別れを迎えてなお高まる愛しさ。

なぜ別れたのかはっきりせず、ぼんやりと別れてしまう二人。結婚していてもこういうこともあるのだなと思う。
随所から感じられる、手元に妻がいる時は大事にしなかっただろうに、急に惜しくなる男の未練がましさと、対照的なまでにさっぱりと割り切る妻が活き活きと描かれていて良かった。

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