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「ちぶさ跡地」

両側全摘手術後5日目。(2020年12月25日)

#保健室(がんと私)

手術後の胸に両方の手のひらを当てて感触を確かめる

胸の中心あたりと
首に近いあたりの皮膚はまだ少し痺れがある
傷口には透明なテープがきつく貼られている
緩やかな稜線の谷間を走る一筋の道路のように
赤黒い傷痕が横切っている

胸は両方の脇に向かってなだらかに沈んでいく
そのへこみに手根の厚みがするりと馴染む

かつては幼な子への乳を生み出し
いつしか がん細胞の秘密基地となった私のちぶさ
その懐かしい跡地に手のひらをそっと置く

脇の下の脂肪がぽにょんと盛り上がっている
傷口に押されていつもより飛び出している
センチネルリンパ生検の傷口と
乳房切除の傷口はつながっているように見える
脇の下は内出血して赤黒い
緑がかった皮膚の下に尖った痛みが潜んでいる
時々ぴりりとイナヅマが走る

ちぶさ跡地に手のひらを当ててじっと感触を味わう
手のひらが心拍をとらえる

鼓動は
ちぶさがあった時よりも
大きく強く太く
トク トク トク トク
手のひらに響いてくる

トク トク トク トク
手のひらを押すように響いてくる

(補足)生々しい描写が苦手な人には不快感を与えてしまったかも。ごめんなさい。

術後包帯が取れてすぐに、洗面台の鏡に映るキズアトをしげしげと眺めたり、写真に写したりしている私でした。

それを看護師さんは「いいことですよ!」と褒めてくれました。

「怖くて見られない、という患者さんが多いのですが、観察する習慣をつけると変化に気づきやすいし、回復を実感できますからね!」と。

キズアトは確かに生々しく痛々しかったけれど、「カラダが生きようとしている!」という喜びと感動がありました。

容姿の変化に自分が慣れていく。人から見られることに慣れていく。
そしていつのまにか、温泉の大浴場にも行くし、ジムのプールで泳げるようになりました。
離れて暮らす孫たちとも、会えば一緒にお風呂に入ります。

キズアトはいまもあるけれど、それは私の命が生き延びようとものすごくがんばった証なんです。

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