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『VIVANT』事後考察(1)

日曜劇場『VIVANT』が終了しましたね。なかなか面白く、メッセージ的にもいろいろ考えさせられるところがありましたので、3回くらいに分けて書きたいと思います。(ネタバレがあります。)
(見出し画像は公式HPより引用させていただきました。)

全般的感想

あらゆる意味で迫力があり、圧倒されたというのが第一声です。
海外ロケを行うドラマはこれまでにもありましたが、初回で海外の場面は終わり、あとは専ら国内というものが多かった気がします。
それに比べて、『VIVANT』では、初回で大使館に逃げ込むまでの大立ち回りがあり、そこから護衛付きで日本に飛ぶのかと思いきや、第二回で大使館からの脱出、そして第三回にかけて砂漠地帯縦断のサバイバルと続きます。その後いったん日本に舞台が移ったものの、後半で再度舞台はバルカ共和国へ。最終回まで存分にバルカで展開した後、最後のシメで日本。

こんな贅沢な展開は予想外でした。もちろん屋内場面など、日本国内のセットで撮影したのだと思いますが、全く違和感を感じさせず、すばらしい仕上がりでした。

また、連ドラ主役級の俳優が多数登場し、その存在感と演技力でググっと迫るものがありました。費用もかなりかかったそうですが、何より、それぞれの出演者の多忙な日程を調整し、日本とモンゴルでの撮影場面をパズルのように組み合わせ、すべてをまとめ上げていったスタッフの努力に頭が下がります。

その上で、個別の点について、何点か。

主人公乃木憂助のドッペルゲンガー

ドラマの随所で、乃木の心の声たる分身が登場し、乃木自身の心の葛藤がビジュアルに描かれます。私は、これが物語の展開に大きな役割を果たすのか、注目していましたが、むしろ後半ではほとんど出て来なくなり、それほど大きな役割を果たしませんでした。

物語後半で、「別班」チームがバルカに乗り込むにあたり、「父親ベキに会いたい」分身と「テロリスト・ベキを殺すんだ」という分身が言い争います。この後、あまり出て来なくなり、乃木による「別班」の「裏切り」が展開することになります。もしかしたら、これは「父親ベキに会いたい」分身の世界を描いたもので、これとは別に「ベキを殺す」分身の世界があるというデュアル・バースの展開か(言ってみれば壮大な「夢オチ」)とも思いましたが、そうはなりませんでしたね。

恐らく、この心の分身の登場は、物語前半で乃木が実は「別班」であったことが判明するにあたり、その意外性を引き立たせるための演出上のトリックだったのだと思います。

心の声なのであれば、本来は「別班」の任務を遂行する立場からの心の声があるはずですが、そこは前半は一切出てこないわけです。視聴者は、乃木の心の声を見聞きしていると感じることで、彼と一体になっている感覚を覚えるのですが、実はそんなことはなく、「全く別の顔」があったと驚くわけです。あたかもアガサ・クリスティの『アクロイド殺し』のようなルール違反を感じざるを得ませんが、それもひとつの手法でしょう。

ただ、逆に後半ではこの手法を使えなかったということです。前半のように、乃木が「別班」だとは誰も思っていないような場面ではこれは使えますが、後半のように、乃木は「別班」を本当に裏切ったのか、実は裏切っていないのか、ということを視聴者の多くが疑っている状況で、心の分身との会話を入れるのは、完全に白々しくなるか、もしくは明らかにネタバレになってしまいます。そのため、後半ではこの分身をほとんど登場させることができず、悪い言い方をすれば尻すぼみになってしまったのだと思います。

ドラムの声

外国人の登場人物にスマホの翻訳アプリの声でしゃべらせるというアイディア。これは本当に素晴らしいアイディアでした。我が家の会話でも、「超スゴイ、超スゴイ」というのが流行っています。

ノゴーン・ベキの位置づけ

物語前半、テロ組織テント首領としてのベキの存在感と迫力は半端ないものがありました。幹部会議の場面は007の宿敵スペクターの首領プロフェルドを思わせ、衝撃の粛清場面はロバート・デーニーロ演じる『アンタッチャブル』のアル・カポネを思わせるものがありました。もちろん、役所広司自身の存在感によってこれがなし得たのだと思います。

後半、テントの活動が孤児救済を主目的にしていたことがわかり、ベキも「いい人」ということになります。するとどうしても迫力が褪せてしまいました。物語後半で、ベキが自分の半生を語る場面がかなり長く続きます(その前には、乃木憂助が半生を語る場面もありました)。映像としては林遣都の苦悩と活躍の演技が光っていますが、「現在」の物語の展開は止まってしまうわけで、やや中だるんだ感じがしますし、あまりに饒舌なベキにやや困惑します。ここまで「いい人」感が出てしまうと、例えば最終回直前で縛らている乃木に対してベキが刀を振り上げても、「これはロープを切るんだな」とわかってしまいます。

今回のドラマが成功し、続編も企画されているやに聞きます。その状況になっているからこそ言える後知恵なのですが、このベキの半生とテント設立の流れは続編に譲ることはできなかったでしょうか? つまり、年老いたベキと「別班」乃木の親子の再開・対決という現在を第一作で扱い、その前日譚と後日談を続編に組み込むという『ゴッドファーザー』方式にできればなお素晴らしかったと思います。

「別班」招集の饅頭

神社の一角に饅頭が置かれているのが、「別班」招集・会合の合図となっていました。これ、地蔵に鉢巻きで招集される『大江戸捜査網』の隠密同心を思い出したのは私だけでしょうか。鉢巻きと違って、饅頭は鳥に食べられたりしないか、ちょっと心配です。

今回はこの辺で。次回は、乃木と公安野崎のバディ感の評価、そしてタイトル「VIVANT」の意味を考えてみたいと思います。

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