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ショートショート「寒い男」

考えたアイデアを、ちゃんと文章にして最後まで書ききる訓練として、「文案」シリーズを始めてみます。拙い文章ですが、少しずつ上達していければと思います。

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寒い男

さむ・い【寒い】

お笑いの世界では、面白くない芸やギャグに対して比喩的に使われる言葉だ。

但し、お笑い芸人・コールド雪村のギャグは、本当の意味で「寒」かった。彼は、自身の発するギャグによって周囲の気温を下げることができるのだ。

彼が、自分の能力に気づいたのは、高校2年生の秋。世界史の授業中、「ナーランダー僧院に並んだー」とボソッとつぶやいた瞬間、クラスメイトが一斉にカーディガンを羽織りだしたことがきっかけだった。芸人にとって致命的なハンディキャップを持って生まれた彼だったが、自ら茨の道を進み芸人になった。芸人になってからも、いろいろな意味で「寒い」と言われ続けた。

それでも、彼は芸人として活動を続けた。すると、彼の「能力」の噂は少しずつ広がり、真夏の海の家での営業や野外フェスの前説に呼ばれるようになった。彼がギャグを披露するたびに、太陽の照りつけるビーチには心地よい風が吹いた。芸そのもので笑わせることはできないが、お客さんを笑顔にしていることに変わりはない。彼は、それで満足していた。

問題は、冬だ。ただでさえ「寒い」場所で彼がネタを披露すると、気温は氷点下を下回り、雪まで降りだしてしまう始末だ。これではネタどころではない。

ところが、彼はそこに目をつけた。温暖化による雪不足に困っているスキー場へ出向き、ネタを披露する。すると、山には雪が振り始め、辺り一面銀世界になった。体力は消費するが、これが案外いい稼ぎになるのだ。

彼はいつも、ひと仕事終えるとお客さんたちと一緒にスキーを楽しむ。

スベることならお手の物だ。

(了)

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