「違法の冷蔵庫」ショートショートnote杯

資産家の祖父は慈善家としても有名だった。

そのため住まいこそ立派だが、部屋に飾られてる美術品は全て模造品だ。

その祖父が先日亡くなり、孫の僕に『違法の冷蔵庫』を譲ると遺言を残していた。

「尚、『違法の冷蔵庫』を見つけられなかったら、然るべき所に寄贈する事になっております」弁護士が言った。

見つける？ふむ『違法の冷蔵庫』とは何か別のものを指す言葉らしい。

「祖父の部屋に行ってもいいですか？」僕の言葉に弁護士は頷く。

暗号にもなってないよ。僕は心の中で祖父に言った。

祖父の部屋の四つの壁に飾られてる有名な日本画は全て模造品。
そうひとつを除いて。

言葉の並び替え（アナグラム）だった。
「いほうの」は「亥の方(角)」＝北北西。
その方角に飾られている絵画は岸田劉生の「麗子像」＝「れいぞうこ」だ。

「この絵だけが本物なんですね」僕の問いに弁護士はただ頷く。

僕は言った。

「この絵は然るべき所に寄贈して下さい。僕の家に「冷蔵庫」はもうあるので」