【他者と働く「わかりあえなさ」から始める組織論】を読んでみた。
はじめに-本書を読んだ所感-
本書は経営戦略・組織論を研究する埼玉大学の准教授が執筆した書籍です。
内容は他者との関り方について。
世の中、正しい知識だけでは上手くいかないことがたくさんあります。
何故なら自分にとっての正しさと、相手にとっての正しさには隔たりがあるから。
非常に厄介なこの問題を解決する為のアプローチが、この本には示されています。
対クライアント、対社内の上司・部下・同僚、様々な状況下で起こりえる「認識のズレ」という言葉を、本書では「ナラティブの溝」というような言葉で言い表しています。
詳細は後述しますが、個人的には認識のズレを無くすよりも、ナラティブの溝を渡るという表現の方が具体的な実践のイメージが湧いてきました。
正しさだけでは上手くいかないコミュニケーションの方法について、下記にまとめていきます。
■書籍の紹介
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他者と働く-「わかりあえなさ」から始める組織論
出版社:株式会社ニューズピックス
著者:宇田川 元一
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ナラティブとは?
ナラティブという言葉は、本書を読んで初めて知りました。
「ナラティブ=物語」と訳されるようですが、起承転結的なストーリー(物語)とは意味合いが違います。
イメージとしては、その物語を作り出す環境や、当人の解釈を踏まえた枠組みの事を刺します。
「過去から現在までの物語」+「個人が置かれている環境」+「当人の思考のフレーム」=「ナラティブ」と認識するのが近いと思います。
ナラティブは1人1人別々のものを持っています。
例えば上司と部下の関係で考えてみると、
上司は、部下を成長させたい。能力を発揮して欲しいと考えているはずです。ただ一方で部下には従順に従って欲しい。組織の構成員としての動きをして欲しいというナラティブを持っています。
部下は、上司はリーダーシップをとるべき人。管理ができる人。売り上げを作る人。というような期待を持ち、それにそぐわない言動を持つ上司には不満を感じるはずです。
このように、上司と部下の関係では、「上司/部下であればこうあるべき」というような思考のフレームを持っています。
これが、上司と部下の関係に見えるナラティブといえます。
他にも書籍で紹介されている例ですと、「リストラ」についてのナラティブも分かりやすい例でした。
比較されいたのは日本とアメリカのナラティブの違い。
リストラと聞くと、日本では「雇用問題」として、リストラ対象の今後の生活等に視点が行き、マイナスなイメージが強いです。
一方でアメリカでリストラがあったときに注目されるのは、その会社の今後の経営状況なのです。
リストラ=リストラクチャリングは従来「再構築する」という意味のものであり、アメリカにおけるナラティブでは、戦略的経営判断の一つでしかありません。
ちょっとした視点の違いではありますが、日本人である自分にとっては「リストラ」と聞くとやはり雇用問題のイメージが強いです。それで言うと「ナラティブ=個々人にとっての一般常識」というような捉え方もできるかもしれません。
先述しましたがナラティブは個々人で必ず違うものを持っています。そして違うナラティブを持つもの同士の間には、
「自分はこうだと思っている」VS「私はこうあるべきだと思っている」
というような溝が生じてしまいます。
これが本書のテーマである「ナラティブの溝」です。
この溝を渡り歩いていく事が、他者と関わりあっていく為には必要な作業であり、認識のズレが起きてしまうという課題を抱えている人間が向き合うべき事象だと感じました。
ナラティブの溝に橋を架ける4つのプロセス
違うナラティブを持っている同志のものが対話をするためにはどうすればいいのか。
そのためには、お互いのナラティブを理解した上で、その溝に橋を架けて「分かり合う」という事をしないといけません。
ただ、無計画に「自分はこう考えている。あなたはどう思っている?」と聞いて意見が衝突してしまっては意味がありません。
対話しようとして対立してしまっては元も子もないので、対話を試みるには、事前準備に重きを置いた4つのプロセスが必要と本書には示してあります。
ここからはその4つのプロセスについてを解説していきます。
①準備‐溝に気づく‐
先ず、相手がいう事を聞いてくれない。思い通りに評価してくれない。のような状況が起きているのであれば、一旦は自分のナラティブを横に置いてみて対話をするための準備をする必要があります。
少なくとも、「なんかうまくいかない。」「信頼されていない気がする。」という状況に陥っている時点でナラティブの溝は生まれています。
相手には相手のナラティブがあり、それは自分とは違うものなんだという事を認識する事。
自分のナラティブを押し付けることに意味がない事をまずは認識して、一旦落ち着いてみることがスタートラインです。
②観察‐溝の向こう側を眺める‐
準備で自分と相手のナラティブに溝がある事が分かったら、次は溝の向こう側にある相手のナラティブを眺めてみることが次のステップです。
じっくりと相手と相手の周囲を観察してみます。
例えばそれが自分の上司だとすれば、
「上司が大切にしている事は何だろうか」「上司はこれまで何を評価されてそのポジションを手に入れたのか」「上司がその上から求められている事は何だろうか」「上司の今の悩みは何だろうか」
などなど、相手のナラティブを現在だけでなく過去も踏まえて知りうる限り観察してみます。
そうすると相手のナラティブがどのようなものなのか何となくイメージができてきます。
この観察を先入観にとらわれず事実ベースで行う事で残りのステップの精度が大きく変わります。
③解釈‐溝を渡り橋を設計する‐
観察することで相手のナラティブがどのようなものかイメージができたら、次はその相手のナラティブから見たときに自分の言動がどう映るかを考えてみましょう。
ここで相手のナラティブから見るのは、自分の実際に行った言動のみです。その時どう思っていたかなどは考えずに、あくまで相手のナラティブから見て、どう映っていただろうか?という点だけに集中して考えてみます。
相手のナラティブ(仕事の責任・やりたい事・上手くいっている事・上手くいかない事)をシミュレートして、その中で、自分のナラティブと利害が一致する場所を探してみます。
この作業を行うと、自分と相手の認識のズレがなぜ起きているのかが見えてくるはずです。
④介入‐溝に橋を架ける‐
お互いの利害が一致している点が見つかったら、最後はそこに橋をかけに行きます。
橋をかけに行く=新しい関係性を築く
という事になります。これは、相手の要望に頷く形になることもあれば、新しい代替案を提示して解決することもあります。
タイミングを見計らって、相手のナラティブから見て、プラスになると思われる行動をとってみることが大切です。
例えば、自分は評価を得たいと思っているが、うまく評価を得られないという状況にいて、相手が管理業務を得意としているのであれば、「自分の管理領域+αの事をしてみる。」「相手が普段実施している事を先回りで進めておく」など、あくまでも相手のナラティブの中で重要な事柄に対して、アプローチをしてみます。
例えそのアプローチが自分の苦手な領域だとしても、「評価」という点において利害が一致するのであれば、そこに橋をかけに行かなければなりません。
自分のナラティブの中で、自分が正しいと思う事をやっている限りは相手との対話は成り立たないという事です。
まとめ
今回は他者との関わり方、中でも「ナラティブの溝」についてをまとめてみました。
本書にはこの後にもまだまだたくさんの具体的なアプローチが示してありますが、今回は中でも最も実践しやすいであろう部分についてを抜粋しています。
特にナラティブの溝を埋めるための4つのプロセスは、僕の場合は対クライアント、対社内など、にいろんな相手に対して実践すべきものだと感じています。
先天的なコミュニケーション能力に恵まれなかった人間である以上、後天的にコミュニケーション能力を付けるために、相手のナラティブは何かを考えて、利害の一致点を探して、そこに愚直にチャレンジするという事を実践していきます。
スキルの問題で上手くできなくても、相手の求めることに対して、努力をし続ける姿は見ていてくれると信じてやってみます。
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