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「心理的安全性」と「チームの心理的安全性」の微妙で大きな違い

昨年大ヒットした「恐れのない組織」の53ページに、こんなことが書かれていました。

「研究者の関心の高まりは、チームの心理的安全性という考え方と基準を紹介するある論文が、その後の研究で引用されている事実にも表れている。図2.2にしめす通り、その論文は繰り返し引用され、実のところ、1999年に発表されて以来、引用回数が毎年増え続けているのだ」

どうやらその1999年のAmy Edmondsonの論文が、心理的安全性ブームの火付け役らしいです。そうであれば読まざるを得ません。「Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams」という論文。読んでみると、さすがに学術論文だけあって、「恐れのない組織」よりも読みづらい。そのかわり、学びがありました。

(論文のダウンロードはここから可能)
https://www.researchgate.net/publication/313250589_Psychological_safety_and_learning_behavior_in_teams

論文はこう始まります。

「この論文では、チーム学習のモデルを提示し、フィールド•スタディで検証してみました。Team psychological safety(チームの心理的安全)という概念に注目しています。チーム心理的安全性の定義はこうです。
"A shared belief held by members of a team that the team is safe for interpersonal risk taking.”(チームの中で対人関係におけるリスクをとっても大丈夫だということがチームメンバーに共有される信念のこと)」

「恐れのない組織」の土台になっている論文なので、大筋は「恐れのない組織」に書かれている通りです。チームの心理的安全性とは、Group cohesiveness(集団凝集性)とは異なり、もっと緊張感がある現象を指します。チームの心理的安全性があるチームでは、メンバーは思い切って失敗したり、反対意見を発言したりできます。でも、これによって違う視点がチームに加わり、チーム学習が促されます。結果として、チームとしてのパフォーマンスが高まるというものです。

「チームの心理的安全性⇨チームのパフォーマンス」ではなく、「チームの心理的安全性⇨チーム学習⇨チームのパフォーマンス」だということが強調されています。

チームの心理的安全性なくしてチーム学習なく、チーム学習なくしてチームのパフォーマンスなしです。




論文を読んでみて、小さな発見がありました。それは、心理的安全性とはチーム単位での現象を言っているということ。しつこいくらいにTeam psychological safetyと書かれています。Psycological safetyではなく、Team psychological safety。チーム単位の話なのです。

確かに「恐れのない組織」の36-37ページには、こんな記述がありました。

「この研究によって、次の重要なことがわかった。心理的安全性は、単なる職場の個性ではなく、リーダーが生み出せるし生み出さねばならない職場の特徴だということである。さらに次のこともわかっている。私がその後研究してきたどの会社や組織においても、きわめて強力な企業文化を持つ場合でも、心理的安全性はグループによって著しく異なっていた

心理的安全性は、組織単位でも個人単位でもなく、チーム単位で醸成するものだというのです。




「うちの会社には心理的安全性がない。社長があんなだから」なんて話すリーダーがいがちです。

ところが、心理的安全性は、会社単位ではなく、チーム単位•リーダー単位の現象だとしたら、こうした発言は適切でないかも知れません。心理的安全性はチーム単位の現象なので、リーダー次第で醸成できるものです。リーダー自身が、関与するチームの心理的安全性を高めたらよいだけです。(社長を筆頭とするリーダーシップチームの心理的安全性が足りない〜というのほアリとおもいます)

同様に、チームと無関係に個人単位で心理的安全性の有無を話すのも適当ではないことになります。あるチームにいる自分は心理的安全性を感じられないけど、別のチームにいる自分は、心理的安全性を感じるかも知れません。「わたしには心理的安全性がない!」とか嘆く前に、自らチームの一員になろうとする気持ちやアクションが不可欠だろうとおもいます。仕事を成し遂げるにあたって、自分が他の人は達と相互依存していることに気がつかなければ、チーミングは始まらず、心理的安全性が生まれようもありません。

「この会社には心理的安全性がない!」と自嘲気味に話すHRもイマイチです。HRは、心理的安全性のあるチームを、組織の際の方からでも、少しずつ作っていくのが仕事です。

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その他にも、「恐れのない組織」(及びもう一つのAmyの著書「チームが機能するとはどういうことか」)では触れられていない、あるいは十分に語られていない論点がいくつかありました。私はむしろこちらに目がいきました。いずれの論点についても、その後様々な研究がなされているようでした。興味深いテーマです。


以下はいくつかの例です。

その1。
グループでは、各自が持つユニークなナレッジをシェアしたがらず、共通認識のある話題に終始しがち。結果として学習が促進されない。

Members of groups tend not to share the unique knowledge they hold, such that group discussions consist primary of jointly held information, posing a dilemma for learning in groups.


その2。
チームとしての時間の長さ(team tenure)は心理的安全性にとってさほど大切でない。

Controlling for team tenure revealed that its effects on team psychological safety were also insignificant. Similarly,team psychological safety, team efficacy, and team membership were significantly related to team learning behavior, while team type and team tenure again were insignificant. 


その3。
チーム心理的安全性はチームの歴史のなかで時間をかけてつくられる。

There was some evidence in this study that a team's history matters in shaping psychological safety. Shared beliefs about how others will react are established over time.





心理的安全性がない!とつい安易に言ってしまいがちなのですが、気をつけて使おうとおもいました

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