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百年文庫57 城

城というテーマを持ってくるところが面白かった。
具体的に城がイメージできる作品のところも良い。自分がもし選ぶとしたら、と思った時に城を舞台装置にした作品ってあるようで意外と思いつかないな、と思ったし、こうやって括られたものを読むことで「城がテーマの作品」というタグが自分の中に新しく置かれるなあということも考えた。

ポルトガルの女/ムシル

領地をめぐる攻防戦に身を投じる城主は、異国からめとった新妻を城にのこして戦場に寝起きする。冷静にして苛烈な男が激しい動揺に見舞われる瞬間を描いた。

ムージル(ムシル)は前に読んだ時にもいまいち入れなかった思い出があるが、今回もどうも入れなかった。こういうなんとなく入れない作家はある日いきなり自分の思想や境遇の変化でどハマりする可能性もあるので、時間をおいて時々チャレンジしたくなる。ムージルもまた折に触れて読もうと思う。
いつまでも妻が「城主の妻」ではなく「ポルトガルの女」であるところが気になる。

ユダヤの太守/A.フランス

古代ローマを舞台に、統治者の宿命と人間理解の限界を告発する。

古代ローマが舞台なのに、現代の陰謀論や争いの論点にも通じるのが面白い。主人公と来客の間には理屈では分かり合えない平行線の部分が存在している。

ノヴェレ/ゲーテ

山の古城に響きわたる少年の歌声が、恐怖に萎縮した大人たちの心を解き、目前の危機を調伏していく。

ゲーテ最晩年の短編のひとつ。一応ドイツ文学はそれなりに読んでいる・知っているはずだけれど全然知らない短編で、改めてゲーテの功績の多さと広さを感じた。
途中の風景への語りはシュニッツラーみたいだけど、展開が面白くて続きが気になる。ゲーテはこういうところが他のドイツ文学に比べてバランスが良くて、万人に受けるし読みやすいのだなと思った。
この短さの中に、ゲーテらしいところがぎゅっと詰め込まれている気がする。

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