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『ひとりぼっちの地球侵略』Valentine's Day/White Day【エピローグ】

※    ※    ※


先輩。

会いに来たよ。

……。

ごめん、起こそうとか、起きてるかなって期待したとか、そういうんじゃないんだ。

ただ、その……ここに来たくなったんだ。届いてるとは思わないけど、ここで少し喋らせて欲しいんだ。

……。

えっと。実は今日って、ホワイトデーなんだ。3月14日。

思えばバレンタインデーのときも先輩は寝ちゃってたから、そこから話さないといけないんだけど……。

俺、チョコ、貰ったんだ。義理チョコだけど。

1年2組のみんながくれたんだ。

凪がいなくなって、辛いだろうけど頑張ってほしいって、クラスの女子が作ってくれたんだ。古賀さんが代表して渡してくれた。

チョコ貰うなんて今までほとんどなかったからさ、びっくりした。

いつもは、こういう日って凪が主役だったんだ。あいつ、年上から好かれてから、いつの間にか何個もチョコ抱えてて、俺に自慢してきてさ。

別に羨ましいとは思わなかったけど、どうやってるんだろうって不思議だった。

だから、これからもう、それを見られないって思ったら、やっぱり寂しくなったんだ。

……。

あ、そうだ、おんなじ日にアイラさんが店に来てくれたんだ。

丁度閉店間際で俺も店の手伝いしてたら、アイラさんが汗だくで駆け込んできて、「裏の書店ってまだ空いてる!?」って聞いてきて。

「龍兄ならまだ書店にいますよ」って答えたら、凄い形相で睨んできた後にまた書店まで走ってって。その後は書店で龍兄と何か話してたんだけど、結局その後は帰っちゃったみたいだった。後で龍兄と会ったら紙袋もってたし、多分チョコ貰ったんじゃないかな……。

あ、でも龍兄甘いもの苦手なんだけど、それちゃんと分かってたのかな……後で龍兄に聞いてみようかな。

……それで、えっと……。

今俺、じいちゃんとお菓子の作り方なんかも勉強してるんだ。それで……。

本当はお返しで渡すものだと思うんだけど、これ、チョコ。

ここに置いとくよ。

……。

……先輩が眠ってる間にもさ、いろんなことがあって。リコと特訓なんかしたりして。こうやって新しい料理も覚えて。毎日が進んでいくけど……やっぱり、先輩がいないと心配だし、寂しいよ。

だからさ、このチョコは、日頃の感謝と、お礼。

いつも一緒にいてくれて、助けてくれて、ありがとう。

今はこうして会えないでいるけど……信じてるし、待ってるから。

……。

はぁ、思ったよりも疲れたな……久しぶりに来ようとしたから道を間違えちゃって……。

…………。

……先輩……俺……待ってるから……。

……………………。

…………………………………………。




※    ※    ※


広瀬くん。


広瀬くん。



ひーろーせーくーん。


寝ちゃったの? 仕方ないなぁ。

まぁいいわ。そのおかげで、こうして話しかけられるみたいだし。

広瀬くん、チョコレート、ありがとう。

それと、バレン……タインデー? に渡すものがなくてごめんね。

やっぱり、今は体を癒やすことに専念しないとダメみたい。

今起きると、広瀬くんたちに迷惑がかかる。

でも、寂しいっていう気持ち、私も分かるよ。

私がアイラと修学旅行に行ったときのこと、覚えてる?

ほら、通信機で楽しかったって会話したとき。

あのとき、本当に楽しかったんだけどね。

あー、今は広瀬くんが隣にいないんだなって、そんなことも思ってね。

もし広瀬くんがあのときの私と同じ気持ちなら、やっぱり寂しいって感じるのかな。

……。

私から、チョコのお返しは今はむり。渡せない。

だから、できることと言ったらこれくらいしかなくて。

ほら。




……なんか、眠る前とおんなじことやってるね、私。

それじゃあ、もういくね。まだまだ寝ないといけないから。

信じてくれて、ありがとう。

待っててくれて、ありがとう。


春には必ず、会いに行くからね。



※    ※    ※


広瀬岬一は目を覚ました。

ゆっくりと身を起こし、顔を上げる。

青空は遠く、未だに季節は冬だと主張するように、冷ややかな空気が頬を撫でる。

それでも、春の訪れは間近に近づいている。

その温かみを、何故だか額に感じた気がした。

思わずおでこを触る。自分の確かな体温が伝わってくる。

……きっと気のせいなのだろう。大鳥先輩はまだ目を覚まさない。

夢を見ていたような気もするが、こうして覚えていなければ同じことだ。

――なのに、返事をすべきだと思う自分がいる。

振り返って、バスを仰ぐ。

「……うん」

それだけ言って、広瀬岬一は秘密基地を後にする。

先ほどまで彼がうたた寝をしていた草むら。

そこに置かれていたはずの贈り物は、まるで最初からなかったかように、キレイに消え去っていた。




※    ※    ※




エイプリルフール企画
『ひとりぼっちの地球侵略』二次創作


Fin.




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