「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」を読んでみた

はじめに

ただいま僕は、広告代理店としてクライアントの支援をする際に一番重要になるのはリサーチだと感じており、そのリサーチの有効性を高める為の方法を模索している真っ最中です。

そんな中で、現在コーチングをしていただいている方から、森岡さんのジェットコースターが後ろ向きに走ったやつの本読むと良いと思うよ。とオススメされたので本書を手にしました。

いざ手にしてみると、確かにリサーチ方法のヒントになる内容が詰まっていますが、それに付帯して、マーケッターとして必要な価値観などが沢山詰まっている本だな。という印象を受けました。

今回のnoteでは、本書を読んで学びにつながったリサーチのヒントと、本書を読んで感じた自分も大切にしたいと思った価値観についてまとめていきます。

■書籍の紹介
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USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?

出版社:角川文書

著者:森岡 毅

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イノベーションフレームワーク-4つの要素-

森岡さんは名実共に日本を代表するマーケッターです。そんな森岡さん本人が本書で「自分はクリエイティブな人間ではありません。」と明言しているのは意外だなと感じました。

ただその中でヒットを量産できているという事はアイディアをひらめくための成功法則があるはずで、それに則った行動をきっと自分はしているのだと思うという内容が本書に記してあります。

それがこれからお伝えするイノベーションフレームワークです。

イノベーションフレームワークには4つの構成要素があります。下記に4つそれぞれをまとめます。

①フレームワーク

フレームワークと森岡さんが話している内容を自分なりに言い換えると、課題抽出の為のセグメントだと捉えています。

アイデアを考えるにあたって「どこに宝が埋まっているか」に予想をつける戦略眼、それが「フレームワーク」の役割です。フレームワークを駆使することで、広大な畑のどこに宝が埋まっているのかを推理して見当をつけてから、ようやく手足を動かして掘り始めるのです。

これを実施することにより、考えるべきポイントを絞れるので、効率的にリサーチやアイディアの捻りだしを行えます。

本書では、更にどのようにしてこのフレームワークを実施して行くか迄も記載されています。

一つは、戦略的フレームワークとして、解決すべき課題を抽出してそれをクリアできる条件を箇条書きで洗い出すというもの。

着目するべき点を明確にすることによって、アイディアを考えるべき範囲を定める事ができます。同時に考えなくていい範囲(捨てる領域)を明確にできるので、有効性が高いものに時間や意識を集中させることができます。

もう一つは、数学的フレームワークとして、何を解決するためのアイディアなのか?アイディアと結果はロジックで繋がっているか?という事を意識するように記してあります。

実務では需要予測モデリングや重回帰分析などの統計的な事を多用しているようですが、本書では、先ずはアイディアと求めたい結果の因果が破綻していないかを注視する事が重要だと説いています。


自分の事を振り返ると、実際に自分がリサーチや課題改善を考えようとする際には、ロジックは意識していますが、本書でいうところの戦略的フレームワークは実践していませんでした。。

なので施策を進めようとしているうちに別の問題が出てきて、計画から練り直しになったという記憶が過去あります。

文面でまとめてみると、基本的な事だなと思いますが、森岡さんがこの事を説いているという事を考えると、やはり基本的を忠実にやる事が全部のベースになっているんだなと感じました。

②リアプライ

リアプライは再活用するという意味だそうです。

僕は普段使わない言葉ですが、この言葉には単純な「資源の再活用」という意味合いと、噛み砕いて表現すると、「パクる」という意味合いがあるようです。

フレームワークで考えるべきアイデアの必要条件が明確になったら、最初に世の中に目を向けましょう。この世界中のどこかに、過去から現在に至るどこかに、似たような問題に直面した人がいるのではないか?と疑ってかかりましょう。世界中からアイデアを探すのです。

他社で上手くいっているビジネスモデル・セールストークがあるならば積極的に自社にも取り入れるべきだという考え方と捉えています。これに異論を唱える人はあまりいないのではないかと思います。

問題はその情報を集めるレーダーの感度と受信の広さです。

いつもベンチマークしているライバル企業が上手くいっている方法をパクるのはそこまで難易度は高くないです。なぜなら普段から見ている相手だから。

ただWebが発達した現代では、情報が出回るスピードがあまりにも早く、大抵の場合は競合がやっている事をマネする後発の施策になってしまう傾向にあります。

そうなったときに目をやるべきは世界の以外の同業はどうやっているのか?あるいは別の業種のビジネスモデルで流用できるものは無いか?という視点になります。

USJの例で伝えると、スパイダーマン・ライドを4K3Dにアップグレードさせたアイディアは、ユニバーサル・オークランドで先行していたアトラクションを「パクる」リアプライだったそうです。

外からアイディアを盗んでくる事で、圧倒的なスピードと、どこかで実際に消費者に試されている事による成功確率アップの2つのメリットを享受することができます。

特に僕は広告代理店に勤務しており、沢山の業界の情報を集めやすい環境に身を置いています。なので他社の情報をかき集めて、戦略的フレームワークの中で不足している情報は自分の足で探しに行き、少しでも成功確率を上げる為の行動をしなければなと感じました。

③ストック

これは、リアプライの内容の続きになりますが、集めた情報はストックしていきましょうという内容です。

いわゆる引き出しが多い人はこのストックをたくさん持っている人という事になります。アイディアを出していくうちに思いついたものについては、ボツ案だとしてもメモに残しておくなどしておいた方が良いと思います。

今回の条件では適応できなかったアイディアだけれども、状況が変われば採用できるアイディアである可能性もあります。またそのアイディアがヒントになって別のアイディアが生まれる可能性もあります。何か記録に残さないと忘れてしまうものなので、良いアイディアだなと思ったものについては、その時使う使わないに限らず、保存をしておきましょう。

また本書ではこのストックは個人に限ったことでない。という事も記してあります。

「ストック」に関連して1点だけ追加しておきます。チーム力としてストックを増やすことも大事だということです。個人の経験知識もストックですが、それらを組み合わせた人の繫がりも強力なストックです。自分一人の中で全てを蓄えるのは難しいので、それよりも蓄えている人の力をお互いにうまく活用するのも大事なことです。

これができるのが組織のチカラであり、代理店がクライアントに価値提供しやすいところだと思います。

代理店サイドには自然と沢山のクライアントの情報が蓄積されています。一方クライアントサイドから見ると他社の情報は欲しくても中々手に入らない情報です。それをまんま伝えるのは当然NGですがNDAで守られている範囲内で提供するだけでも価値提供になります。

だからこそ、代理店サイドの人間は、社内の情報共有を進めなければいけないし、それを促進させたいのであれば、自らの情報発信を怠らないようにしなければなりません。

④コミットメント

4つの要素の最後は精神論です!

フレームワークで考えるべきポイントを洗い出して、リアプライでアイディアを探して、ストックの中から情報を洗い出したのであれば、最後は考え着くまで考え抜く事です。

少なくともそこまで情報が揃っているのであれば、アイディアが浮かばないはずがない。という考え方で、森岡さんはコミットメントをして毎日思考を巡らせていたようです。

精神論については語るのが難しいですが、過去読んできた書籍も踏まえてコメントをするのであれば、「可能性が0%のところに全力をつぎ込んでも意味がない」ということです。

本書で森岡さんがアイディアを出すための精神論を記していますが、それはあくまで勝利に繋がる可能性があるという前提の上で、成功確率を如何に高くできるかという話での精神論になっています。

可能性が0%のところで頭を悩ませるのは時間の無駄になってしまうので、最後は精神論だとしても、そこに行きつくまでに如何にロジカルに土台を構築するのかが重要だと感じました。

僕はクリエイティブ的な思考力は乏しい方だと自覚しているので、だからこそ思考の土台になる、フレームワークやリアプライなどを徹底的にやっていこうと思います。

最後に:対象のコンテンツをやり尽くすこと

これは、イノベーションフレームワークの話とは全くの別枠になりますが、本書の中で印象的だった一文があったので、最後に感想としてまとめます。

印象に残った一文とは「400時間の風圧」というものです。

本書の中で太字にもなっていない比喩表現の一つでしかないのですが、僕の中では一番心に残った一文でした。

何で「400時間の風圧」をフィーチャーしているかとすると、この比喩表現に使われている元ネタが、ニッチな内容だからです。


話の概要は、USJの追加施策として「モンスターハンター」のブランドが需要がありそうというデータを見つけ出し、モンスターハンターを導入するために、カプコンの本社に熱弁をしてお願いをしに行った。というものでした。

その誘致をする為に、森岡さんは「まずは消費者視点を知らなければならない」と考えて、PSPとモンスターハンター2Gを購入して実際にやってみたそうです。そしたら知らぬ前にプレイ時間が400時間を超えていて、自分自身がモンスターハンターのファンになってしまい打ち合わせのプレゼンに熱が入ってしまったと記してありました。

▼一部抜粋

モンハンのコンセプト、世界観、アートディレクション、音楽など、どれをとっても素晴らしいクオリティーで、世界最高のブランドを集めたいUSJとしては是非とも組ませていただきたいと懇願しました。
「400時間の風圧」に押されて、私の口からはとめどなく言葉が溢れ出てきました。

実は僕自身もモンスターハンターシリーズの大ファンで、プレイ時間は各シリーズ999時間を超えるほどやり込んでいます。

きっとモンハンをやり込んでないと反応しにくい比喩表現だと思うのですが、モンハンの攻略要素の一つとして「風圧耐性」というものがあります。

これはゲームの中の話ですが、この風圧耐性が無いとモンスターが飛び降りてきた際にモンスターの風圧でプレイヤーがよろめいてしまい、数秒行動不能になってしまうという仕様があります。

ただこの風圧耐性は、ある程度やり込んでいる人でないとあまり意識されない要素だったりします。そこから考えると、森岡さんは比喩表現で「風圧」が出てくる程にモンハンをやっていたんだな。と想像できます。

これまで読んだビジネス書の中でも、消費者視点の為に実際に試すことが大切という話はよく記載されている内容で、自分自身もクライアントのサービスは可能な限り自分も受けてみる。あるいは商品を買ってみるという事は意識しています。

ただシンプルに森岡さんとは消費者視点を見てみる練度が違うな。という事を感じた一文でした。

今後リサーチを進める際には、本書で記載されているイノベーションワークフレームを実行していく事もそうですが、別軸で消費者視点を理解する時に、足を踏み入れてみる程度ではなく、そのコンテンツにのめり込むレベルで体験してみようと思います。


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