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肺癌周術期の薬物療法に、レジがカンファで知ったかできるまで(2022.7)

はじめに

外科医には、薬物療法が得意な人間と、得意でない人間がいます。一方は「総合的な癌治療の知識に欠けている」と言い、一方は「薬屋に踊らされおって、外科医なら手術室が主戦場だ」と言います。(極端)
個人的には、癌が得意な内科の先生に比べたら経験に乏しく、得意などとは言えませんし、正直手術より学ぶ意欲は湧きません。
ただ、これが現時点でのベストである、と自信を持って患者さんに提示できるだけの最低限の常識を、外科医は持ち合わせている必要があるとは思っています。
ガイドラインの知識は当然あるとして、外科医としてガイドライン以上の薬物の知識の必要性に迫られる様々な場面の中で、
「若くて元気だけど、癌の進行スピードの早い/癌が進行している患者さんに、とにかく寿命の延長が望める選択肢を提示したい」といった時に、我々が提示できる武器は今、何があるのか?
という場面をメインに、今回は述べさせてもらおうと思います。

薬物療法が苦手な外科医にとって、学びの「とっかかり」になればと思い、試験結果を読む際にひっかかりやすい部分や、分かりやすさをメインに読み物として記載しました。特に実臨床では重要な副作用についての記載は、省いていますので、私も含めて今後も学び続けていきましょう。

*COIはありません。
*良識のあるレジ以外は下記を読み進めないでください。
これは理解の「導入」であって、様々な重要事項をあえて記載していません。カンファで「知ったか」までは出来ますが、「ドヤ」るまでには、更なる深淵な世界に浸かる必要があります。

*ご意見はお気軽に下記よりご連絡ください。

[0]レジ向け周術期薬物療法の基本

[0-1]ガイドラインさらっとおさらい

<術後補助治療>
・全体径2cm超えたI-IIA期のAdはUFT、非AdのUFTは選択肢
・II-IIIA期は術後CDDP+VNR
・IB-IIIA期術後補助化学療法にEGFR-TKIはダメ

*StageIBのUFTは「腫瘍径」を基にしていた時代の結果をまだ引きずっている状態で、なかなかそれ以上のものが出てこない。

He J, Shen J, Yang C, et al. Adjuvant Chemotherapy for the Completely Resected Stage IB Nonsmall Cell Lung Cancer: A Systematic Review and Meta-Analysis. Medicine (Baltimore). 2015;94(22):e903. doi:10.1097/MD.0000000000000903)

<術前補助治療>
・StageIIIAは術前Chemoは選択肢
・Pancoastは術前CRT
・StageIIIA(N2)は術前CRTが選択肢
(施設間で異なるので参考程度ですが、
 Single N2は1st 手術
 Multiple N2は術前CRT→手術
 というのが昔のメインストリーム、今はPACIFIC。)

*術後補助治療が先に確立してしまったので、術前治療は特に未成熟領域。

[0-2]ICI製剤の大まかに3種類のイメージ

1. 抗PD-1抗体:ニボルマブ、ペムブロリズマブ
2. 抗PD-L1抗体:アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ
3. 抗CTLA-4抗体:イピリムマブ

この時点で、アレルギー反応出る方、いますよね。分かります。
一応僕なりに寄り添います。
正確な機序は成書に譲り、アレルギーだけ取り除きます。

登場人物は4人です。
まず、極悪人(がん細胞)のL君です。デスノート、ご存じですか?第一部では、Lは警察の犯罪捜査の主軸で、正義の味方。徐々に犯人の主人公を追い詰めますが最後に敗れて、第二部では極悪人の主人公がその後釜として「L」になります。そう、夜神月(ライト)になったL君です。なりすますのが上手です。
次に、極悪人を取り締まる警察官Kです。いつもは犯罪者をみつけると容赦無く殺す(Kill)のですが、PD(Pupillary Distance 瞳孔間距離)がズレたメガネをしているため、あまりはっきり外の世界を見れていません。先のデスノートの世界と同様、視力が悪いことも相まって「L」となりすました極悪人を、仲間と思って取り締まらなくなってしまいます。
最後に、Kの仕事を邪魔する2人です。Kにいつも先輩風をふかせる、部活の先輩Treg君(レイザーラモンHGのようにトレーニングで足がムキムキでTregと呼ばれています。「フォー(4)」と叫ぶほどフォーが好き。「せいせい」と言って仲裁するのが得意で、いつもKが仕事(極悪人をKill)をしようとすると仲裁してきます。)と、ベトナムから来た裏の顔を持つ柔道女子Jさん(極悪人であるLの正体をKに教えるふりをして近づき、締め技を決めてKの身動きが取れない状態にします。無類のフォー好き)

さて、そろそろ大分恥ずかしくなってきましたが、我ながらうまいことキャラを当てられた気もします。(!?)匿名じゃないとこんな事できませんね。
ここで我々は、Kの取り締まりを助けるアイテム(薬)を開発したいのですが、どうすればいいでしょう?

  1. 抗PD-1抗体:Kの視野を妨げるメガネを壊して、極悪人のLをはっきり認識させてあげられるアイテムです。石田靖雅先生が発見し、ノーベル賞(本庶佑先生・後に特許使用料の引き上げで小野薬品と裁判)につながりました。

  2. 抗PD-L1抗体:極悪人Lの化けの皮を剥がすアイテムです。Kがメガネをしていても認識できるくらいわかりやすくなるので、取り締まる事ができます。

  3. 抗CTLA-4抗体:(不自然に出てきた)フォー(4)です。Kを邪魔する2人は無類のフォー好き。このアイテムによって、Kを邪魔するものはいなくなります。

ふざけた話は以上です。真面目な解説は、動画付きで、色々と製薬会社からわかりやすいのが出ています。

https://chugai-pharm.jp/pr/npr/tec/moa/index/

https://www.yervoy.jp/yervoy/action/index

https://www.opdivo.jp/basic-info/action#%22

[0-3]IOの最近の「切除不能」肺癌における功績

・PD-L1≧50%以上で、PembrolizumabとPtD(白金製剤二剤併用化学療法)は、PtD単独よりOSが15-20%増加。(KEYNOTE-024)
・Nivo/IpiはChemoと比較して2年OSが10%改善。(CheckMate 9LA)
・切除不能StageIIIのNSCLCに対し、CRT後にDurvalumabを1年間併用することにより、5年生存率が10%向上。(PACIFIC)

Gandhi L, Rodríguez-Abreu D, Gadgeel S, et al. Pembrolizumab plus chemotherapy in metastatic non-smallcell lung cancer. N Engl J Med. 2018;378(22):2078-2092. doi:10.1056/nejmoa1801005

Reck M, Rodríguez–Abreu D, Robinson AG, et al. Updated analysis of KEYNOTE-024: pembrolizumab versus platinum-based chemotherapy for advanced non-smallcell lung cancer with PD-L1 tumor proportion score of 50% or greater. J Clin Oncol. 2019;37(7):537-546. doi:10.1200/jco.18.00149

Paz-Ares L, Luft A, Vicente D, et al. Pembrolizumab plus chemotherapy for squamous non-small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2018;379(21):2040-2051. doi:10.1056/nejmoa1810865

Hellmann MD, Paz-Ares L, Bernabe Caro R, et al. Nivolumab plus Ipilimumab in Advanced Non–Small- Cell Lung Cancer. N Engl J Med. 2019;381(21):2020-2031. doi:10.1056/nejmoa1910231

Paz-Ares L, Ciuleanu TE, Cobo M, et al. First-line nivolumab plus ipilimumab combined with two cycles of chemotherapy in patients with non-small-cell lung cancer (CheckMate 9LA): an international, randomised, open-label, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2021;22(2):198-211. doi:10.1016/s1470-2045(20)3064 1-0

Spigel DR, Faivre-Finn C, Gray JE, et al. Five-year survival outcomes with durvalumab after chemoradiotherapy in unresectable stage III NSCLC: An update from the PACIFIC trial. J Clin Oncol. 2021;39(15_suppl):8511-8511. doi:10.1200/jco.2021.3 9.15_suppl.8511

[0-4]PACIFICを知っておく

切除不能ステージIIIのNSCLC
・プラチナベースChemo+RTを2サイクル以上やって、病勢進行が見られない患者に、デュルバルマブ(10mg/kg静注;2週間に1回、最長12カ月間)投与
OS(層別HR 0.72、95%CI 0.59~0.89、中央値 47.5~29.1ヵ月
PFS(層別HR 0.55、95%CI 0.45~0.68、中央値 16.9~5.6ヵ月
・推定5年OSが42.9%、推定5年PFSが33.1%

Spigel DR, Faivre-Finn C, Gray JE, et al. Five-Year Survival Outcomes From the PACIFIC Trial: Durvalumab After Chemoradiotherapy in Stage III Non-Small-Cell Lung Cancer [published correction appears in J Clin Oncol. 2022 Jun 10;40(17):1965]. J Clin Oncol. 2022;40(12):1301-1311. doi:10.1200/JCO.21.01308

[0-5]代替エンドポイント=サロゲートマーカー

・試験をするには当然合格/不合格を決める点数(数字)が必要。その治療法の効果があったかどうか、を判定する基準。試験を組んでいる側からすれば、新薬の方が優れている、というために良い結果(値)を目指す、指標。
・癌薬物療法において最も重要なエンドポイントは当然全生存期間(OS)。
・しかし、OSの差を明らかにするのに何年もかかる可能性があり、薬剤の開発の遅れだけでなく、OSデータが成熟するまでの間、患者がより良い薬が使えないことになるため、surrogate=代理人ということで、代替エンドポイントが使用される。

・DFS(無病生存率(disease-free survival)
疾患がない状態での生存→手術でR0となった後を見るので、Adjuvant、NeoadjuvantはDFSを利用することが多い)

・PFS(無増悪生存率(progression-free survival)
腫瘍の増悪が ない状態での生存→手術のない試験の評価では、仮に薬の効果があって腫瘍が小さくなっても腫瘍がある限り「無病」ではないので、悪くはなっていない、ということを効果判定に使用する)

・EFS(無イベント生存率(event-free survival)
疾患がない状態での生存、イベントの定義が何であるかはそれぞれに定義される)

*切除可能な局所進行NSCLCのChemoを対象とした20の研究のメタアナリシスで、PFSとDFSがOSと高い相関があるとされている。しかし、現在、IO療法や分子標的治療でも、同様に高い好感があるとする関係を証明するデータに乏しい。その限界を認識しながら、OSが成熟するまで、サロゲートマーカーを使用する。

<特に術前化学療法で重要となるサロゲートマーカー>

・病理学的完全奏効(pCR, pathological Complete Response)

・病理学的著効(MPR, Major Pathologic Response)
=残存腫瘍細胞が10%以下

*術前療法の後に、手術をおこなうので、その摘出検体で、残存腫瘍割合が明らかとなる。そこに腫瘍が残っているかどうか=薬物の組織学的反応が、予後に関連するとされる。
*この2つのエンドポイントの主な課題は、病理学的評価のばらつきとなる。

[1] ガイドラインの元になっている試験の成績=基準を知る(完全切除後NSCLC II-IIIA期術後補助療法 プラチナ製剤)

2000年代半ばに、手術後のシスプラチンベースの補助化学療法は、手術単独に比べ全生存期間(OS)を4-8%延長
・DFS HR 0.84 (95% CI 0.78-0.91)
・OS HR 0.89 (95%CI 0.82-0.96)

Arriagada R, Bergman B, Dunant A, et al. Cisplatin- based adjuvant chemotherapy in patients with completely resected non-small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2004;350(4):351-360. doi:10.1056/nejmoa 031644

Winton T, Livingston R, Johnson D, et al. Vinorelbine plus cisplatin vs. observation in resected non-small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2005;352(25):2589-2597. doi:10.1056/nejmoa043623

Douillard JY, Rosell R, De Lena M, et al. Adjuvant vinorelbine plus cisplatin versus observation in patients with completely resected stage IB–IIIA non- small-cell lung cancer (Adjuvant Navelbine International Trialist Association [ANITA]): a randomised controlled trial. Lancet Oncol. 2006;7(9):719-727. doi:10.1016/s1470-2045(06)7080 4-x

Pignon JP, Tribodet H, Scagliotti GV, et al. Lung adjuvant cisplatin evaluation: a pooled analysis by the LACE Collaborative Group. J Clin Oncol. 2008;26(21):3552-3559. doi:10.1200/jco.2007.13.9030

[2]Adjuvant IO

[2-1]術後補助療法にIOを入れる

・術後に残存する顕微鏡的病変に対して、術後のIOが持続的な免疫学的反応を可能にするとされている。
・課題1:EGFR変異を有する患者は、一般的には免疫療法の有用性が低いとされる
・課題2:PD-L1は腫瘍内のHeterogeneityや、経時変化があるとされ、特にChemo後の患者の1/3までで発現が経時的に変化するとされる。
・課題3:様々なirAE(副腎不全などでずっとステロイドを飲み続けなければならないデメリットなども考慮すべき。)

To KKW, Fong W, Cho WCS. Immunotherapy in Treating EGFR-Mutant Lung Cancer: Current Challenges and New Strategies. Front Oncol. 2021;11:635007. doi:10.3389/fonc.2021.635007

Frank MS, Bødtger U, Høegholm A, Stamp IM, Gehl J. Re-biopsy after first line treatment in advanced NSCLC can reveal changes in PD-L1 expression. Lung Cancer. 2020;149:23-32. doi:10.101 6/j.lungcan.2020.08.020

Nam CH, Koh J, Ock CY, et al. Temporal evolution of programmed death-ligand 1 expression in patients with non-small cell lung cancer. Korean J Intern Med. 2021;36(4):975-984. doi:10.3904/kjim.2020.178

[2-2] 術後Chemo+PD-L1抗体:II-IIIA期, PD-L1≧50%,(EGFR/ALK変異なし)にはDFS改善認めた。(IMpower 010)

・普通の術後Chemo(プラチナ+PEMなど1-4コース)施行後に、PD-L1抗体を1年間追加投与したら効果あるか?というCQに有用性を証明した最初の第3相臨床試験がIMpower 010
・PD-L1 TS ≧50%の症例にはPFSは非常に良好、OSの結果はimmatureだが、おそらく良好となる可能性。
・PD-L1 TS 1-49%ではPFS有意差なし。
・PD-L1陰性患者については、DFSにおけるベネフィットは観察されなかった。

■DFS Median
・p=0.004, 35.3M / 未達, Placebo / Atezo,(II-IIIA, PD-L1≧1%)
・p=0.02, 35.3M / 42.3M, Placebo / Atezo ,II-IIIA, (全ランダム)
・p=0.04, 有意差なし、(ITT)
■DFS HR 0.66 (0.5-0.88),II-IIIA, PD-L1≧1%
     0.87 (0.60-1.26), II-IIIA, PD-L1 1-49%
     0.43 (0.27-0.68),II-IIIA, PD-L1≧50%
     0.79 (0.64-0.96),II-IIIA, 全ランダム化
                   0.81 (0.67-0.99),IB-IIIA, ITT(1005人)
■OS HR 0.77 (0.51-1.17), II-IIIA ,PD-L1≧1%
                 0.99 (0.73-1.33), II-IIIA, 全ランダム化 
                 1.07 (0.80-1.42),IB-IIIA, ITT 

*PD-L1の発現を層別化ではSP142で計測、DFS/OS評価ではSP 263を用いている。→SP263は普段使わない抗体で不信感。
*II-IIIA期, PD-L1≧50%で、EGFR/ALK陽性変異を含めた228人、除いた209人、いずれの検討でもAtezoの有効性が認められているが、陽性群に有効であるとは限らない。

*II-IIIA期, PD-L1≧50%において、Atezo群は遠隔再発を抑えれたのかもしれない。
                          Atezo   /   BSC
局所再発のみ: 15人(13%)/ 17人(15%)
遠隔再発:         10人(9%) / 30人(26%)
遠隔再発のみ:   6人(5%)  / 21人(16%)
同時再発:  4人    / 9人

*後治療にも差があることを今後のOSでは考慮する必要あり
後治療として全身療法を受けた76%(19人)/60%(30人)
後治療(化学療法)   60% / 32%
後治療(免疫療法)   16%  / 38%

[2-3]術後Chemo+PD-1抗体:II-IIIA期, PD-L1≧50%,(EGFR/ALK変異なし)にはDFS改善認めた。(PEARLS)

・StageIB(T≧4cm)ーIIIA期のNSCLCのR0症例に対して、普通の術後Chemo(プラチナ+PEMなど1-4コース)施行後に、PD-1抗体(Pembrolizumab)を1年間追加投与したら効果あるか?
・PD-L1≧50%群ではDFS延長したが、有意差なし
・OS延長効果示せず

■DFS Median
・p=0.0014, 42.6M / 53.6M, Placebo / Pembro,(IB-IIIA Overall)
■DFS HR 0.82 (0.57-1.18),p=0.14, IB-IIIA, PD-L1≧50%
     0.76 (0.63-0.91),p=0.0014, II-IIIA, Overall
■OS HR   0.87 (0.67-1.15), p=0.17, II-IIIA, Overall

*22C3でPD-L1は評価されている
*010と異なり、Chemoを施行されていない症例が14%存在

[2-4]術後補助療法の今後

・術後補助療法としてChemoとIOを同時に投与する他の様々な試験(ALCHEMIST、MERMAID、ANVIL、BR31)が走っている。
・MERMAID試験では、術後にMRD陽性となった症例にのみ術後補助療法を行う、という新しい試みがなされている。
*微小残存病変(MRD:minimal residual disease)からの腫瘍循環DNA(ctDNA)を検出することにより、画像所見よりも早期に再発を発見できることが、多施設前向き試験TRACERxで明らかになった。https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/news/202004/565378.html →リキッドバイオプシーで補助療法が必要な患者の選択の可能性。

[3]NAC(Neoadjuvant Chemotherapy)+IO

[3-1]これまでの術前補助療法

・化学療法しか無かった時代は、NAC(術前Chemo)も術後Chemoも大差なかったため、手術ができなくなるリスクを伴うNACよりもAdjuvant Chemoが標準化した歴史があるが、IOには術前=腫瘍量が多い時期に投与する事が、有効に働く可能性もあることから、術前治療としても期待されている。(ただ、その分irAEも頻度増えるとされる)

・化学療法単剤の時代は、CRが4%程度であった。
・IOを追加した術前補助療法はそれよりも良好な結果が出てきた。

 ・術前Nivo単剤 vs Nivo+Ipi:MPR(24%/50%)、pCR (10% / 40%)。(第2相試験、IA-IIIA期、Nivo/Nivo+Ipi:21例/16例)
 ・術前PtD(カルパク)+Nivo:MPR(83%)、pCR (71%)。術後もNivo単剤を1年間投与した結果、2年PFS (77.1%)、2年OS(89.9%)とStageIIIA期としては驚異的に良好な結果。(「NADIM」、第2相試験、IIIA期、41例)

[3-2]PD-1抗体(Nivolumab)+白金製剤の併用療法:pCRの割合が増加し、無イベント生存期間(EFS)が改善(Checkmate 816)

・最初の第3相術前補助化学療法試験の結果という事で話題。
・術前Chemo(PtD) vs 術前Nivo+Chemo(PtD)で、どちらが効果あるか?という試験。(第3相試験、IB-IIIA期、Chemo / Nivo+Chemo:179例/179例)
・MPR(8.9%/36.9%)、pCR (2.2% / 24%)と、全ステージで優位にNivo+Chemo群が良好な成績
EFSでNivo+Chemo群に優位な延長が認められ、OSは有意水準満たさないものの良好(p=0.008)。
・EFS延長効果が顕著なサブグループ:StageIIIA(HR 0.54)、PD-L1発現が高いほどEFS延長効果あり。

EFS Median
・p=0.0052, 20.8M / 31.6M, Chemo / Nivo+Chemo, (all)
■EFS HR 0.63 (0.43-0.91), (all)
   HR 0.85, (PD-L1<1%)
   HR 0.41, (PD-L1≧1%)
   HR 0.58, (PD-L1 1-49%)
   HR 0.24, (PD-L1≧50%)
■OS HR 0.57 (0.30-1.07), p=0.0079 (中間解析)

*Nivo+Ipiも元々は入っていたが、おそらくNivo+Chemoが優勢なために、そちらは中断。
*Impower010のMedian DFSよりも不良だが、StageIIIAの割合が多いため。
*術前治療期間中に、NIVO+CHEMO群で16%が手術できなくなった:PD(7%)・有害事象(1%)・患者拒否など(8%)(Chemo群でも20%程度あり)
*pCRとなっていない症例はいずれの群もEFSは同じく不良であり、腫瘍残存が病理学的に証明された群は、術後も補助療法を要する可能性。ここでも適切なPatient selection方法の開発が今後望まれる。

Forde PM, Spicer J, Lu S, et al. Neoadjuvant Nivolumab plus Chemotherapy in Resectable Lung Cancer. N Engl J Med. 2022;386(21):1973-1985. doi:10.1056/NEJMoa2202170

[3-3]術前補助療法の一般的な課題とIO特有の課題

・理論的な利点は、微小転移病変の治療とともに、術野を小さくすることによる臓器温存効果の2つである。これにより、手術の回復が不十分な状況では不可能な局所病変の早期治療が可能となる。
・デメリットとしては、治療毒性、根治的手術の遅れ、根治的治療が不可能な病勢進行があげられる。IOに特徴的なデメリットはirAEのために治療が遅れる事。(免疫療法に伴う?線維化・癒着による手術難易度の増加?もあるかもしれない。)
・実際どれくらいずれるのか?
・PD-1/PD-L1阻害は腫瘍による抗原提示を通じて宿主T細胞を免疫学的に刺激することが可能である。これはサイトカインの放出につながり、さらなる免疫細胞の活性化と腫瘍細胞の死滅を促す。抗原負荷が高ければ高いほど、免疫細胞の活性化は大きくなる可能性がある。したがって、ネオアジュバントIOはアジュバントよりも高い効果をもたらし、生存率を向上させることができる。

[3-4]術前補助療法の今後

・現時点では、+IOが有望な結果。
・症例数が少ないため、公的に決定的なことはまだ言えない状態だが、おそらくNAC+IOが今後標準化していくことが想定される。
・現在開発中の術前補助療法のコンセプトとしては主に下記の3つ。
1. NAC+IO → 手術 →IO(Phase2/3)
  Checkmate 816の類似品。おそらく同様に成績が良い。
2. NAC+IO+RT → 手術 →IO(Phase3) 
  主にDurvalumabが主戦場にしているアブスコパル効果(放射線照射による全身の腫瘍免疫増強により,照射野外の離れた病巣にも腫瘍縮小効果が認められる事象)のIO併用による増強を狙ったもの
3. IO → 手術(Phase2)
  IO単独でも結果が良いのではないか?というよりは、StageI-IIと早期のものにも術前IOを入れた方が良いかもしれない、という上記とは違った意味合いの印象。(これが通ればMutationない肺癌は早期でも全例術前IOになりかねない恐ろしい試験。)

*他には術前のNACにBVを加えたり、術後にもChemo+IOとするもの(Sintilimab、Cemiplimab)などが、細々と存在する。
*患者選択:どのような患者がネオアジュバント化学療法から最も恩恵を受けるか?
*切除可能な原発巣を持つN2結節性患者をネオアジュバント化学免疫療法後に外科手術の候補とすることは可能か?PACIFICよりも良好なのか?PACIFIC→Salvageが良いのか?

[4]術後補助療法としての分子標的薬

[4-1]AdjuvantとしてのEGFR-TKIはこれまでOSに有用性を認めなかった。

・第1世代、第2世代のEGFR-TKIを使用した術後補助療法は、一部の試験でDFSの有用性を認めたものもあったが、OSの延長は認めず。それがガイドラインにも反映されている。もちろん補助療法ではなく、再発時であれば、使用する。
・下記はエルロチニブを術後補助療法に使用し、PFSはよかったけどOSは変わらなかった、というRADIANT試験(2015年)。

[4-2]Osimertinibのアジュバント療法はDFS延長効果あり(EGFR変異陽性、Stage II-III NSCLC)(ADAURA)

・IB-IIIA期の切除NSCLC患者682人
・術後CDDP含むChemo →第3世代EGFR-TKI(Osimertinib)3年間
・DFSを大幅に改善、OSはimmature
・Common mutation(19-DelとL858R)にはオシメルチニブの術後補助療法を推奨(NCCN)

■24ヶ月後のDFS
・44% / 90%, Placebo / Osime,(II-IIIA)
   (HR=0.17、99%CI:0.11-0.26、p< 0.001)
・52% / 89%, Placebo / Osime,(IB-IIIA)
   (HR=0.20、99% CI: 0.14-0.30; p<0.001)

*aCTはOptionalで60%に施行された
*NAC+Osimeのネオアジュバント療法は、現在進行中(NeoADAURA試験)
*術前のTKIは、生検が必須という一つのハードルがある。
*ALK、ROS-1、NTRK、BRAF V600、RETにおけるネオアジュバントおよびアジュバント治療での標的薬剤の使用も進行中(NCT04302025)

DFSに関しては2020年に論文化されている。
October 29, 2020 N Engl J Med 2020; 383:1711-1723
DOI: 10.1056/NEJMoa2027071

https://twitter.com/ZhgNHUVKOZq0IYN/status/1564425922702323712?s=20&t=EkAn6i9EYHJs2rataAJ1dg


以上です。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

皆様の学習の一助になれば幸いです。

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