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HRの仕事がふっくら美味しいオムスビを作ることだとしたら〜オムスビ作りの3つのコツ

先日、人事の仕事は、優しく燃える焚き火をあちこちに焚くことなんじゃないかと書きました。『焚き火大全』という本を読み、「これ、人事の本じゃん!」となって、あれやこれや考えたものでした。

今度は、オムスビ。人事の仕事はオムスビづくりです!という話です。人事といっても広いので、なかでもHRBPという機能の話(HRBPはHuman Resources Business Partnerの略)。一般的には300-500人の組織に対して1人配置されます。組織のリーダーに寄り添いながら、人という側面に重きを置いて組織を変革していくのが主なお仕事とされてます。

きっかけは『大人のおむすび学習帳』という本をたまたま読んだこと。「なにこれ、人事の本じゃん?!」(全部人事の本に見えてくる。。職業病?!)

そもそも、私はオムスビが大好き。作るのも、食べるのも。画家•山下清の生涯を描き、「ぼ、ぼくは、お、おむすびが、好きなんだな!」が決め台詞の「ドラマ裸の大将放浪記!」の大ファンでもあります。だから、なんとかオムスビを人事に、なかでも私がキャリアの軸としてきたHRBPに仕立てあげたい!という欲求を抑えられなくなったのです。

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オムスビづくりはファシリテーション

早速ですが、ご飯でオムスビを握ってみます。

そのご飯はいつ炊いたものでしょうか?
冷めたカタイご飯で握っても、オムスビはうまくできません。タイミングをはかって、ご飯が熱いうちに優しく握る。そうすることで、お米粒が変形してくっつく。多少変形させて凸凹を組み合わせる。変化や相手を受け入れるマインド。心理的柔軟性があって、初めて心理的安全性がうまれます。心理的安全性のある組織をつくる。縦横斜めに組織や人を繋げる。自律自走の組織や人であればあるほど、繋ぎが大切です。そのためのファシリテーションがHRBPのお仕事です。

オムスビは、ご飯粒ひとつひとつが独立しています。お餅とは違います。「オムスビは手加減、ゆる加減」。握りは2-3回。握るというよりも、かるく、形を整える程度。リキんで形を整えようとしない。「介入」は最小限にとどめます。握りすぎてツブツブを潰して、お餅のようにしてしまうのはNGです。一人一人の個性が失わせず、むしろ生かしながらD&Iカルチャーを育む。食べている最中に多少壊れかけるくらいが楽しかったりするのです。

米の粒をコーティングするでんぷん質は空気があたることで固くなり、一粒一粒がしっかり立ちます。すると握った際につぶれず、ふっくら仕上がります。そのために、炊飯器の底から全体をまんべんなく返します。組織の上の方だけではなく、底の方の米にも活力を与えるイメージです。忖度して、炊けたご飯の上の方だけ掬って握ったりしないよう、要注意です。

オムスビ握る時間は、1分にも満たないでしょう。オムスビの勝負どころは、握り方より炊き方。オムスビを作る前の準備にじっくりと時間をかけるのです。オムスビのご飯を炊くときには「浸水時間は長めに、水分は普通に炊く時よりも控え目に」。単に水分を少なくするだけでは、時間が経つにつれておいしさが失われてしまうのだとか。そこで、浸水時間を1〜2時間程度と長めにすることで、カタめでもおいしさをキープしたご飯が炊けます。水分は「ルール」です。「ルール」は少ないのが吉です。その分、余計に時間はかかりますが、機が熟すのを待つ。ふっくらしたご飯を炊くには吸水は欠かせません。ルールを設けないとやらないのではなく、一人ひとりが自律して学ぶ環境をじっくり整えます。組織を統制するためのルールは最小限にして、時間をかけてでも自律した個人と組織を目指したいです。水分をたくさんいれたら、ベチョベチョになって、オムスビは美味しくなりません。

前の晩にお米を研いで水分を切ってから浸水し、冷蔵庫でひと晩冷やしてから炊くと、さらにおいしいご飯に仕上がるそうです。一晩冷やす。チームづくりには、パフォーマンスが一時的に低下するストーミングのステージが必要なように、オムスビにも準備期間の冷却は効果ありです。試行錯誤です。

オムスビは手作業で握ります。指の凸凹で程よく空気がはいるからです。空気はコミュニケーション。デジタルの時代だからこそ、ヒューマンな要素が欠かせません。セブンイレブンのオムスビも、炊き上がったご飯を人の手でほぐすそうです。具を挟む作業もすべて手作業。これにより、お母さんが握ったような、外はしっかり、中はふんわりしたおにぎりが生まれているそうです。「介入」は少なく、愛情はたっぷりと。

さて、オムスビができました。「はい、どうぞ召し上がれ」とならないのがオムスビの醍醐味です。オムスビが食べられるのは大抵、作り手がいないところなのです。

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オムスビづくりは仕組みづくり

オムスビを食べる場面。運動会や遠足のお弁当。コンビニのオニギリでも同じです。作ったオムスビが食べれる時、それは組織としてパフォーマンスが上がる時。その時、HRBPは影から見守るのみ。HRBPは陰の立役者、黒子です。最低限の介入でファシリテーションで個性を潰さず繋げて、組織が自律的に回る仕組みづくりをするのが仕事です。HRBPがいないと回らない組織を作ってはいけません。いないくらいがちょうど良い。

自律自走させるのは、組織(リーダー)、チーム(マネジャー)、個人。個人の自律を大切にする企業は多いですが、その割に組織やチームは画一的に運用することが多いようです。個人だけでなく、リーダーにもマネジャーにも自律を促したいです。一つの会社に一つの人事制度である必要はありません。オムスビの形は一つではありません。いろんな形のオムスビをつくっていくのがHRBPの楽しみ方です。チームを率いるマネジャーにもHRのアカウンタビリティーをもってもらいます。チームのメンバーを直接みているのはマネジャーだからです。組織、チーム、個人の三方よしをつくるのがHRBPです。オムスビの三角形のバランスをとる仕事です。

HRBPは、なかなか褒められないかも知れません。でも、いないところできっと喜ばれています。運動会が終わって帰宅した子供の笑顔が最高のご褒美になります。

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オムスビづくりはワクワクとさりげない気遣い

ここで、「こんなオムスビはイヤだ!」シリーズです。

食べるときになって、「あ、海苔がない!」なんてことは、ありがちです。海苔が巻いてあるだけで、お米が手につかず、食べやすくなります。お米が手にくっついて汚れる心配もないです。海苔のないオニギリは、ぼろぼろ崩れて食べづらい。作るだけ作って、あとは知らない!は無責任です。食べるときになって組織がバラバラにならないよう、良いHRBPはちょっとした気遣いと、仕掛けをつくっておくのです。食べるときに、ボロボロ崩れかけて「あ、やばい」というときに、海苔がいい感じで拾ってくれたりするのも、オムスビの楽しみ方の一つ。

ガッカリのもう2つ目のパターン。「あ、味がない!」。塩がついていなかったなんてことも、時々あります。ご飯の甘みは冷めると感じにくくなります。だからお塩をつけた方が美味しくなります。よく「スイカに塩をかけると甘くなる」と言われています。甘味と塩味の相性によるものなのです。ほどよい塩味は、甘味を引き立てる効果があります。おはぎ、大福、みたらしだんご。甘さを引き立てるため、ほとんどの甘味には塩が使われています。そのうえ塩は保存にも効きます。サステイナブルな組織にするための知恵。古来から受け継がれてきた知と技=スキル。HRBPには「塩少々」が必要です。現場に甘く接するだけではダメ。現場のパワーを最大限引き出すためには、長期的な視点をもって、時には厳しい姿勢も必要です。リーダーのパートナーになるためには、時にはバチバチぶつかることも楽しみたいです。塩がオムスビのなかでまばらに混じることで、"味の凸凹"が生み出され、美味しさを引き立てるのです。"味の凸凹"があるから楽しみが倍増します。

最後のガッカリは「え?!具がない!」。オムスビの真ん中にある具は、人をワクワクさせます。

「このオムスビの具はなんだろう?!」

具は組織の目標•目的。HRBPはファシリテーターと書きました。組織開発ファシリテーターの長尾彰さんは、ファシリテーションをこう定義します。

"より良い関係を築きながら、共通の目的•共通の目標を達成したり実現するための、働きかけまたはそのための営み"

HRBPの大きな役割は、オムスビに具を組み込み、メンバーをワクワクさせることです。

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オムスビは庶民性と神聖を繋ぐ

最後に、オムスビ作りのコツをまとめると、こうなります。

•オムスビづくりはファシリテーション(タイミングをはかって、ご飯が熱いうちに優しく握る。握るというよりも、かるく、形を整える程度。底からまんべんなく。水分控えめ。思い切って冷やす。手作業。)
•オムスビづくりは仕組みづくり(作り手は黒子。作ったハナからたべない。運動会が終わって帰宅した子供の笑顔が最高のご褒美。)
•オムスビ作りはワクワクとさりげない気遣い(海苔、塩、具を入れるのを忘れない。)

携帯食としてだけではなく、日常的に食べられる日本のソウルフード。庶民の食べ物です。多くの人の思い出の中にオムスビは、人によって別々のオムスビです。

オムスビは、ウカミノミタマ(稲の霊)が宿るお米を、神がいる山の形にして、男神のタカミスビノカミと女神のカミムビノカミに供えたことが起源だそうです。実は神聖な食べ物でもあります。

HRBPの仕事は、地に足のついた庶民的なものです。同時に長期的視点に立って、ビジネスのみならず社会全体を俯瞰して、時にはHRのスコープを超えて、組織のメンバーにコーチングやメンタリングして、導くことも求められます。時にはビジネスに対してNOと言うことも必要です。また、HRBPの仕事は綺麗事だけではありません。メンバーに対して厳しいコミュニケーションが必要になることもよくあります。庶民性と神聖。両立は決して簡単ではないです。それでも、気持ちを結ぶオムスビは、食べる人にとって特別なオムスビになるでしょう。

オムスビづくりをHRBPの仕事に掛け合わせてみたら、思いの外楽しかったです。

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