企業買収と資本業務提携の違い(クシュタール、日鉄、ルノー・日産を例に)

カナダのクシュタール社は、日本のセブン&アイに買収提案を出した。買収金額は5兆円、超大型の買収である。なぜ、ここまでのカネを出してまで買いたいのか?ルノー・日産のように、資本業務提携では駄目なのか?

自社の経営を根本的に変えたい場合

クシュタールは、セブンと同じで、コンビニエンスストアが収益の柱だと思う人もいるだろう。だが、実は、その店舗のかなりの割合が、実はガソリンスタンドの併設店である。北米は日本よりもクルマ社会だが、電気自動車が普及すればオワコンになりかねない。おそらく、自社の経営にかなり危機感を持っているはずだ。そこで、北米で最大のコンビニエンスストアチェーンを持つセブンを買収し、本気で事業ポートフォリオを変えたいのが本音だろう。日鉄も同じだ。長らく、中国の宝山鋼鉄と組んできたが、提携を解消した。今までのアジア重視から、USスチールを買収することで、単価が高くて経済成長も見込める北米にポートフォリオを転換したいのが本音だろう。ルノーの場合は、そこまでの危機感はなく、日産と組むことでスケールメリットとアジアへの足がかりを得るのが狙いだったようだ。

相手企業を完全に支配したいかどうか

相手企業を完全に支配下におきたいかどうかも重要だろう。クシュタールの場合、セブンの店舗網を完全に手中におさめないと、事業ポートフォリオの転換にはならない。日鉄も同じだ。完全子会社と、持分法適用会社では、財務諸表での扱いも異なるし、経営への関与度も異なる。ルノーの場合は、対等ではなくルノー優位ではあるが、完全な支配までは望んでいなかったと思われる。

資金調達が可能か

クシュタールと日鉄の場合は、おそらくすでに巨大銀行や巨大証券と資金調達の話をしているはずだ。ところが、日産と資本業務提携をしたときのルノーは、そこまでの資金調達能力はなかったと思われる。当時、日産のほうが規模が大きかったし、ルノーはヨーロッパでもそれほど巨大なメーカーではなかった。資金調達が可能かどうかだけではなく、資金調達後の財務状況に耐えられるかどうかもポイントだ。借入の場合は利子と元本返済がある。新株の場合は、配当などの支払い負担が増えるはずだ。配当を払わなくても大丈夫な企業は、比較的、株価が上がりやすい企業だ。

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