2022年1月コロナ療養中〜復帰後の日記

・コロナから無事に復帰しました。
 療養中にも日記書いてたんですが、読んだ本の感想書ききれないまま止まってしまった。今後、感想文は加筆して別の記事としてまとめようかなとも思います。ただとりあえずアップしないと先に進めないのでそのまま出します。

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・コロナで自宅の書斎的な部屋にひとりマットレスを敷いて軟禁生活を送っております。
 幸いにして症状はだいぶおさまり、濃厚接触家族は検査結果セーフ。妻は朝昼晩と「受験勉強がんばりんさいや」という一言とともにご飯を戸外に置いておいてくれるという多浪息子ロールプレイをやってくださっており、ワンオペで家事子守もしてくれているので頭が上がらんのですが、かといって出ていって手伝うわけにもいかず、とにかく部屋に篭り接触を断つほかありません。
 逆に言えばつまり、部屋から出ずに寝たり本を読んだりするほかないのですよ! 部屋から出なくてよい……いやこんな時間を持つのがずいぶん久しぶりすぎて、謎の感銘に包まれているところは正直あります。
 おかげで読みさしの本も一気に読み終えたので、軽くメモしておきます。

・赤染晶子『じゃむパンの日』(palmbooks)
 新しくできたひとり出版社・palmbooksの初刊行の本。
 著者のことは、『乙女の密告』で芥川賞を取ったことと数年前に早逝されたことしか知らなかったけど、ひとたび読んでみたら、こんなに面白い書き手だったとは……!
 生前に新聞などで書かれた短いエッセイを50本あまり収めてある、ノートのような静かな佇まいの本なのだけど、意外なことに、まず何より笑えるんですよ。
 関西弁のセリフがいちいち絶妙な脱力を誘う小気味良さなのはもちろんですが、その周囲の、職人おまかせの握り鮨のごとくさくっさくっと出される短い一文のリズムがまた、言葉とエピソードのほんのりトンチキなところを際立たせてきます。何しろ一番近い読み味とテンポ感だなって思った作品、あの今最もおれの中でホットなことで知られる関西学園ホラーギャグ漫画、森とんかつ『スイカ』ですからね。
 野良猫だらけの自動車教習所のエピソード「安全運転」より引用。この回最高ですね。

「ええか、言うぞ。『右折』、言うぞ。五・四・三・二・一! 右折!」
 ふんっ! 左折しそうになる。教官がハンドルを右に回す。
「なんで、わし、お前とジャスコ行かなあかんねん」
 ここで左折したら、ジャスコだ。今日はいちごが安い。もう一度交差点がある。右折の指示器を出したら、右折だ。
「右折!」
 見事に右折する。
「今の右折はよかったぞ」
 大変褒められる。
「猫さんみたいやったぞ」
 最高の賛辞だ。
赤染晶子『じゃむパンの日』P29-30

 それでいてやはり、巧みなエッセイの常として、名もなき暮らしの底に流れる哀しみや愛おしさが隅々から香り立つ。小児病棟の話なんかもユーモアに満ちた書きぶりなんだけど、やはりそういう場所の話では子供たちの眩しさの後ろにやっぱり少し影が差しているし、それこそ著者の故郷である京都と一時暮らした北海道の比較のエピソードも、まさしく北海道の光と京都の影の対比で書かれていて、魅力的な二面性を持つ書き手だということを知った。
 この本は刊行されるや好評を呼んで早速2刷がかかったそうで。赤染晶子のエッセイ集、というのがもし大手の文芸出版社から仮にいま出されていたとしても、なんとなくそこから出る数多の刊行物の中に埋もれてしまってやんわりと初版止まりで静かに新刊本としての運命を終えてしまっていたんじゃないか、と想像してしまう。いや、正確には、こういう本こそひとり出版社によって、つまりひとりがひとつの本にすべての体重を預けて推すという形で世に出されるのがベストだったのかもしれない、と思う。

・続いて矢野利裕『学校するからだ』も読了。
 や、この本も素晴らしかった……。かのベストセラーであり名著、ブレイディみかこ『ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー』を連想した。
 ともすれば尾崎豊的ステレオタイプ、つまり大人による支配と子供による反抗、という二項対立の片方に置かれがちな学校という空間。そのなかで日々立ちあらわれる、単純な図式では割り切れない生のコミュニケーションは、音楽をはじめ体制からの逸脱を是とするカルチャーにどっぷり浸かって、批評家として活動しつつも教師という生業を選んだある意味アンビバレントな立ち位置の著者だからこそ描き出せたものだと思う。
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・矢野さんの本の感想はもうちょいじっくり書きたい。他にも実話怪談本を久しぶりに2冊読んだりした。これもまた改めて。

・で、復帰するときは溜まったタスクのやばさを思って本当に出社拒否になるくらいメンタルがやられてたんだけど、なんとか出てなんとかこなして今に至ります。やってみれば思ったよりなんとかなるし、しばらくやってるとやっぱりどうにもならないことが改めてわかったりもする。
 体調は、咳はまだ引きずってるけどもほぼ元に戻った。年末に風邪引いた時からやんわり禁煙していたのが結果的に良かったのかもしれない。ワクチンもオミクロン対応の4回目打ってたし。
 しかし会社戻るとやはり同時期に感染していた人がこれまでとは比較にならない数いて、どう考えても今までで一番まずい感染状況なわけだけど、自分も含めた世間の落ち着きぶりに、慣れって怖いなと思う。毎日500人死んでるし自分もそのひとりになる可能性はあったのにね。

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