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ショートショート「逆流」

朝はパン派だ。カリカリに焼いたトーストの上に一欠片のバターを溶かし、はちみつをかけて食べるのが私のモーニング・ルーティーン。このときに重宝するのが、アルミ製のバターナイフ。自分の体温が、熱伝導率の高いアルミを伝わって、固いバターを溶かす仕組みだ。

そして、このナイフにはちょっとした秘密がある。たとえば、私が落ち込んでいる時にこのナイフでバターを切ると、一瞬でバターの風味が損なわれてしまう。また、怒っている時に使うと、バターはイガイガした食感に変化する。このナイフは、自分の体温だけでなく感情や記憶も、バターに伝えてしまうようだ。私がそのことに気づいたのは、つい先月のこと。このナイフを使い始めて1年以上経った後のことだった。確かに思い返せば、日によってバターの味が違っていた。

そのことに気づいてから、私は朝をハッピーな気持ちで迎えることに全力を注いだ。夜寝る前にはゆっくりお風呂に入り、8時間睡眠した後、自然光で目覚める。その成果もあって、最近は毎朝、ハッピーな気持ちを伝導させた絶品のバタートーストを楽しんでいる。

ただ、ひとつだけ気がかりなことがある。ここ数日、同じ夢ばかり見るのだ。牧場の真ん中でたくさんの牛たちに囲まれながら眠る夢だ。これは、誰かの記憶だろうか。

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