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組織のなかで評価の報酬を決めるのは誰であるべき?(プロサッカーの事例から)

「企業では、誰が人の評価をして、誰が報酬を決めるの?」

日本企業でいうところの、事業部長クラス?部長クラス?課長クラス?それとも人事? 
正解ってあるのか?!

そういえば、これについて明確な答えが書かれた書き物を見たことがない。そのような問いも見たことがない気がするのです。それで、考えて見たいとおもったのです。

"わたしの評価がどんな風に決まって、給与がどうやって決まっているのかわからない!"という声が多くの企業で聞かれるのですが、そうした疑問へのヒントにもなるかなと。

正解があるわけではないだろうし、組織の特性によっても違うだろうけど、いわゆる「プロ集団」を目指すのであれば、真っ先に思いつくのがプロスポーツ。わたしはサッカーが好きですし、ビジネスがサッカーから学ぶことがたくさんあるので、プロサッカーからヒントを得たいと思ったのです。

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サッカーは1チーム11人で行うスポーツ。相手チームも合わせると、22人がピッチでプレーします。11人の内訳は10人のフィールドプレイヤーと1人のゴールキーパー。4年に一度開催されるワールドカップは、1チームの登録人数が23人と決まっています。その中でスタメンが11人(通常はスタメンにはキャプテンを含みます)、残りの12人は全員ベンチ入りできます。他には監督と、監督をアシストするコーチ。さらにゼネラルマネージャーがいますが、日本では、強化部長、チーム統括部長、スポーツダイレクターなど、クラブによって呼び方が異なります。ここではまるっとGMと呼んでおきます。

キャプテンと監督、そしてGMに注目して、誰が評価を決め、誰が報酬を決めるかを見てみます。

企業でいうと、(議論はあるかも知れませんが)
●キャプテン=課長
●監督=部長
●GM=事業部長レベル
に相当するのではないかと思うのです。

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【キャプテン=課長】
まずは、キャプテン。課長にプレイヤーとしての役割が期待される現代では、企業でいう課長に相当します。キャプテンはプレイヤーとしても、ある程度卓越していなければなりません。監督の意思をつたえ、みんなの手本となり、現場でピッチを仕切る。監督の意図をプレーしながら伝える。高い質の高いプレーで監督やチームメイトに認められることはもちろん、周囲から尊敬される人望をもっていることも重要です。

長谷部誠は5代の監督のもとで8年間にわたってキャプテンを務めあげました。著書『心を整える』では、監督の「言葉にしない気持ち」を意識的に考えるようになったと書いています。「クラブでも代表でも、新しい監督と出会うたびによく観察し、言葉にしない行間を読むようにしている」と。

【監督=部長】
次に、監督。企業で言えば課長の上だから、部長に相当します。監督は、試合前後とピッチの外で全体を俯瞰します。そして、布陣を整える。戦術をきめる。必要なら選手交代させる。必ずしも一流のプレーヤーでなくても良いとされます。かつて代表監督をつとめた岡田武史はこう言います。
「「監督の仕事って何だ?」といったら1つだけなんです。「決断する」ということなんです。」

監督とキャプテンの間には明確な役割分担があります。出場選手を選び評価し、勝負の責任をとるのはあくまでも監督、キャプテンは評価される側なのです!

これを企業に当てはめると、どうやら年次評価における評価者は選手とともにプレイをするキャプテン=課長ではなくて、その上の監督=部長ということになりそうです。

【GM=部長】
では、ゼネラルマネージャーはなにをするのかというと、GMの仕事は多岐にわたります。ひとつは、協賛企業や自治体などとの関係づくり。2つ目は、クラブのマネジメント、すなわち営業活動。3つ目がチームマネジメント。チーム戦略をもとにチームを編成して運用する。具体的には、監督の決定、選手のスカウト、監督や選手の評価、監督や選手との契約の締結など。監督が具体的な”試合戦術“を考えるのに対し、GMが考えるのは長期的な”チームの戦略“です。つまり、試合の結果に責任をもつのは監督で、GMはその上でチーム全体の中長期のマネジメントを行う。監督は今ある戦力でどういう野球をするかが肝心であり、それ以上ではありません。いまいるメンバーの日々の評価は監督=部長が行い、メンバーの出処進退、すなわち長期的な評価はGM=事業部長レベルが決めているということのようです。

評価については、なんとなくわかりました?!

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それでは、次に、報酬は誰が決めるの?

Jリーグ選手名鑑2017という本に、小見幸隆さんの記事があります。柏で数年間強化本部を率いたひとです。「Jリーガーの査定方法」という記事を書いています。以下、小見さんの記事からの抜粋です。

・ポジションによって評価基準が異なる。監督が5-10段階で評価する。
・試合ごとの採点表を集計して、計算式で評価を行ってから、マニュアルで調整する。
・クラブによって異なるが、何メートル走ったとかのデータを取っている場合もある。
・ポジション別に5段階または6段階の評価を試合ごとにしている場合もある。
・外国人監督の場合は、試合ごとに今日は何点と10点満点で点数をつける場合もある。とくに外国人監督は項目を細かくせずフィーリングで評価する。
・一般には、DFは守備重視、攻撃の選手は点に絡めたかどうかを評価する。
・査定会議の前に1年分溜まった評価表を足し算する。係数があって、計算式で年俸をある程度決められる。それをベースに個別の調整をする。
・予算を来季どれくらい出せるかを念頭において、予算を一人一人に割り振る。
・選手の査定会議には監督は入らない。強化部長(GM)を中心に大体4人くらいで、殆どのクラブがやっている。評価に基づいて予算を割り振る。

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小見氏の発言のなかで注目すべきは、監督は報酬を決める査定会議にすら入らないということです。

シーズン終了後のストーブリーグの契約更改の場には、監督は同席しない。査定担当者に加え、選手のクラスに応じて球団代表や社長までが同席するのが一般的なのだそうです。

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つまりどういうことかというと、評価は現場の監督=課長が、人事と報酬はGM=事業部長クラスが決める。評価する人と報酬を決める人は違うというのがミソです。

報酬って、単純に人のパフォーマンスで決まるのではなくて、もっと複雑。経営的な視点が多分に求められるものなんだとおもいます。

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成果主義という言葉が1990年代に日本で使われれるようになりました。これって、パフォーマンスが報酬に直接的に跳ね返るものだと誤解されているように見えます。でも、報酬はパフォーマンスだけにより決定されるものではありません。評価は報酬と結びつけているからこそ意味があると言われることもあるのですが、そうではありません。評価は複合的な報酬決定の一要素でしかないのです。Pay for performanceは誤りで、Pay for performance and other key criteriaが現実に近くて(より一般的にはPerformance related Pay)、ここでいうcriteriaは組織によって違ってよいのです。市場を基準にするかもしれないし、将来のポテンシャルに対して報いるかもしれない。内部バランスを重視するのもひとつのやり方だし、年功にもそれなりの意味はある。その組織が重きをおく価値観(values)次第だとおもいます。

最後に重要なことは、プロサッカーの世界では、報酬はあがりつづけるものではなく、下がることも普通にあります。

プロサッカーとビジネスの組織は違う面は当然あるのですが、「企業では、誰が人の評価をして、誰が報酬を決めるの?」の問いに対しては、大いに参考になりそうです。

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