オールナイト


早朝までオールナイト上映を観た。
映画館を出て水色と灰色を混ぜた色の街を歩き、駅へ向かっていた。目を閉じるとついさっきまで観ていた映画の場面が映し出されるくらいの温度感が残っていた。基本的に街に人はいなかったから、それ以外のことを考えることもなく、自分の中身の部分がしっかりと認識できた。その時間が心地よくて、幸せだと思ったし、そんな今を感じている私が私にとって少し特別だった。
駅に着くと、終電に乗れなかった(乗らない選択をした)人たちが集まっていた。さっきまで誰も居なかったのに、ここに皆集まっていたんだと思った。
ほとんどがテンションが異様に高いか低いかに極端に振れていて、おそらく飲み会終わりなんだろうと察せられた。だけどその中にポツリポツリと落ち着いた様子の、見覚えのある人たちもいた。
映画館で一緒に夜を明かした人たちだと確信した。
それがなんだか誇らしかった。
電車に乗ってしまうと、先程までいた戦友達とは少しずつ離れ離れになっていった。駅に着く度に見失い、希釈されていった。
それまで私にとって少し特別だった私も、少しずつ少しずつ一緒に薄まっていった。電車の中を見ると、席に着くなり爆睡してしまった人たちばかりだった。隣の人なんかは、体から力が抜け切っていて、ちょっとした揺れがあるたびに体温をしっかりと認識した。熱く湿度を持っていて、最悪だった。みんなまだ夜の余韻の中にいた。側からすれば、私もその中の一人に見えるのだろう。そう思うとなんだか、飲んでもいないアルコールが心の底を波打つようだった。だけど目の前のピンクのワンピースを着た女がDIORのバッグを大事そうに抱えながら、おそらくチャールズアンドキースのものであろうパンプスを両足脱いで爆睡してるのを見てると段々と腹が立ってきた。誰も私のことなんて見ていないことは分かっているけどどうしても悔しくなった。私は私を取り戻さなくちゃならなかった。このまま一緒になって意識を無くして、電車の揺れに合わせて肩を寄せ合うのではなく、抵抗をしなければならなかった。私は背筋を伸ばして外を見た。電車の外から差し込んでくる朝日を見つめた。朝日は、ビルとビルの隙間からさすがに強引だと思えるほど主張していた。暗闇に慣れた目には優しくなかったけれど、目をそらしたら何かが負けだと思った。

私は一人でこういう抵抗をし続けている。小さなところで。何にも変わらない抵抗をし続けている。いつもいつも。やめた方が楽になるのに、意味なんてないのに。私のために抵抗している。

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