西武鉄道と届けられた秋の風と23回目のサマーナイトの話

大きな穂を立てて、あなたの手を引いて。
荒れ狂う波にもまれ、今すぐ風になりたい。

ボサノヴァ風味のやさしいコードと軽快なリズムに乗って、今年のちゅうおんが始まりました。正しいライブタイトルはエビ中 秋麗と轡虫と音楽のこだま 題して『ちゅうおん』2020。2月のファンクラブイベント以来の有観客でのライブステージで、2020年度のエビ中がやっと始まったと言い換えてもいいのかもしれません。
出だしの曲、生バンドの演奏するTHE BOOM風になりたいのイントロで、大きな拍手とともにビッグなスマイルで6人が登場。そこからはいつもどおり、雨の心配される天候に負けず、ほぼノンストップでステージが展開されていきました。

埼玉県の秩父ミューズパークにて、9/19(土)と20(日)それぞれ1部2部の2公演ずつ全部で4回の公演。日曜夜の部はフジテレビtwoでも中継されましたので、細かいライブリポとか書いてもあんまし意味はなさそうですよね。
だので以下簡単に、覚えていることだけ、会場であったことやきょう感じたことのメモを残しておこうと思います。


(以下例によってよそでやっているブログの移築となります)


M.01 風になりたい(THE BOOM)
M.02 君のままで
M.03 自由へ道連れ(椎名林檎)
M.04 SHAKE! SHAKE!

風になりたいの後は、安本さんの僕らの前への帰還と健在っぷりをを示すかのように、君のままでのロックが響きます。僕は歌声を聴くまではまだどこかハラハラドキドキしてましたが、この曲や残りのブロックでの彼女のパフォーマンスを見ているうちに、当初心配していたことなどいつの間にか忘れ去っていました。
自由へ道連れはバンド編成であったためか、曲がどんどん突っ走っていったような感覚。こんなにBPM早かったっけとか思いながら、世界の真ん中へのドライブが展開していきます。
そしてもったいつけるかのような静かなイントロからSHAKE!SHAKE!へ。春ツアーがあったらこの曲の掛け合いがフロアを物凄い勢いで熱くさせていたのだろうなと、訪れなかった世界線に馳せてゆく思い。

そう。きょうは着席ライブでコールもサイリウムも禁止という公演。
でも客席で手拍子を打ったり腕を振ったり掲げたりなどの、サイレントでのレスポンスは禁止されていなかったのです。ノリの良い曲では、メンバー本人や舞台後方コーラス隊のエミコ先生や管楽器のおふたりなどから手拍子のジェスチャー。客席も初めは少し戸惑いや遠慮などがあったものの、その煽りに応えて次第にノンバーバルなコミュニケーションで暖まっていったのでした。

M.05 誘惑したいや
M.06 感情電車
M.07 23回目のサマーナイト

少しだけしっとりなブロック。
感情電車では厳かに賑やかに西武鉄道が発車。やはりきょうも特快が止まらない。小林さんのロングトーンがとてものびやかに空に向かって響いていきました。白眉は日曜日の昼の部。基本的に曇りか雨の公演だったのですが、このときだけは雲を通して薄日が届くこともありました。で、感情電車が歌われている折りにはステージの向こうの方で、一部雲間から青空が覗いていたのです。誰かが様子を見たがっていたのかもしれませんね。

そしてまた静かなイントロから、サマーナイトのバラード版。しっとりしんみりな編曲で、この曲の旋律の美しさと、歌詞の刹那感の引き立つものとなっていました。

ちなみに土曜日の昼の部・夜の部は、だいたいこのあたりまでは降ってもパラパラくらいでカッパなしでも耐えられるレベル。しかしここで入るMCでの「うしろの方の席のかた、雨はだいじょうぶですかー?」なんていう優しい言葉がそのまんまフラグとなって、カッパ着用を余儀なくされる雨が降ってくるのでした。エビ中さん、さすがです。


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そしてちゅうおんお馴染みのカバー曲コーナー
各人の「次に歌う人紹介」に付される小ネタも軽快にキまってました。毎回小ネタは変わっていましたね。


髪を切ったまやまさんは、中山さんによるとタコさんウインナーのようにかわいいとのこと。みれいちゃんはモンブランのスイーツを冷やすのに失敗してしょぼん。ひなちゃんは嫌がったもののみれいちゃんとうっちーにリボンをつけられたそう。安本さんはイモの天ぷらの話をしてましたよね?小林さんはウェーブのかかったヘアスタイルで美人度爆アゲ。中山さんは小林さんに「それどういう意味?」って聞き返すのが最近のクセトレンドなのだそうです。

M.08 ノーダウト / 真山りか(Official髭男dism)

まやまさんは髭男dismのカバー。ノリのよいメッセージソング。彼女の力強い歌唱が、原曲の男性ヴォーカルにも負けない出来。ふだんから髭男好きを公言してますので、この選曲は自薦だったのかもしれませんね。あまりの安定した歌唱っぷりからか、校長からトップバッターを任されたとのこと。


M.09 タマシイレボリューション / 星名美怜(Superfly)

星名さんはSuperflyのカバー。ちょっとした横文字ヴォーカルを巻き舌風味に歌いこなすあたりが、彼女の趣味や特長にマッチするのだと信頼のおける7推しの方から聞きました。なるほど細かい部分を明るくオシャレに歌いこなすサマは流石のもの。それでいて力強さもプラスされて、ぴょんぴょん跳ねながらのハッピーさも身にまとっていて。どこから見ても星名美怜さんでした。


M.10 Wonderland / 柏木ひなた(iri)

柏木さんはiriさんの曲。ディーヴァ系の作品を、しっかりはっきり軽々と歌いこなしてしまう柏木さん。非の打ちどころのない出来でした。この曲が入ったのから、本編ではI'll be hereはやらなかったのかな。…年末の学芸会などにむけて、この人のソロ曲でこう言った感じのもの、一曲用意してみても面白いのでは。


M.11 金木犀の夜 / 安本彩花(きのこ帝国)

安本さんはきのこ帝国。どこか淡々とした語り口のような歌唱から始まる曲。それがいつのまにかメロディアスになっていく感じに、安本さんの歌声の特徴がよくマッチしていたように思います。一日を通してまだ喋りは少し控え気味でしたが、ああ、この人も歌が大好きなのだな、と、それを再確認させてくれる時間がここにありました。


M.12 糸 / 小林歌穂(中島みゆき)

小林さんは中島みゆき。とにかく声がよかったですね。矢野顕子に通じる声、とぼくは勝手に思っているのですが、そこに少しだけ幼さに似た成分の残るとてもやさしい歌声。1曲通して彼女の歌を聴くと、聴く者の気持ちを包み込んでくるその声の力をハッキリと感じることができます。「逢うべき糸と出会えること、それをしあわせと呼びます」というラストの優しい説得力たるや。


M.13 愛のために / 中山莉子(奥田民生)

中山さんは奥田民生。どっしりとしたビートに載った、少し暑苦しい応援歌です。先人5人は繊細さや美麗さといった音楽の持つ力をしっかりと聴かせてくれました。対して中山さんは、それらよりももっと音楽のファンダメンタルな部分にある「力強さ」という大事な要素をしっかりと聴かせてくれました。


6人ともとても良い歌を聴かせてくれました。
今回の6曲の中で最もぼくの心に響いてきたのは、中山さんの「愛のために」かな。

少し意地悪な言い方をすると、ある意味で技術っていうのは、お化粧の一種なんです。それを削ぎ落としたところに見るべくものが何もなければ、ちょっと美しく出来上がったとしても、技術だけで歌われた歌なんて、結局心にはなにも残らないものなのです。
もちろん6人の歌はちゃんと芯があって、見るべくものになっています。
その中で中山さんの歌は、技術よりも素の部分にポイント配分が大きく割り振られたもの。あるいみ不器用でまっすぐな歌声が、曲のもつどっしりとしたビートと反響しあって、とても見どころのある一曲に仕上がっていたように思うのです。彼女が歌詞で発した「ワールドオブワールド」という一節。中山さんの作り上げた世界の中の世界。パワフルな頼もしさでダメ押しされる自分しかいなかったのです。


M.14 紅の詩
M.15 バタフライエフェクト
M.16 ちがうの / スターダストライト
M.17 まっすぐ

後半戦に入る旨のMCがあって、クレナイの歌バタフライエフェクトへ。前者はバンドサウンドが原曲の表情をしっかりよみがえらせてくれるもの。後者は原曲の良さをバンドサウンドで更にかっこよく聴かせてくれるものになっていました。イントロかっこよかったなあ。

両日昼の部ではちがうのが披露されました。改めてバンドアレンジ版で聴くと、少し特殊なコード進行を見せる箇所の心地よい違和感が久しぶりによみがえってきます。アルバムで聞き返しているうちに、いつのまにかその感覚を普通に受け入れてしまっていたのだなあということを気付かされました。

両日夜の部はスターダストライト。虚をつかれたかのような選曲でびっくり、そしてしんみり。いつのまにか日が落ちてマックラになった夜空を見上げて、この曲と共にみた風景などのことを思い出したりしていました。ひとりずつゆっくり歌い継いでゆく夜空の下のスターダストライト。やっぱりいい曲だなあ。


M.18 踊るロクデナシ
M.19 頑張ってる途中 / 星の数え方

残り3曲です。という真山さんからアナウンス。観客席にさみしい感情が到達する前に、軽くマイナーなコードに乗ったファンク調の曲のイントロが届きます。これなんの曲だったかな…と記憶の扉を探っているうちに、中山さんに歌詞でアホ面の兄ちゃんなにやってんのとディスられる始末。この立派な曲はロクデナシじゃないですか!音数の少なさが印象的だった原曲ですが、フルバンド編成で再生するとフロア全員で踊ることの出来そうな、壮大な曲に化けるんですね。

曲中にエビ中バンドの皆様の自己紹介と、ちょっとしたフレーズのソロご披露タイムが用意されます。
ぼくは毎年この時間が楽しくって好き。基本的にバンドの皆様はステージでは脇役に徹し、寡黙に楽曲と向き合っています。けれどここのコーナーで初めてメンバーより目立つ形で、勝負のワンフレーズを僕らに投げかけてきます。「エビ中の音楽と向き合う舞台」として、皆様がこの立ち位置にいてくれて、ここでしっかりアピールしてくれることがとても心地よいのです。

続いて昼の部は頑張ってる途中。池ちゃんの作ってくれたトラックは、フルバンド編成との相性がとても良い。おかげで夢の途中やポリポリ中では、改めてステージと客席とのソーシャルでディスタンスでノンバーバルかつサイレントな掛け合いによる気持ちの良いコミュニケーションがとれました。

夜の部は星の数え方。原曲では音と音の間に介在する間を楽しむような作品でしたが、きょうはボサノヴァアレンジ。しんみりしているのですが、ゆったり感を残したままビートがしっかりキープされたもの。とても聴きやすく感じました。
そして久しぶりに3対3にしっかり分かれての2チーム3声コーラス。柏木さんのチームのかけもちがなくなって、それぞれの声の重なりを聴くと、ちゃんと両チームに個性の違いが感じられるんですね。
残念ながら見上げた闇夜には雲が広がっていたようで、秩父の星たちはお休み中。実際にみんなで星たちを数えるのは、来年になるのかな。


M.20 23回目のサマーナイト

宣言されたラストの曲は、2回目の23回目のサマーナイト。さっきのはバラード版で、こちらはノーマルなアレンジ版です。
昼の部でもお構いなしにサマーナイトだったけれど、芝生席ではクツワムシよりもトンボの方が大量に飛んでいたけれど、秋虫の声よりも雨音の方が気になったけれど、最後はノリノリで、ステージも客席も笑顔のままに時間が過ぎていきます。

舞台から届く煌びやかな光と大音響での演奏。手拍子のジェスチャーで客席を煽るメンバーとエミコ先生。客席から返されるハンドクラップのリズム。笑顔で互いを見合わせハモりパートを歌うカホリコさんに笑顔をもらって、のびやかで頼もしい柏木さんのヴォーカルで鼓膜を震わせて、可憐に跳ね回る美怜ちゃんとしっかり歌いきった安本さんの姿に目を細めて、落ちサビで大きな間をとって「これ以上、わたしに言わせないで!」のセリフで全てを持っていこうとするまやまさんを見て、

音楽って楽しいものなんだ。エンタテインメントって尊いものなんだ。取り戻したかった日常が、少しだけれどここに戻ってきたんだ。そんなことを感じるとともに、ちゅうおんはエンディングとなるのでした。

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エビ中の6人は、2日間で8回にわたって、たった一瞬触れた指先には勝てないかも。そう歌いました。最後の挨拶では、みんなで同じ時間を共有できたことが嬉しい。そう語りました。

20年以上前、THE BOOMの宮沢和史は、天国じゃなくても、楽園じゃなくても、あなたの手のぬくもりを感じて、風になりたい。そう歌い上げました。

2020年は天国じゃなかったかもしれない。楽園とはかけはなれた真逆の世界がそこにあったかもしれない。だけど。
手のぬくもりも、一瞬ふれあう指先さえも、なかなか許されない世の中になってしまいました。

何一ついいことなかったこの年に、涙ふらす雲を、突き抜けてみたい。あなたに会えた幸せを感じて、風になりたい。

でも宮沢の歌い上げた言葉が6人の歌声に姿を変えて、秩父の穏やかな風に乗って、僕らの耳にダイレクトに届けられました。

覚めない秋の夢と、ここまで来た意味の大きさを残して、エビ中 秋麗と轡虫と音楽のこだま 題して「ちゅうおん」2020は終幕となりました。また来年もその次の年も、こんな舞台に出会えますように。

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それではそろそろ寝ますです。
おやすみなさいグー。

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