綺麗な火傷痕(見なくていい)

手の甲の火傷跡が、段々と、段々と薄くなっていって、少し切なくなる。

不恰好な四角形でついた痕は、もう枠組みの形を保ててないし、その下の円型の痕ももう沈まなくなった。

アルコールに反応して、火傷痕の部分が過剰に赤くなることも、もうない。

皮膚細胞が再生していくにつれて、僕は少しずつ消えていく。

細胞分裂で厚みを増すたびに、僕の記憶は薄っぺらくなっていく。

泣きながら「ごめんね」と謝る君の声も、顔も、「大丈夫だよ」って膝をたててハグをした感触も匂いも、ぼんやりと消えかけてしまっている。

この火傷痕は、今もなお君と僕とを遠ざけ続けている。

この切なさと、言葉にできないような感情は多分僕にしかわからない。

火傷の痕が治って欲しくないなんて、傲慢なのも知ってる。

これがある限り思い出してしまうから、ない方が良いことも知ってる。

それでも、もう再生しないでくれと願ってしまう。

逆再生で、傷が生々しくなって記憶も時間も感覚も、全世界戻って欲しいなんて、思ってても言えないな。

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