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ボクのひみつきち

ボクのひみつきち

童話の雑誌 くろひめ 第30号掲載(2021.9)

#創作室


「おかえりー!」
ボクが赤いランドセルをゆらしながらしごとべやにはしっていくと
「ただいまー。学校、たのしかった?」
おかあさんはおかしそうにわらってくれる。

おねえちゃんもおにいちゃんもまだ学校。
雨だから、ともだちんちにもあそびにいけない。
つまんないな。
そんなときボクは、おかあさんのつくえの下にもぐる。

おかあさんは足がつめたい。
ホットカーペットをつけて、もうふにぐるぐるまきになってパソコンのおしごとをしている。
つくえの下は、ぬくぬくして気もちいい。だからそこはいつもボクだけのひみつきち。本をよんだり、リコーダーをふいたりするんだよ。

「きーちゃん。どした? なんか、やなことあった?」
おかあさんが足でツンツンとボクのせなかをつつく。
なんでわかるのかな。
ボクがしずかだからかな。

「んー。…ボクさあ。がっこう大すきなんだけどさあ…」
ボクはやっぱりぜんぶはなしちゃった。

あんまりあそんだことのない1年生の子から
「へんだよ、なんでボクっていうの?」
といわれたこと。

先生からも
「あなたは女の子なのだから、わたしっていおうね。
大きくなってこまるから、いまのうちになおそうよ、ねっ」
って、こまったかおをされたこと。
先生がかなしそうだと、ボクもかなしくなる。

ボクは、せのじゅんはまえから1ばん目だけど、男の子たちともいっぱいあそぶ。三つちがいのおにいちゃんと、田んぼのようすいろでザリガニつりするのも大すき。

おにいちゃんのお下がりをきているから男の子にまちがえられることもあるけど、へっちゃらだよ。
おねえちゃんのリカちゃん人ぎょうであそぶより、どろだんごをツヤッツヤにするほうがおもしろい。

木のぼりだってとくいだよ!

このまえのお休みの日もひとりで木のぼりした。
いそがしくてお花見にいけないおかあさんにさくらの花を見せたくて、
ゴツゴツした大きな木にのぼっていたらさ。
とおりかかったしらないおじさんから、
「だめだよ、ぼく。木がないているよ」
ってしかられちゃった。

ボクが、
「おうちにいるおかあさんに、まんかいのさくらの花を見せてあげたかったの」
といったらゆるしてくれて、ボクの手がとどかない大きなえだをとってくれたんだ。

ボクは小さなゆうしゃなんだ。
大きくなったらボクはおとうさんになりたい。
そして、おかあさんをまもる人になる!
だからボク…はずかしくってわたしっていえないんだよ。

つぎの日。
学校からかえってきたボクは、またおかあさんのつくえの下にもぐりこんだ。
おかあさんはだまっておしごとしている。

あったかいひみつきちで、ボクはおかあさんにお手がみをかいた。
そして
「ピンポーン。ゆうびんやさんですよー」
といって、おかあさんにとどけた。

ボクのお手がみをよんだおかあさんは、
「ボクでもわたしでも、きーちゃんはきーちゃんだよ。だいじょうぶだよ」
そういってボクをもうふごと、ぎゅっ!ってしてくれた。

ボクたちはにっこりわらった。
それからだいどころにいって、
ふたりで、ガリガリくんソーダあじをたべたんだ。

※加筆修正しました

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