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I will give you all my love、っていうのは確かにロマンチックだけどさ

こんばんは。
初めてのチュウをロマンチックに書く。
そんなお題を賜り途方に暮れているめぐみティコです。
自分が男子とどうにかなることよりも、美男子(二次元)同士のいとなみを壁紙の立場で観察している方が美味しい、と思っていたJKだったので、自分の「やりまぁす」(小保方イントネーションで)という愚かしい返答に今更ながら呆れています。
(BLでロマンチックな初めてのチュウを書けるかといわれると書けない)

しかしながら、なんのはなしかは分からないけど、青春群像劇を書くことになったらしいので、書きます。
がんばる。長いよ。


小学校4年生の頃だったと思います。
当時の教室は、黒板に対し「凹」の字で机が並んでいました。
他の地域ではどうかわからないけれど、わたしが通った畑の真ん中にポツンと一棟スタイルの小学校では、当時はこの並べ方がスタンダード。
わたしは黒板に対してちょうど平行になる2列の後ろの席に座っていました。

音楽の授業でした。
わたしはピアノを習っているくせにというべきか、だからというべきか、音楽の授業が嫌いな子どもでしたので、いつも窓の外を眺めて過ごしておりました。

それは音楽の授業に限らずなのですが、今はそんなことはどうでもよろしい。
自分が司会の職員会議中に司会であることを忘れてしまうなど、今でもその片鱗は残っていますが、とにかく集中力に欠き、ほぼ全ての授業時間を妄想に生きる芋系女子小学生でした。
とはいえ、当時はまだ腐ってはおりませんでしたから、見目麗しい殿方(二次元)同士のちちくりあいは妄想していなかったと思います。

冷たい空気のにおいと畑からたちのぼる霧を胸いっぱいに吸い込み、霜柱を踏んだ時の音と感触を楽しみながら登校する季節。
窓ガラスが真っ白に曇り、校庭の様子は見えませんでした。

今日の夜には雪が降るかな、など考えていたわたしの耳に、突然リコーダーの『バラが咲いた』が飛び込んできました。
はっと左隣の席を見ると、クリボーに似た市川も、反対側の隣席の横田も、斜め前のちかちゃんもこずえもみんなリコーダーを吹いています。
ここからは見えませんが、前の席の山内も吹いているに違いありません。

ぼんやりしていて話を聞いていなかったのです。
だから先生の指示にも気づかず、リコーダーの音の中で一人完全に迷子になっていました。

あわてて机の上に出していたリコーダーを手にしようと目線を落としますが、見当たりません。
教科書は机の左側に寄せて置いてあります。
この上にケースに入ったリコーダーを置いていた記憶が確かにあります。
キョロキョロと周りを見渡すと、クリボー市川の机の左側にリコーダーが入ったままのケースと、右側、わたしの机にはみ出すように空になったケースが乱雑に置いて、というより投げ出されていました。

わたしはそっとはみ出ている空ケースを手に取り、名前を見ます。

「めぐみ ティコ」

母の丸文字で、確かにそう書いてありました。

クリボー市川はわたしのリコーダーを得意げに吹いています。
いつまで続くのでしょうか。
今バラが散り始めたところだから、少なくともあと1分はあるでしょう。
こんなに長い1分を当時のわたしは知りません。

バラよバラよ 心のバラ
いつまでも ここで咲いtプピョーッ

バラがいつまでも咲き続ける前に、汚ねぇ高音でクリボー市川の演奏が突然途切れます。
みんなの演奏はまだ続いているというのに、クリボー市川にはそれが分からないのでしょうか、自分が今まさに吹いていたリコーダーの名前を見てわめき出したのです。

「めぐみ、てめ、これお前のかよ!」

皆の演奏が止まります。
先生も含む全員の視線がわたしとクリボー市川に注がれます。
クリボー市川の顔は徐々に赤みを帯びてゆき、はじめの半笑いが消え、怒ったような表情を見せていました。

「うわぁ⋯⋯おぇぇ、汚ねー!  やめろや」

クリボー市川は甲高い声で叫ぶと、わたしのリコーダーを乱暴にわたしの机の上に置き、薄汚れた手の甲で自らの唇をぐいっとぬぐって自分のリコーダーを出しました。
わたしは名前シールが見える向きで放り投げられたリコーダーを握りしめ、教室を出て水飲み場へ走ります。
先生の声が追いかけてきましたが、立ち止まりも、振り返りもしませんでした。

お父さん、お母さん、ごめんなさい。
わたしは間違ってわたしのリコーダーを吹いたクリボーにえずかれ、汚いと罵られる残念な娘です。
彼は「やめろや」と言いましたが、勝手に間違えて勝手に吹いたのはクリボーの方です。
あの場において、わたしがやめられたこととはいったいなんだったのでしょうか。

仕方なかった。
彼はあの頃から一人称が「おれ」になり、そしてそのアクセントもマツケンサンバの「オレ~オレ〜」の1回目と同じだったのですから。
マツケンサンバアクセントで「おれ」という男子小学生は、総じて語彙が少なく、視野が狭いのですから、「やめろや」以外の言葉を持たないのかもしれません。

ちょっと男子ぃー、なんてミームにすらなる男子小学生ですから。本当に。仕方ないのです。
避けられる事故ではなかった。

名前シールに並んだ母の丸文字を思い出し、そしてこのリコーダーは父の給与によって買い与えられたものだということにも思いを馳せ、泣きたいような、連続で踏んづけて1UPしてやりたいような、どちらともつかない曖昧な気持ちを抱えながらリコーダーを分解し、歌口を洗いました。
何度も何度も、冬場の冷たい水に手がかじかみ、指先を真っ赤にしながらも、クリボー市川の唾液成分がわたしのリコーダーから完全消滅したと自分で納得できるまで。

これでわたしの初めての間接キス物語は終わりです。
その後彼とは中学校卒業まで学び舎を共にしました。
進学後急に背が伸びたクリボー市川はバレー部の美女と付き合い、わたしは長野まゆみや仮面の告白を読んでお腐れ街道を爆進していました。
そんな隠の者であるわたしが、他校に在籍していた金髪、あごヒゲのB系彼氏と18歳で出会い、26歳で婚姻まで至ったのは、なんらかの手違いか、または人生の最期に種明かしをされる壮大なドッキリのような気もしますが、今更「間違いだった」と言われてもどうすることもできません。

そして教室の「凹」の字の机の配置ですが、なぜこのような配置だったのか、今となっては理解に苦しみます。
とにかく、狭いのです。
机もぴったりくっつけないと全員座れません。
この狭さのせいで、どれだけの不幸なリコーダー間接キス事件が引き起こされてしまったか。
初めての恋人とペットボトルの飲み物を分け合ったり、フラペチーノをひと口交換し合ったり、そういうファースト間接キスを迎える権利は全人類にあるのです。
災厄に遭遇する悲劇の小学生をうまないためにも、机は全員前を向き、ひとつひとつ独立した形で並べるべきです。



なんのはなしですく


参加しています。61日め。

小学校って事件の宝庫だよね