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「心地良い家」には愛する者が不可欠だ #ハマスホイとデンマーク絵画展

「ハマスホイの絵には夏も冬もない。
それは憂いを帯びた、はるか昔の、遠い、遠い彼方にある、こことは別の世界のものである。」
ハマスホイ展の最後に貼ってあった言葉がとても良かったので。この一言がハマスホイ展のすべてを総括しているような気がしました。
ハマスホイの描く、時には人物すら不要とする文字通りの「室内画」の閉じられた世界。確かに室内とは、外界と隔絶された異世界でもあるのかもしれない。ハマスホイを観ながらアンリ・ルソーを思い出したのだけれど、それがどうしてだか最後のこの言葉を見てどちらも「現実にはあるけれど、どこか浮世離れした切り取り方」をしているからかも、となんとなく腹落ちしました。

ということで、「ハマスホイとデンマーク絵画展」、とても良かったです。
個人的に企画の目の付け所自体もとてもよいと思ったのですが、長くなりそうなのでそれはまた別の機会があれば。

以下、気になった作品たち。

ヴィルヘルム・ハマスホイ「画家と妻の肖像、パリ」。展覧会の入り口に、この絵がとても広くスペースを取って一枚だけ飾ってあったのを見た時に漠然と「ああ、これはきっと良い展覧会だな」と思いました。
結婚の翌年に描かれた二人の肖像は控えめな表情をしているけれど、静かで穏やかな幸福を享受していることが伝わってくるようでした。

ラウリツ・アナスン・レング「遅めの朝食、新聞を読む画家の妻」
貧しい家に生まれ、労働者を中心とした社会的な作品を多く描いていたものの、20歳近く歳下の妻と結婚後は画風が一変しあたたかい筆致で家族を描くことが多くなった、という解説にほっこりしてしまいました。幸せそうでよかったです。

ピーザ・スィヴェリーン・クロイア「スケーイン南海岸の夏の夕べ、アナ・アンガとマリーイ・クロイア」
数年に一度しかない、電流に打たれたような一目惚れ。

夏の夕方、寄り添って歩く妻とその親友。
本当に勝手な妄想なのだけれど、画家はこの美しい光景に心を奪われ、永遠に取っておきたい、と思ってこの絵を描いたのではないかと思いました。この作家のことはなにひとつ知らないけれど、画面からは二人を見つめるまなざしの優しさが伝わってくるようでした。使っている色と、画家の目線と二人との距離感が好きで、月並みな表現だけど絵の中に入ったように立ち尽くしてしまいました。

ピーザ・スィヴェリーン・クロイア「朝食-画家とその妻マリーイ、作家のオト・ベンソン」

一目惚れしたクロイア、もう一枚ポストカードになっていたので購入してきた作品。

彼は今回の展示でも中心的に扱われていた「スケーイン派」の画家だそうです。デンマーク最北端の村、スケーインに集まり、自然主義的な考え方を取り入れてデンマーク近代美術の一大派閥となったグループだったそうで、今まで触れる機会が無かったのですが光の使い方が綺麗で好きな画風でした。クロイア自身はモネなど印象派の影響も受けていると聞いて納得。

気になって調べたのに全然情報が出てこない…と思っていたら、表記揺れが激しくてWikipediaには「ペーダー・セヴェリン・クロイヤー」で載っていました。「クロヤー」で表記されることもあるみたい。絵画派も「スケーイン」だったり「スケーエン」だったり「スカーゲン」だったりと、なかなか探すのに苦労する作家でした…

マリーイの表情が良かったです。室内の壁紙や小物から漂うあたたかみと、筆遣いも好きでした。

ヴィゴ・ヨハンスン「きよしこの夜」

単純に好きでポスカ購入。この場面を切り取ろうという感性と、光の描かれ方がすてきだなと思いました…家に飾りたいタイプの作品。

ヴィルヘルム・ハマスホイ「室内」
ハマスホイ作品として、キービジュアルの絵よりもこちらのほうが印象的でした。
なんというか、うまく言語化できないけど見た瞬間に「『絵』のイデア」だと思ったのを覚えています。今まで見た色々な絵画の中で、群を抜いて「絵画らしい」作品、と感じたのですが、何をもってそう思ったのかは自分でもうまく説明できなくて、ただとても記憶に残る作品でした。

ヴィルヘルム・ハマスホイ「背を向けた若い女性のいる室内」
今回のキービジュアルになっている作品。
描き込まれている壺と盆の実物が一緒に展示されていたのが斬新でした。こういうのって初めての体験かも。
実物が物として置かれていることで、絵画により時間的な広がりを感じられました。当たり前だけど、今とは違う時代の人が実際にある風景を描いているんだな、ということが質量を持って実感できたのが面白かったです。


センスが話題のミュージアムショップ。
元々ブルーやグレーが大好きなのもあって、色遣いが好きでとても居心地の良い空間でした。

マグカップやトートバッグは頑張って自粛したのですが、キーリングは可愛くて買っちゃいました。写真だと色味がうまく映らなくて難しいけど、どこに付けても悪目立ちしないカラー。


今回の展示を通して感じたのは、彼らは確かに静かな自分のための空間として家を愛しているけれど、ひとりきりの家を心地良いもの、と思ってはいないのではないかということ。室内画であってもそこには基本的に誰かが描きこまれているし、ハマスホイの誰もいない室内画からある種の怖さを感じることも、その裏返しなのではないかと思いました。
個人的にここ1、2年の都美の企画展の中ではかなりのヒットだったので、再開したらぜひ足を運んでいただけたらな、と思います。

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