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百年文庫51 星

意図的かどうかわからないけれど、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンと北欧作家の作品でまとめられているのが面白かった。確かにイタリアやアジアの作品で「星」のイメージは薄い気がする。

ひとり者のナイトキャップ/アンデルセン

「結婚しない」という条件で異国の地に赴き、店番をしながら老いていったアントンさんの熱い涙。

ドイツからデンマークに移住している老人が主人公のお話。ドイツからデンマークに旅した時、ほとんど地続きで言葉もなんとなく意味がわかるくらいに近いのにそれでもやはり別の国という感覚をはっきり受けたことが印象的だった。こんなに近いのに、と思うけれど、電車もないような時代の話であればこの距離でも祖国はやはり相当遠く感じたことだろうと思う。
生きている世界の中に実際的な幸せがなくても人間は想像力によって幸せを感じることができる、とアンデルセンはいつも書いているけれど、ここでは特に「夜と霧」みたいな「不幸の中の想像の力」に焦点が当たっているように思った。いわゆる有名どころに比べてオチがふわっとしていてわかり辛い気もするけれど、そのぶん想像の余白があって良いような気もする。

父親/ビョルンソン

息子の誕生から早すぎる死までを素朴な会話文に写し取り、父親の深い愛情が胸に迫る。

「人と作品」にイプセンに並ぶ19世紀ノルウェーを代表する作家と書かれていたけれど、聞いたことがある程度の認識でやっぱり北欧は地理的にだけではなく心理的にも日本からは随分遠いのだと思った。
作品自体短く最低限の描写しか書かれていないけれど、それで父親の感情が伝わってくるところが作家の描写力だなと思う。「お前の息子はとうとうお前の祝福になったのだ」という司祭の言葉が作品の核を為して重たく存在しているからこそ成立しているように思う作品。

ともしび/ラーゲルレーヴ

数々の武勇伝を誇る乱暴な夫が、エルサレムからフィレンツェへ聖火をもちかえる旅で人間的な優しさに目覚めていく物語。

作品を読む時、無意識に「○○な話」と頭の中で概要を考えながら読んでいる節があるのだけれど、この作品はかなり長いことどこへ向かっていくのかわからなかった。
こういう聖書/聖人エピソードみたいな話は結構好きで、なんで好きなのか考えたのだけれど作品の幅が一見狭く見えて広いところが面白いのだと思う。
画一化された作品のように見えるけれど、意外と近世に昔風のモチーフを使って書かれているものがあったり、あえてそういうものを持ってくるのにも多種多様な制作意図があったりして、その振れ幅が面白いのだなと思った。

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