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百年文庫49 膳

美味しそうな文章が大好きだ。写真よりも文章を読む方が、より美味しそうなイメージが湧くような気がする。なのでこれは楽しみな気持ちが大きかったタイトル。

茶粥の記 ほか/矢田津世子

想像力で食べたこともない旨そうな食べ物の話をし、雑誌に記事まで書いていた夫。役所の戸籍係だった亡夫を「食べ物」で回想する。

作者の目線がとても優しくて、きっと本人もこういう心持ちの人なのだろうと思った。根本的に目線の優しさが無いと選べない言葉づかいや文章のような気がする。
二篇収録されていて二篇とも素朴に素敵だったので気になった。二篇目の「万年青」は皆に尽くされている一家の主人たる御隠居さんと、彼女に取り入ろうとする嫁たちを主軸に描いているのだが、語り手の福子の目線から読むと語りのやわらかさからとてもそうは思えない。
この作者のほかの作品も読んでみたい。

茶人/藤沢恒夫

一代で財をなした稀代の吝嗇家がはじめて客をまねいた珍妙な茶会。

吝嗇家を主人公にしたユーモラスな短編。前半で人となりがわかり、後半で具体的なエピソードへと落とし込んでいく構成が落語っぽい。
話自体も古典落語のような面白さで好きだった。

鱧の皮/上司小剣

商売は家の者に任せきりで金の無心ばかりしてくる夫。妻は苛立ち、家族の手前、恥ずかしくてならないが…。道頓堀の夜景ににじむ夫婦の情が愛しい。

個人的に鱧に「関西の美味しいもの」のイメージが強いので、小道具の使い方が上手くて良いな…と思った。
話は淡々とした料理屋の日常の中に夫の話がぽつぽつと浮かび上がる構造で、特に展開も解決もしないのだけれど読まされてしまうところに作者の力量を感じる。やわらかい関西弁にも情が感じられて、作品にあたたかみを添えている。

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