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ささやかな革命

ささやかな革命


『幸福の硬貨』


 
古民家カフェ紫苑さんで焙煎してもらったエチオピアの珈琲・イルガチェフG1をじぶんだけのために豆から丁寧に淹れ、CDをかけて、「さあ」というきもちで新しいパソコンに向かう朝です。

クラシックギタリスト福田進一さんのCDは、平野啓一郎さんの小説『マチネの終わりに』のサウンドトラックアルバムといってもいいでしょう。小説の中で、ギタリストの蒔野聡史が弾いた印象的な曲が散りばめられ、作中の架空の曲『幸福の硬貨』も「再現」されて、原作ファンにとっては夢のような内容となっています。
私は2017年1月7日(土)の『マチネの終わりに』スペシャルコンサートにも行きました。会場は、物語にも登場した白寿ホール。難聴気味の私にとって、大きなコンサートホールでのクラシックギターの繊細な生音は、かなり聴こえにくかったものの『幸福の硬貨』の
“世界初演"の場に居合わせることができました。サイン会では、福田進一さんと平野啓一郎さんにサインをいただき、平野さんにファンレターを手渡しできて、満悦至極。
 
・・・そんなことを懐かしく思い出しながら、まだ不慣れなノートパソコンのキーボードの操作と感覚にだんだん馴染んでいくのが、とても新鮮です。時間を忘れて。じぶんが立ち上がっていく感覚に歓びが溢れて。
新しいのはパソコンだけではありません。プリンターと、iPhoneも新調しました。一気に。たったの2日間で・・・!!
 
ネット環境を整備したいと、かなり前から考えていたのですが、二の足を踏んでいました。なんとなく前に進むのが億劫な気分とでもいいますか、いまのままでできないこともないし、不便さや不自由さに馴染みすぎていたといいますか。
 
話しは横にそれますが、この前、新聞で、冤罪事件で5か月間も収監された方の短いエッセイを目にしました。たしか『13番と呼ばれて』という副題だったと思います。
はじめのうちに感じた非人道的で不利益な扱いへの抵抗感は、収監が長引くとともに次第に薄れていき、圧倒的な力関係の中では何も考えず、何も感じず、ただ黙々と命令に従うほうが快適に過ごせたと、その元官僚は語っていました。けれども、と彼女は続けて、思考を止めて従順にやり過ごした者ほど、社会復帰したあとの生活がより困難になるだろう、と。無力化の構造がいかに人の自立を奪うかということを書いておられたと思います。

思考を止めて従順に 、の罠


それに自分を重ねるのはどうかと思いますが、精神的には、似たような無力感に身動きが取れなくなることが、私にはあります。両足に重たい鎖をひきずってむりやり歩くような苦しさが・・・。
たとえば、今回のように、夫からあてがわれたパソコンやプリンターを、彼の承諾を待たずに (あるいは反対を押し切って) 新しいパソコンに変えようとするときに、なんとも嫌な感じになり足がすくみます。逡巡します。
 
こんなふうに書くと「え? そこ悩むとこ? ためらう理由が理解できない」という疑問符いっぱいの反応が返ってくるでしょう。
言われるまでもなく、その疑問は、わたしの中でもすでに抜き差しならないところまで膨れ上がっています。

原因は、夫婦の力関係が生み出したトラウマにどうしても行き着いてしまいます。自縛が強くて動けない。ブレーキを踏んでいるのはいつも自分。逃げ道を作ってきたのはこの私。まぼろしの棘のように迫ってくる否定的な言動を前に、正面突破も通用しない。そしてあきらめと恨みがましさが残るという敗戦パターンだ。

もういい加減、そっちではない方に舵を切りたいのです。いままでの関係性を乗り越えて、やりたいことは堂々とやる。じぶんに関わる選択はじぶんがする。結果に責任を持つ。ひととのつながりを信じる。そういう老後を私は送りたいのです。

単純で、いまさらな願いですが、たとえ亀の歩みでも、きっと、その一歩は、私のレボリューション。
 
パソコン、プリンター、iPhoneの同時新調のきっかけは、ふたつありました。
 

リーフレット作り


ひとつは自宅整体ルーム『ノユーク・チャイ』のリーフレットを作り変えたことです。昨年3月、学院を卒業した記念として、初めてリーフレットを作成し、知り合いの店舗に置かせていただき、フェイスブックにも載せました。手作り感あふれたものですが、今の私に何ができて、何ができないのか、だれにどう伝えたいのか、きちんと整理できたという意味で、大切な転換点でした。 
それまでは予約があったときだけの随時開店、実態はほぼ開店休業状態だったものを、月曜日から木曜日の10時から21時は開店しますと明記したのです。ほそぼそとですが、それを見て問い合わせをくださるお客様も増え、ありがたいことでした。
 
11月には改定版を作りました。次女のきづなと、山梨のほったらかし温泉に旅行に行ったときです。若い人にも予約し易いアイディアを、きづなは、初回版に続いて、いろいろ盛り込んでくれました。
たとえばメールアドレスを簡単に読み込むQRコードや、地図の追加などです。写真や絵で、視覚的な癒し効果を醸し出すセンスと、データを編集する能力、時間がかかってもやり遂げる根性には、我が娘とは思えないほど目を見張るものがあります。

後日、そのデータをもとに両面三つ折りのリーフレット(業界用語でフライヤーというそうです)をネット印刷で300部印刷してもらいました。紙質にもこだわり、予想をはるかに上回る仕上がりに、テンションがいや増したことは言うまでもありません。
 
ところで、QRコードは、Gmailに設定しました。4月の携帯更新時にはガラケイからiPhoneにする心づもりで、いわば先取りです。すると、新たなジレンマが生まれました。待ちきれなくなったのです、4月を。
アクセルを思い切り踏みたくなりました。
 

プリンターを新調する


ふたつめのきっかけは『もらとりあむ』の印刷です。
 
実は申し訳ないことに、前回の文集に時折、白紙が混ざっていたことに後から気づきました。ページ抜けではないのでおそらく読めたはず、とは思いますが、見苦しいものになりました。この場をお借りしてお詫びします。
電気店に聞くと、プリンターの紙送りのローラーの劣化が原因のようです。今のプリンターは仕事で長年使っていたものなので、だいぶ古くなっています。そして置き場所が、私の部屋から離れた夫のパソコン部屋なので、使えるときが限られています。
自分のパソコンに連動した専用のプリンターにすることは本来、文集づくりの必須条件だったのです。
 

「あきらめるのは自分への差別だから」


 がんばりました!
暴挙とも言えるパソコン、プリンター、iPhoneの同時新調。
いや、実際にがんばってくれたのは、娘のきづなですが・・・。
今回は、きっかけがあり、機が熟したところに、ちょうど彼女の休みが重なったおかげで、一気にことが進みました。機種選び、データ移行や初期設定など、得意な人でもかなり面倒な手続きの数々を、手際よく、根気よく、プロ並みの正確さで全面サポートをしてくれました。
 
娘たち、そして友たちからの有形無形の応援は、私の元気の源です。そして彼女らがそれぞれの場所でささやかな革命を日々巻き起こしながらがんばる姿に、私も励まされているのです。
 
そして今、パソコン、プリンター、iPhoneが揃い、それぞれの性能がよくなったことで、やりたいことがより実現可能になりました。
机のまわりがすっきりしたように、私のココロも整理できました。
ひとが動けばどうやったって波風が立ちますが「やったもんがち」かもしれません。あっけらかんと開き直ってしまいましょう。
 
つぎにめざすところは、整体師としての税務署への開業届と青色申告届です。手続きはいたって簡単ですが、こちらは別の意味で、夫の管理下からはみ出す行為なので抵抗もさらに大きいと思いますが、知恵を絞ってがんばってみようと思います。

やりたいことは堂々とやる。
じぶんに関わる選択はじぶんがする。
結果に責任を持つ。
ひととのつながりを信じる。
 
どこまでいけるかわからないけれども、一歩でも遠くへ。
「あきらめるのは自分への差別だから」という親友のことばを胸に。

               「もらとりあむ43号2018冬草」収録
 
 
 


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