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「漫談はどこまでもいける」街裏ぴんくが架空漫談で闘い続ける理由

今回は架空漫談を得意とする漫談師・街裏ぴんくさんをインタビューしてきました。現在の所属事務所に至までの経緯やネタの作り方、漫談独演会に向けた意気込みを伺ってきました。

上京して悪役俳優事務所に入る

立川:以前、プリンセス金魚のみんなのたかみちさんを取材したときに、今1番おもしろい芸人さんとして街裏ぴんくさんを挙げてたんですよ。

街裏:嬉しいですね。1年間しかいなかったんですけど、松竹に所属していたときに金魚さんやさらば青春の光さん、ピーマンズスタンダードさんたちにお世話になりました。

立川:街裏さんのきちんとした芸歴を知りたいんですが、始めたのはいつですか?

街裏:2004年ですね。19歳のときに始めたので、芸歴は16年目です。

立川:他の媒体でフリーから松竹時代の話をされてたのでその部分は割愛しますが、松竹から悪役俳優事務所に入った理由を教えてください。松竹を辞めたのは自分からですか?

街裏:そうですね。松竹をやめたのは吉本新喜劇の座員になりたかったからです。弟子入りの申し出して打ち砕かれたりして、フリーの状態で東京に出てきました。でも事務所に全然入れなかったので、おもしろい出方したろと思って入ったのが悪役俳優事務所です。

立川:芸人の方も所属されてたんですか?

街裏:芸人はいないところでした。面接でサイゼリヤに行ったら奥にいかついオールバックの人がいて、ネタだと思われるんですけど、デカンタで赤ワイン2杯目いっとけよみたいな見た目なのに、さわやか白ぶどうを飲んで待ってたんですよ。

立川・坂本:(笑)

街裏:今までどこのお笑いの事務所もダメだったけど、所属が即決して「お笑いをやりながら悪役の仕事も勉強してほしい」と言われました。でもだんだんお笑いの方もアドバイスされるようになって、期待に答えられないということで4ヶ月でやめました。

立川:Vシネマとか再現VTRの仕事はありました?

街裏:『めちゃ×2イケてるッ!』にエキストラで出ただけですね。もうちょっとドラマとかやればよかったと後悔はあるんですけど、その事務所を辞めてトゥインクルに入って1発目にきたドラマの仕事が悪役だったんですよ。大島優子さんのドラマ『ヤメゴク〜ヤクザやめて頂きます〜』のエキストラで、その現場で悪役俳優事務所の元同僚と会ってめちゃ気まずかったですね。結局これやってるやないかって(笑)

架空漫談が生まれるまで

立川:街裏さんの持ち味と言えば架空漫談ですが、漫談を始めた当初は架空漫談ではなかったんですか?

街裏:そうですね。最初はコンビを3年やって、解散して1年はフリップ芸をやってました。作家さんの提案がきっかけだったんですけど、「かわいいことをしてギャップを狙うんじゃなくて、インパクト残すためにまんまやんけって言われるようなことをした方がい」と言われて、フリップを使ったキレ芸をしたんですよ。でもそれに限界を感じて、漫談を始めました。

キレ芸が大阪ではわりと確立していってる中で、本当にやりたかったことは今の架空漫談でした。でも当時は今ほど完成してなかったのもあって、大阪ではそんなにウケなかったんですよ。人がやろう思ったらやれる範囲の嘘しかやってなかったですね。ボケるためだけについただけの嘘みたいな感じでやってました。

立川:漫談をやってて普通に1人コントをやったらいいんじゃないかとか心無いアドバイスをされたことはありますか?

街裏:1番印象に残ってるのは松竹の学校のときに「もうええ」と言われたことですね。毎週ネタ見せで漫談をやってたんですけど、歌がうまいんだから、歌作ったりせえよと言われました。それで作ったのがチャーハンの歌です。他にも何曲か作ったんですけど、やっぱり漫談やらせてくれと頼んで、また漫談やってました。

立川:そもそも漫談をやりたいと思ったきっかけは何ですか?

街裏:最初のきっかけは希少価値ですね。唸るような漫談家って思い付く人が限られるというか、きみまろさんとか世代も違うし、そこに入り込んでいきたいと思いました。
当時(2007年頃)YouTubeができたてで、たけしさんの漫談を見たんですけど、それがツービートよりおもしろかったんですよ。ツッコミがなくて言い放ってる方が空間を掌握されてるというか、わざわざこんな箱に入れられて、一方的に世間への文句とかを聞かされてるみたいな。漫才って半々じゃないですか。それが全面にお客さんに向くほうがおもろいなっていうか、情熱みたいなものを感じました。自分の考えを訂正されないまま届けるっていうことの魅力ですよね。たけしさんもきっかけの1つです。

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立川:ネタはどういう風に作ってるんですか?

街裏:結構幻滅されるんですけど、ちゃんと机座って一語一句書いて作ってます。設定というより、登場人物の言葉やちょっとしたやりとりとか、それ自体でおもしろいと思うものをメモって、どこで行われてるのがおもしろい状況なのか考えるのが1番多いパターンです。
あと会話劇が好きですね。こんなことを聞いたんですよ、こんなのがいたんですよみたいなレポートにならないように心掛けてます。漫談の深みを加えて、人には真似されへん領域にいけたんじゃないかと思います。まだまだですけどね。

立川:ネタのところどころに絶対嘘だろってのもあれば、本当にちょっとありそうだなってやつもありますが、そういうのも意識してますか?日本刀屋さんに行ったっていうネタの時のお店の名前が「刃買占(はがいじめ)」とか、ちょっとあるかもしれないと思いました。

街裏:そうですね。ちょっとありそうな嘘の方が好きなんですよ。でもそれだと抑揚がないので、ありえないような嘘をおまけにして入れている感じです。

例えば「はじめてのおつかい」のネタがあって、ラストで子どもに翼が生えて飛んで行くくだりがあるんです。でもそんなありえないボケって自分でも冷めちゃうんですよ。嘘やんって。それ以外も嘘なのに。だからその場合は「視聴者のみなさん、ここからは合成映像になりますぞ」とナレーションを入れたりします。それによってリアリティが増すというか、そこまでドキュメントだったのに、そこからフィクションなのかよみたいに調節するんです。そういう細かいところがファンの方が好きでいてくれてる理由なのかなって。

立川:これはやらないみたいな自分なりのルールはあります?例えば死者は出さないとか。

街裏:死者はもう出してしまったんですけど、引くようなことは言わないとか、下ネタはその下ネタのレベルを絶対に凌駕したセンスと発想力で望むとか、意識はしてることはありますね。あとわりと「富山県の小矢部(おやべ)市」みたいに現実の地名を使ったり、年齢は本当のことを言うみたいな細かいところで変なこだわりもあります。

『バスク』を期に架空漫談が確立

立川:架空漫談をやり続けて、やっぱこのスタイル間違ってないんだなって確信を得られたきっかけは何ですか?

街裏:やっぱ『バスク』ですかね。当時、月20本ライブをやってて、そこで確立した架空漫談でホイップクリームのネタを1番最初に出させてもらったときにぶつけたらめっちゃウケました。

立川:『バスク』は特にお笑いライブを見慣れてる人が来てるイメージがあるので、演者のチョイスもお客さんが入る人を呼ぶというより、本当に芸人ウケする人が出てる感じですよね。

街裏:そうですよね。『バスク』を通して東京にはこんなにおもしろい人たちがいるんだって思いました。やっぱり未だに初見の人の前では難しかったりするので、ウソTシャツを着るようになったんですよ。R-1でも着ましたね。ゾフィーの上田に前年度から相談して案もらったんです。2、3分でやらなあかん中、ウソTシャツしかないんじゃないかと。やっぱ微妙な嘘つきたくて、着ないと本当の話だと思われちゃうので。

立川:『ガキ使』で毎年年始にやっている『山−1グランプリ』に出演されたときは松本人志さんも「最初ほんまなのかどうなのか」と言ってましたよね。漫談である以上、ある程度実話を話してる前提というか、固定概念があるじゃないですか。

街裏:やついさんからも他の人よりも1分間損すると言われました。だからちょっと考えないとなって。

立川:ウソTを着るのはご本人の中では心苦しかったですか?

街裏:かっこいい服装で出たいので嫌ですけど、メジャーなものにしたいので通るべき道だと思ってます。やっぱりアングラにはなりたくないんですよ。自分が伝えられる最大限の人に伝えたいと思ってて、めちゃくちゃ地上思考なんですよ。勘違いされるんですけどね。ヤーレンズにも「関わっちゃいけない人だと思ってた」と言われて。大阪にいるときはアングラの人でしょって思ってたらしいです。上京して僕の地上思考が伝わったのか、K-PROさんが呼んでくれるようになって、ヤーレンズも多分遠目で見てたんでしょうね。イジっていいんだ、ちゃんと返す人なんだってわかったから好いてくれたみたいな。

立川:たしかに平場の感じを見てないと、どうしてもいかつい感じの人なのかって思われそうですね。仲良くなりたい芸人さんはいっぱいいると思いますよ。

街裏:本当ですか?嬉しいな。本当ですね?

立川:もちろんです!今はすべての舞台でウソTを着用されてるんですか?

街裏:使い分けてますね。虹の黄昏ランジャタイ街裏ぴんくってときは多分わかってもらえるだろうなと思うので蝶ネクタイですね。でも営業や初めて絡ませてもらう芸人さんとはウソTです。極力着るタイミングは減らそうとは思ってます。

立川:ちなみに今度虹の黄昏さんも取材するんですよ。

街裏:「ガメラの金玉」って言うのだけほんまにやめてくださいって言っておいてください。金玉でいいんですけど、ツッコミの言葉がもうないので…

立川:ガメラがフォルムが思い浮かばなくて今ググりました(笑)

ガメラ

参照・ガメラ

街裏:こいつに金玉あるのかわからないですけどね。

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鶴瓶師匠との思い出

立川:いろんな芸人さんから認められてる印象がありますが、認められて特に嬉しかった芸人さんは誰ですか?

街裏:やっぱり鶴瓶師匠ですね。『ヤングタウン日曜日』でおもろいと言っていただいて、そこからライブに出させてもらって、『桃色つるべ〜お次の方どうぞ〜』に出させていただくという流れがあって、本当にありがたかったです。

立川:鶴瓶さんに言われて嬉しかった言葉とか、収録の裏話があれば教えてください。

街裏:嬉しかったのは、『桃色つるべ』で僕の前の回に出てたIMALUさんが「今どの芸人がおもしろいですか」と番組の最後に聞いて、そこで鶴瓶さんが僕の名前を出してくれたことです。そのフリがちゃんとあって、次の週に僕が出たんですよ。だからもう少しちゃんとできたら良かったんですけど、終わった後に「あがってたな」と言われるほどあがっちゃいました。

最近も宝くじのCMで僕も一応サブキャストって形で出たんですけど、『桃色つるべ』以来にお会いしたんですよ。「うらまち…街裏や」とみんなの前でイジってくれたり、待ち時間も退屈させないようにずっと笑わせて和ませてくれたりしたんです。あのレベルになるとそういう愛され方をされなきゃあかんねんな、そういう愛され方をするにはまず関わってくれてる人たちを愛してんねんなと思いました。

立川:なるほど。ももクロにはどんなことを言われましたか?

街裏:終始どう見たらええねんって感じでしたね。「嘘ってTシャツに書いてなかったら全然わからない」みたいな。漫談も3、4本やらせてもらったけど、質問はほぼ嫁のことでした。情報としてあったので、興味を持ってくれたんでしょうね。

立川:たしかに僕もちょっと気になりました。結婚式は挙げたんですか?

街裏:身内だけの小さいやつをやりましたね。母親が打ち合わせについてきてくれたんですけど、結構変わった人なんですよ。今はもうやめてるんですけど、当時結構ヘビースモーカーで、ブーケトスとかする広場あるじゃないですか。あそこでタバコ吸えるか支配人に聞いてましたね。誰があそこでタバコ吸うんですか。1時間くらい滞在してるとかだったらね、でも10分くらいじゃないですか。そんな感じでしたね。

漫才を見てるかのように華やかな漫談を

立川:最近おもしろいと思う芸人さんを教えてください。

街裏:カナメストーンはおもしろいですね。以前、「これ言っとったらおもろいやろってのはちゃいますよね」という話で意気投合しました。僕はそっち側の芸人だと思ってたんですけど、ちょっと別格だなと思ってたのはそこだったと。初見の人でもちゃんとわからせたいけど、新しいこともしないとねと。

立川:カナメストーンのブチギレる感じもおもしろいですよね。

待裏:ブチギレ芸と言えば最近赤もみじも出てきましたよね。M-1でもっといくと思いました。あと虹の黄昏と米粒写経の居島一平さんは大尊敬してます。どんなときでも手を抜かないし、「俺らはこれや!」って突き進んでる。その情熱に魅せられましたね。

何年か前まではワードセンスとかそういうものに惹かれてましたけど、今はもう魂ですね。M−1の動画を見てても、賭けてきてるのが滲み出てきてるやつがあるんですよ。数ある中の1つをやったやつとの違いがちょっとわかるじゃないですか。やっぱり渾身のネタの方が心揺さぶられますね

あとは話術とか話芸に興味を持ち出してきました。どんだけおもろくても喋りが上手くないと見ていられなくなりました。だんだんおっさんになってきたのかもしれません。自分もちゃんとせなあかんと思います。

立川:最後に単独ライブの意気込みやメッセージをお願いします。

街裏:今回の漫談独演会では漫談を通して伝えたい思いがあるので、それを感じに来てほしいです。タイトルも『街裏ぴんく』なので、僕のことをよく知らない人でもこれで全部わかってもらえると思います。チラシにも「街裏ぴんくの全てを知ってくれ」と書いたんですよ。賭けてますよね。

Twitterにも書いたんですけど、Aマッソの加納が『冗談手帖』で僕を推してくれたときに、漫談の素晴らしさを語ってて、僕はそれを胸に刻んでやってるんですよ。今回もそういう気持ちで、漫談はどこまでもいけるということを見せたいです。

自分でもツッコミを入れてもらった方が伝わりやすいとか、増幅していくというのはわかるんですよ。とてつもない歴史やパターンがある漫才に対して敵対するんじゃんなくて、追いつかなあかんなって思いでやってますね。漫才より地味に見せたくないので、漫才を見てるかのような華やかさ、鮮やかさで漫談を披露できたらいいなと思います。

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街裏ぴんく プロフィール


トゥインクル・コーポレーション所属の漫談家。1985年2月6日生まれ、大阪府堺市出身。笑福亭鶴瓶・鈴木おさむといった著名人らも太鼓判を押す、話の内容がウソで構成された「架空漫談」を得意とする。トゥインクル・コーポレーションに所属する若手芸人のナンバーワンを決める大会「トゥインクル1グランプリ2019」優勝。12月18日(水)に座・高円寺2にて 第六回 街裏ぴんく漫談独演会「街裏ぴんく」を開催予定。

※公演の詳細は街裏ぴんくさんのツイッターをご覧ください。


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