見出し画像

[室町とんちミステリ紹介]~とんち探偵・一休さん 金閣寺に密室[ひそかむろ] 鯨 統一郎~[2463文字]

密室と書いて、「ひそかむろ」と読ませるとは凝っていますが、肝心の密室トリックはというと・・・うーん、読んで、なんじゃこりゃぁと怒るミステリーファンの方もいるかも知れないですね😓。

まぁ鯨 統一郎さんのミステリーは、トリックやロジックで読者を惹きつけるのではなく、新たな角度からの想定外の解釈(こじつけとも言えそうですが💦)で、読者を唖然とさせるのが魅力と言えます。
(決してこれが本当の歴史だと思う人はいないと思いますが😅)。

それはさておき。室町時代の人物で、老若男女を問わず好印象を持たれているのは、「とんち小僧の一休さん」ではないかと思います。
昔話として親しみがある上に、1975年から1982年までの長期間、子供向けアニメ番組として放送されたことも、その一因ではないでしょうか🤔。

子供向けということもあり、アニメでは一休さんは8歳くらいの子供の設定で、頓智でやり込められる時の将軍・足利義満は、偉そうで軽薄だけれど根はやさしく善い人的な描かれ方をしています。

そんなアニメのイメージでこの作品を読むと、かなりとまどうことになるでしょう💦。

一休さんは15歳の小僧で京都弁を喋り、足利義満は家来の奥さんや娘さんに手を出すどうしようもないゲス&クズな人物として描かれていますので💦。
義満のファンの方は読まない方がいいような感じですね😓。

ー物語は、春には珍しく大雪が舞った日に、山椒大夫という人買い商人が京の太秦で虎に食い殺されたとしか思えないような死体で発見されるところから、その幕をあけます。

足利将軍の邸宅は、永和四年(一三七八)、義満が二十一歳の時に造営した室町殿である。京都北小路室町にあったのでこの名がある。だが応永四年(一三九七)、四十歳の時に北山第[きたやまてい](金閣寺)を造営すると、義満は北山第に移り住み、そこで政を執り行った。
 
 北山第は北御所と南御所からなり、義満が居住するのは北御所、義満の後妻、日野康子が居住するのが南御所となる。
 北山第は広大な土地を有するが、寺領内の鏡湖池[きょうこち]の畔に舎利殿・金閣が建てられている。金閣は三層の楼閣で、初層は寝殿造り、中層は武家造り、上層は唐様造り、その造営には珍木を使用し、金箔で覆われていた。

「とんち探偵・一休さん 金閣寺に密室」鯨 統一郎より

そして足利義満のクズ&ゲスっぷりがさんざん描かれたあと、物語全体の4割程度あたりで、ようやく足利義満が金閣寺の最上階で、首をつって死んでいるところを発見されます。あぁ、ここまで長かったなぁ😓。

義満の死は、関係者によって病気による死亡として公にされますが、四代将軍・足利義持[あしかが よしもち]の弟で、父・義満から偏愛されていた足利 義嗣[あしかが よしつぐ]は、義満の自死に納得がいかず、義満のお気に入りだった能役者の世阿弥を、京・建仁寺の小坊主、とんちで有名な一休のもとに遣わせます。

「一休。義満様がご自死されるようなお方に思えるか」
[略]
「あのお方はご自死されるようなお方ではないですやろ」
[略]
「義嗣様もその様にお考えだ」
「そう思うのが当たり前どす」
「義嗣様は義満様が何者かに殺害されたと考えていらっしゃる」
「そやけど、義満様が死んでた部屋は中からつっかい棒がかまされてたっちゅう話でしたな」
「それは義満様を殺害した下手人が施したからくりであろうと義嗣様はいうのだ」
「そう考えたくなるのが父と子の人情やが、金閣の周りを護衛の侍が取り囲んでおったんどすやろ」
「そうだ」
「そうなると、やっぱり殺害されたっちゅうのは無理や」
「だがどう考えても義満様が自ら死を選ぶなどとは信じられん」
[略]
「部屋の中からはつっかい棒。金閣の周りには警護の侍たち。これでは義満様が首を吊られた究竟頂[くぎょうちょう]は密室[ひそかむろ]どす」
「密室・・・」
「そう誰も中には入られへん部屋っちゅうことどす」

「とんち探偵・一休さん 金閣寺に密室」鯨 統一郎より

うーん、一休さんだけ京都弁、違和感がありますね💦。
そして世阿弥に大きな借りがある一休さんは、義満の死の真相を突き止めることを引き受けます。

人買いの山椒大夫のところから逃げ、建仁寺の慕哲龍攀[ぼてつりゅうはん]和尚によって寺で雇われることになった十四歳の少女のと、一休さんの頓智にほれ込んで勝手に弟子入りをした問注所の検使官・蜷川新右衛門[にながわ しんえもん]の二人を仲間としてー。

ストーリーの都合上、この物語は足利義満の皇位簒奪説が事実として書かれています。
(義満の皇位簒奪は確たる根拠となるものはなく、否定する説もあります)
また他にも定説とはなっていないものを取り込んで物語は構築されています。
当然ながらこの作品に書かれていること全てが歴史の定説になっているものではなく、あくまでもエンタメとしての歴史ミステリ(ツッコミどころはあるでしょうが💦)として読んでいただければと思います😅。

一休さんの有名な「とんち話」のいくつかを作中の随所にちりばめ、それを見る角度を変えた新解釈で物語の伏線にして、最後に回収してしまう点は、デビュー作『邪馬台国はどこですか?で読者を唸らせた鯨統一郎氏の真骨頂と言えますね😆。

最期に一休さんが事件の関係者を一堂に(金閣寺に)集め、事件の謎解き&犯人の指摘を行うのは、本格ミステリのお約束として楽しませてくれます。
謎解きの内容に納得できるかどうかは別にして!😆

そして、無事に事件を解決した一休さんと新右衛門、茜の三人は京から旅にでます。

「あ、茜雲や」
 一休が空を見上げて言った。
「いい色ですな。明日も晴れそうですぞ」
「明日はどこへ行こう」
「師匠。難波です。我々は難波に向かうと言ったではないですか」
「そうやった」
 新右衛門と一休は笑い声を上げた。茜もなんだかおかしくなった。

「とんち探偵・一休さん 金閣寺に密室」鯨 統一郎より


そして、短編集『とんち探偵・一休さん 謎解き道中』へと、三人の旅は続いていきますので、いつかそのうちに読もうと思います😅。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?