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② SIGMA 500mmF5.6 DG DN OS | Sports

 フルサイズ判ミラーレスカメラ用のレンズが2本、SIGMAから発売された。「15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE」と「500mm F5.6 DG DN OS | Sports」だ。
 このうちの1本、15mmF1.4魚眼レンズについては前回のいいレンズってなんだ?」番外編①で取り上げた。

 というわけで、今回は「500mm F5.6 DG DN OS | Sports」の私個人のバイアスのかかった独善的インプレションをお届けしたい。

(photo-1)
「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」付属のレンズフードなしの状態。

 500mmF5.6は小型軽量な超望遠レンズである。
 全長は約23.5cm、最大径は約10.8cm、重さは約1.4㎏。シャッタースピード換算で約5段ぶんの手ぶれ補正を内蔵している。対応マウントはLマウントとSONYのEマウントのみ。SIGMAのオンラインショップでの税込み価格は495,000円。

 SIGMAのレンズとしては高価格の部類に入るが、今年3月中旬に発売が始まってすぐに注文が殺到したらしく、すぐに供給不足に。いま5月中旬を過ぎても、注文してもしばらく待たないと手に入らない。大人気レンズなのである。

 供給不足になった理由は3つ考えられる。あくまで想像だけど、1つは営業部門の販売数予想の判断ミスか。価格のこともあり、そんなに売れるとは考えてなかったのかも。2つめは製造、組み立て、調整が難しいため、一時的にしても、とても大量の注文に応じきれなかったのだろう。

 手にして使ってみれば、見た目は軽くて小さい超望遠レンズだけど、精密な部品を作って丁寧に組み立てて、精度性能優先で作られているレンズであることがわかる。製造コストも技術も、相当につぎ込んだレンズのようだ。注文にあわせてほいほいと作れるレンズではなさそうであることがナンとなくわかる。

(photo-2)
SIGMA fp Lを使って、開放F5.6で手持ち撮影
(photo-3)
上の写真、手前の横断歩道を渡る人たちの一部分をトリミング拡大

 500mmF5.6レンズの供給不足3つめの理由は(たぶんこれがイチバンの理由だろう)焦点距離500mmクラスのLマウントレンズが、PANASONICにもLEICAにも1本もないことだ。PANASONICのSシリーズやLEICAのSLシリーズのユーザーが遠くから鳥や電車や飛行機を撮りたいと思っても、このSIGMA 500mmF5.6レンズしか選択肢がない。待望のレンズだったという人も多かったのではないか。

 いっぽうSONYのαシリーズのEマウントレンズでは、500mmクラスの単焦点レンズはといえば「FE 400mm F2.8 GM OSS(1,843,600円)」と「FE 600mm F4 GM OSS(2,095,500円)」しかラインナップされてない(200~600mmズームはあるけど)。いずれも大きくて重くて、そして超高価格である。

 そんな状況だからLマウントやEマウントの〝ほどほど価格〟の〝小型軽量〟な超望遠レンズ500mmF5.6が発売されたわけだから注文が集中したのも(国内だけでなく海外も含めて)むべなるかなだ。

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SIGMA fp Lで開放F5.6撮影。ほんの少し口径食が見られるが柔らかくきれいなぼけ味だ

 500mmF5.6レンズは開放F値を無理をして「F4」にせず「F5.6」にとどめたのは大正解だったと思う。企画担当者のセンスが光る。
 たった1絞りぶん明るい「F4」にするだけで(レンズ全長はそれほど変わらないだろうけど)重く太く、さらに高価格になっただろう。小さく軽くスリムなレンズスタイルにできたのは「F5.6」を選んだからだ。

 最近のミラーレスカメラはどれも高感度画質が良くなっているし、なによりもAF性能が飛躍的に向上しているので、F値が少しぐらい暗くてもピント精度や測距スピードに影響はないだろう。また、一眼レフカメラだと開放F値の暗いレンズはファインダー視認性を悪くすることがあるが、ミラーレスカメラならEVFまたはLCDなのでレンズF値の明るさ暗さが視認性に影響を与えることはほとんどない。

 暗いF値のレンズで撮影するときモンダイになるのはシャッタースピードが低速になりがちで手ぶれの心配があることだが、500mmF5.6レンズは約5段ぶん(シャッタースピード換算)の補正効果があるのでソコもそれほどの不安もない。

(photo-5)
SIGMA fp LでF11に絞って撮影。私の好みだけど後ぼけよりも前ぼけのほうがイイように感じた

 実際、500mmF5.6レンズを使っていて1/30秒ぐらいのシャッタースピードでも平気で手持ち撮影していたし、ぶれることもほとんどなかった。むしろ注意したのは被写体ぶれだけ。

 最近のミラーレスカメラ用交換レンズは一眼レフ用レンズに比べると、SIGMAに限らず他のメーカーのレンズもそうだが描写性能は飛躍的に良くなっている。SIGMAのレンズはとくにその傾向が強く、独特のコントラストと鮮鋭感の描写が特徴で500mmF5.6レンズもその特徴を十二分に備えている。とても気持ちの良いクリアな写りをする。

 今回使用したカメラはSIGMAのfp/fp Lだったので被写体自動認識AFを試すことができなかったのが残念だったけど、通常のAF測距は速度も精度も不満は感じなかった。SONYのαシリーズのカメラだったら(きっと)ピント合わせは高速正確、るんるんで撮影を愉しめただろうと思う。

 さらに、500mmF5.6を約23cmほどの小型レンズにSIGMAの設計者が仕上げたのには注目してもいいだろう。

 同じようなサイズのレンズに一眼レフカメラ用だが、Nikonの「AF-S NIKKOR 500mmF5.6E PF ED VR」がある。全長が約24cm、最大径が約10cm、重さは約1.5㎏。SIGMA500mmと開放F値も同じF5.6で、サイズも重量もほぼ同等だ。しかしNikon500mmが小型軽量化できたのは特殊光学レンズ(素子)の「PFレンズ」を採用しているからだ。

(photo-6)
特殊光学ガラスのPFレンズを使ったNikon「AF-S NIKKOR 500mmF5.6E PF ED VR」

 PF(Phase Fresnel:位相フレネル)レンズは回折格子素子を利用して長焦点レンズで目立ってくる軸上色収差を最適に補正すると同時に、望遠レンズを大幅に小型軽量化できる特性がある。そう、すでに皆さんご存じ、CANONの「DO(Diffractive Optics:積層型回折光学素子)レンズ」と同じ働きをする特殊レンズ。

 ところがSIGMA500mmF5.6レンズは、NikonやCANONが採用している回折格子素子レンズを使わず、通常一般の屈折型光学レンズだけを使って小型軽量超望遠レンズを作った。ここに私は大変に感心した、やればできるじゃないか、と。

(photo-7)
500mmF5.6のレンズ構成は14群20枚。蛍石なみのFLDレンズを3枚(大型)、SLD3枚を使用

 開放F5.6からとても優れた描写性能があり、気軽に手持ち撮影できる小型で軽量な500mm、という特長に加えて、1.4倍と2.0倍のテレコンバータが使える、というか、使っても充分な描写力を保持していることだ。

 ただしテレコンバータが使用できるのは、LマウントレンズだけでSONYα用のEマウントレンズでは、SONYからの拒否があって(理由は不明)SONY製レンズでないとテレコンバータが使えない。SONY製のテレコンバータと組み合わせても動作しないらしい。SONYユーザーには残念無念。

(photo-8)
SIGMA製の1.4倍テレコンバータと組み合わせて開放絞り値で撮影。焦点距離は700mm相当でF値は実質F8になる。描写は期待していた以上にシャープだしコントラストも充分にある
(photo-9)
SIGMAのテレコンバータ、左が1.4倍、右が2倍。2倍テレコンバーターを使ってみたけど1.4倍テレコンバーターに比べると、描写はやはり少し見劣りがする(しょうがないよね)

 1.4倍テレコンバータ使用時は約700mmのF8相当となり、2.0倍テレコンバータでは約1000mmのF11相当のレンズになる。1.4倍テレコンバータと組み合わせても充分な実用可能な描写性能で想像するほど解像力も低下しない。1.4倍テレコンバーターを使ったときのMTF図を公開しているので、テレコンバータなしのMTFと比べてみても充分な描写性能を保っているのがよくわかる。(photo-10)を参照。

 もちろん、テレコンバータを使ってもAF撮影は可能だし、約5段ぶんの手ぶれ補正内蔵レンズとしても使えるし、なんの気兼ねもせずフットワークよく手持ち撮影ができる。もし500mmF5.6レンズを購入されるなら、ぜひセットで1.4倍テレコンバーターも入手されるのがよろしい(SIGMAの営業マンみたいだけど)。

(photo-10)
幾何光学MTFと波動光学MTFが並んでいるが、左の波動光学MTF図のほうが実用上参考になる
幾何光学MTF図は回折現象の影響をまったく無視した光学理想的なグラフで実際的でない

 最後に、たった1つだけ不満だったのは、500mmF5.6レンズにストラップを取り付ける金具などの装置がなかったこと。カメラ側のストラップだけで500mmF5.6レンズをセットしたまま歩き回るのはいささか厄介だった。
 仕方ないので以下の写真(photo-11)のような三脚穴に取り付けるねじ込み式金具を350円で購入して(とりあえず)使っている。

(photo-11)
しっかりとねじ込めば不用意に外れることはない。外すときはねじを緩めればカンタン

 軽いレンズなんだから専用のストラップ取付け金具なんてイラナイ、とSIGMAは考えたのだろうけど、いつもの親切なSIGMAらしくない。反省してね。


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