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朝は夜からできている

 note連載『あきとまさきのおはなしのアルバム』をやろうとしたきっかけを綴ってみました。
 私にとって、書くことや、その延長線上にある文集づくりは、個人的な趣味の領域です。誰からも強制されない、誰からも攻撃されない守られた聖域のなかで、書くことで救われ、書くことで磨かれ、書くことで繋がってきたのです。
 書くことは人生の内的よろこび、魂の躍動なのです。

里枝子の窓


「こんにちは 広沢里枝子です。盲導犬のソフィアと上田放送局からお届けしています」
 朗らかな落ち着いた声がラジオから聞こえてくる。親友が三十年以上パーソナリティを続けている長寿番組『里枝子の窓』。


 「朝ちゃん、『里枝子の窓』に出演してほしいの。考えてみてくれない」
旅先のアファンホースロッジで、里枝子さんから打診された。二ヶ月前のこと。
 「今までたくさんの友人と対談させてもらったけど、朝ちゃんを呼ばなかったら、真ん中にぽっかり大きな穴が空いているような気がするのよ」
と、彼女の目はいつになく真剣だ。

 そんなことはない。番組に登場するのはいつだって、特別なきらめきをまとうすてきな人たちばかりだ。穴なんてどこにもない…。だって私はなにものでもないし…断りのセリフが脳裏をめぐる。
 「お誘いはありがたいけれど…ともだち同士が昔話をするだけでは、番組にならないでしょうねぇ…。今、伝えたいことがあるんだっていう、なにか、新しい息吹がほしいやねぇ…」私はぐずぐずと答えをにごす。
 横を見ると娘が「やってみれば」という顔で笑っている。娘なら即答するだろう。



黒姫高原ホーススティ


 この日、黒姫高原のアファンホースロッジで、私たち旅の仲間四人は、一泊二日のホーススティを体験していた。ブラッシングや馬房の掃除などしながら、道産子の茶々丸と雪丸にゆったりとふれあう。馬の温もりやどっしりした質感を感じる。時間をかけて仲良くなっていく。森の中で、馬と一体感を感じながら乗馬するのは、心地よく、開放感にあふれていて、私はずっと笑っていた気がする。

 夜には焚き火のまわりで、マイムマイムを踊り、大きなグランピングテントの中でみんなと眠った。盲導犬のソフィアも一緒だ。


 朝四時半、目が覚めて外へ出ると、真っ白な朝もやが立ち込めていた。放牧地の木の下に、雪丸がのんびりと草を食んでいる。

「おはよう」

 声をかけたら、もやの向こうから茶々丸がゆっくり歩いてきて、ブルルルと鼻を鳴らして、私の手に、湯気のたつ息を吹きかけてくれた。満ち足りたホースセラピーの旅だった。

まだやり残していること


 …なのに。ふいに、里枝子さんとの間には、まだやり残していることがあるような気がしてきた。なんだろう。番組に出るかどうかではなく、やりたいこと…。共に作ること…。未来に遺すこと…。
 私は、その、ぼんやりとした何かを追いかけて行って、やっと見つけた。偶然見つかったというより、逃げようとする襟首をつかんでぐいっと引き寄せた、が近いかもしれない。私のシメキリも近い…かもしれない。ならば、ためらっている暇なんて、ない。

 彼女とは、いつだって、思いつきの勢いで、うっかりタイヘンなコトを始めてしまうのだ。
 それが、『あきとまさきのおはなしのアルバム』の再編集とnoteへの連載だ。懐かしくも新しい、彼女と私のプロジェクトなのだ。

 幸いなことに、三十数年前の文集と、十年前のワードデータが無傷で眠っていた。若さゆえの無秩序さと、荒削りな原石の輝きを全身にまとって、すやすやと平和な眠りにたゆたっている。
 そして、その繭の中には、幼いあきちゃんとまさきくんが、黒ラブのキューちゃんが、若かった私たちが、眠っている。

 そろそろ目覚めさせてもらおうじゃないか。三歳のあきちゃんのかわいい声で…。

あき「ちょっと まってて。あき、あさ みてるんだモン。ネッ、しろく なって きたでしょ。あさは よるから できるんだねェ」
(# 69 冬、我が家の朝 より)

「あきとまさきのおはなしのアルバム」はこちらからどうぞ

https://note.com/ohanashi_1987


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