同棲8か月目

 優しくて賢くてまっすぐな彼氏と一緒に暮らし始めて8か月目になる。お互い仕事は順調で、私は部署で最速昇進を視野に入れている。駅から遠いものの家は広く、在宅勤務で24時間彼氏と過ごすには快適すぎるくらいだ。

 キッチンにはブレンダーとフードプロセッサーと大きい冷蔵庫があって、忙しい日々でも料理を楽しむことができる。料理をしている間は、淡々とステップをこなすだけで達成感が得られる。仕事を忘れられるし、しっかりしたご飯を作ることで専業主婦の気分を味わえる。

 私の母も祖母二人も専業主婦で、彼氏の母も昔は専業主婦だった。いつでも家にいてくれて、勉強も見てくれる。ご飯はおいしくて、家のことはなんでもわかる。だけど今では、共働きをする方が近代的で、女性の社会進出で、対等な暮らし方となっている。

 なぜなら、自分や子どもの将来は稼ぎ手に委ねざるを得ないため、ある種主従関係に近くなってしまう可能性があるからだ。私の父はすごく稼ぐし賢いし、私の生きる上でのロールモデルだが、母に対して高圧的な態度をとることもたまにあった。私も弟も父の機嫌を常にうかがっていたし、母は特に神経質なほどに気にしていた。

 私は絶対対等な関係がいいが、分業関係は嫌いではない。料理はおいしいほうがいいし、子どもは親が面倒を直接見たほうがいいし、家に帰れば母にいてほしい。専業主婦がいいとか悪いとかではなく、私は料理がしたいし子どもの面倒をみたい。子どもと一緒に勉強がしたいし、子どもの友達関係も把握していたい。

 ただそんな大好きな子どもが私のように弦楽器を始めたい、ピアノを習いたい、私立に行きたいとなったときに、私は夫に懇願したくない。なので、仕事ができるうちは、専業主婦にも共働きにもなれるようにしている。常に父が言っていた「選択肢が将来増えるほうの選択肢を選べ」という言葉に従っている。

 今は子どもがいないから楽しんで生きている。朝起きれば隣にかわいい彼氏がいるし、私は自分が冷凍したカットバナナでスムージーを作れる。ロボット掃除機とドラム式洗濯乾燥機が嫌な家事はすべてやってくれる。仕事中はお互い離れた個人の部屋で好きなことができる。一人でご飯を食べることはほとんどなく、彼氏はどんなご飯を作っても褒めてくれる。母は2週間に一度以上は家に遊びに来てくれる。

 結婚をもうすぐする。" 彼氏"という呼び名に違和感があるからかもしれない。人に話すときとか、ここで書くときは"彼氏"と書くしかないけど、私が今まで"彼氏"と呼んできた別の生き物とは全く違う。"彼氏"は家族じゃないけど、今の彼氏は家族だから。紙ぺら数枚出すだけかもしれないけど、私はその紙ぺらが持つ強さを知っている。

 

 

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