考えるレクチャー「來嶋路子さん 本をつくる、くらしをつくる」 レポ(後編)
アートとまちづくりを学ぶアートスクールThink School卒業生有志により企画された考えるレクチャー「本をつくる、くらしをつくる」。
2019年3月24日に行われた「森の出版社ミチクル」の來嶋路子さんの講演レポートの後編です。
北海道岩見沢市に移住して山を買い、そのいきさつを本にした來嶋さん。
そこには記されていないことをお話していただきました。
前回の記事はこちら
山を買った來嶋さんに起こった思いがけないこと
岩見沢に移住してからも激務をこなしていた來嶋さん、「自分のやりたいことでボロボロになった方が楽しいじゃん」と思い、『山を買う』という本をつくったそうです。
すると、この本が小さい地域の中で少しずつまわり始め、その様子を「素敵じゃない」と感じた來嶋さんは、2冊目の本をつくるときに「森の出版社ミチクル」を立ち上げました。
そんな來嶋さんがどうして山を買ったのかというと……東京のお友達が岩見沢に遊びにきて、元気になって帰っていく姿を見て「みんなが集えるところを作りたい」と考えたそうですが、広い土地は値段が高くて難しい。そんなときに山が買えることを知り、お友達と一緒に中古車1台分くらいの値段で、8ヘクタールの山を買ったそう。
山を買った來嶋さんにはその後、思いがけない効果があったそうです。
「フリーランスになってからも月に一度、東京で取材をすることがあり、取材相手にポロッと『こないだ北海道に山買ったんですよね』というと、『何それ?』と食いついてくるんです。『あっ、これってネタで使えるな』と。
私の仕事にとって名前を覚えてもらうというのは重要で、例えば取材相手が有名人で、こちらが無個性だと思われると、話が誰に話しても同じような内容になりがちです。
こういうスタイル(子連れ)で仕事をしているとか、『山を買う』ってことは、実は誰でもできることだと思います。
しかも、それをやっちゃっただけで、個性のある人って言われるようになります。
それまで自分には個性がないというコンプレックスがあったので、『内面から何かが湧き上がる岡本太郎みたいにならなきゃ』と思っていたところがありました。でも、そういうんじゃないのかもと最近は思います。
山買って、子連れで、遠距離で編集している。
そんな外的要因が個性になるとしたらすごくいいなぁって思っています。
そして、いつしか『來嶋さん、お子さん連れて取材に来ますよね?』と相手が言ってくれる逆転現象がおきました。
最初は、「子連れで」っていつカミングアウトするかが大問題で、取材の依頼を受けてから、「子どもを連れていくけど、泣きませんのでよろしくね」と伝えていました。
でも、この頃はこの状態を面白がってもらえるようになっています。
人間に興味を示してもらえると仕事もしやすくなるんだなぁと思っています。
最近は「社会実験中です」って言うようにしていますね(笑)」(來嶋さん)
マイナスもネタに。でなければ山でも買って(笑)
「仕事には、『便利に使いやすいからと頼まれる仕事』と『不便だけど面白いからやりたい仕事』との2つあり、今は、面白いからやりたい仕事に少しシフトしているのかなと。
マイナスと思っているところもバンバンネタにしてやっていきましょう。
それがなければ、山を買ってネタを作ったりしてみたらいいと思います(笑)。
意外と簡単なことで自分が面白いと思われるチャンスがあるので、みんなも頑張りすぎずに、楽しんでもらえたらいいなあと思っています」(同)
「思いをそのままの温度で伝えたい」……出版業界の表も裏も知り尽くした來嶋さんだからこそ別の道を切り拓けたのでしょう。
その一心で生まれた本。それは類をみない個性をはなっています。
そして、外的要因が個性となる!これは考え方や見方をちょっと変えると生まれてくる。自分なりの生きやすさを再考するとても刺激的なお話でした。
出版業界の流通の仕組み、一冊の本ができるまでの工程といったプロフェッショナルなお話から、東京からいきなり北海道にきてびっくりしたこと、子育てしながらのお仕事のことまでと、面白くあっという間の2時間でした。
爽やかな印象の講義でしたが、熱い思いは確かに私たちに伝わりました。
編集追記:
講演から2年が経ち、來嶋さんを取り巻く状況も変わったようです。
一緒にいらしたお子さんは保育園に通われているとか。
森の出版社 ミチクル からは「続・山を買う」、長編「やまの会が語った 死ぬと生きる」が刊行されました。
來嶋さんの山を買った理由や山を買うにはどうしたらよいかを知りたい方は「山を買う」、「続・山を買う」をぜひ読んでみてください。
手書きの絵と文でほっこりとした一冊です。
森の出版社ミチクル
https://www.facebook.com/michikuru
(文:企画1期はせがわひろみ/写真:制作1・2期岩﨑麗奈/編集:2期わたなべひろみ)
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