見出し画像

百年文庫58 顔


なんとなく不気味な印象の三篇。顔を主題に据えるのは普通の話を書くのには生々しすぎて、サスペンス的なものになるのかもしれない。

追いつめられて/ディケンズ

なぜ私はだまされたのか?彼の顔を読み違えたのか?生命保険会社で長年、訪れる客を審査してきた「私」が遭遇した意外な復讐劇。

一読だと話の展開がよくわからなくて二回読んだ。ディケンズ、たしかにサスペンスぽいものも書くイメージがあったのだけどこんなものも書いているんだな〜と驚いた。わかりにくいのは主語や目的語が省かれた語りが理由だと思うけど、原語だとどんな感じだったんだろうな。

気前のよい賭け事師/ボードレール

パリの雑踏で出会った「善良な悪魔」に魂を売り渡した男が、地下の豪奢な屋敷で繰り広げる不思議な対話。

パリ、悪魔、地下の屋敷、といった怪しげなモチーフと語りのシンプルさがアンバランスな気がする。そこが逆に良いのかもしれない。
話の短さも夢か現か、という作品の雰囲気を壊さない感じがして良い。


イールのヴィーナス/メリメ

イールの街で掘り出された青銅のヴィーナスに魅入られた男たちの異教的な恐怖体験を描いた。

ミロのヴィーナスがルーヴルに安置されるまで、みたいな話かと思って読み始めたら思いの外激しく展開し、文章が映像的なので結構怖かった。カルメンもそういえば結構怖いよな、と思い返す。
かなり強く印象に残った好きな作品。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?