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小説・Bakumatsu negotiators=和親条約編= (22) ~反論~(1739文字)

※ご注意※
これは史実をベースにした小説であり、引用を除く大部分はフィクションです。あらかじめご注意ください。


ペリーは口を開き、以下のように発言しました。

「わが国は従来から人命を重んじることを第一とし、国の政治を執行してきた。それゆえ、自国民のみならず他国民も、たとえ国交の結ばれてない国であっても、漂流民に対し、救助し保護をしてきた。しかるにー」

ペリーは糾弾するかのように、言葉を続けます。

「貴国はどうであろうか。人命を軽んじ、日本近海で我が国の船が遭難していても、漂流民を救助することなく、海岸に船が近づこうものならば、大砲で威嚇・砲撃し追い払おうとする。流れ着いた漂流民に対し、保護するどころか、罪人のごとく扱い、牢に閉じ込める。
貴国の漂流民を返還しようと海岸線に近づいても、漂流民受け取りを拒否し、自国民を見捨てる。貴国が人道的国家とは到底思えない」

そこでペリーは言葉を切り、林復斎はやしふくさいの様子を見ました。
林復斎はやしふくさいは通詞の森山栄之助が訳し伝えるペリーの言葉を、ただ黙って聞いていました。
その表情は全く変わらず、何を考えているのか、ペリーには伺うことができませんでした。

ふん、ポーカーフェイスを装うか。どこまで続けられるか見ものだな。
ペリーはここで恫喝の言葉を口にします。

「わが国と貴国は太平洋を隔てた隣国であり、今後ますます、わが国の船舶が貴国の領海を航行することになろう。しかし、わが国の船舶や漂流民に対し、貴国が従来と変わらぬ非人道的応対をするというのであれば、わが国として、とうていこれを看過できない。貴国がわが国の船舶に対し威嚇、攻撃をし、漂流民を手厚く保護しないというのであればー」

ペリーは、一旦言葉を切り、そして語気を強めて言いました。

「貴国は、わが国にとって、敵国と言わざるをえない。
貴国が敵国であれば、わが国は総力をあげて戦争を行い、雌雄を決する覚悟である。戦争の用意はすでに完了している。
ご存知ないだろうが、わが国は先日、国境を接しているメキシコと戦争し、国都を攻め取った。戦争の道を選び、メキシコを同じ運命をたどられるか、それとも平和の道を選ばれるか。よくよく考えていただきたい」

一気呵成に畳み掛け、ペリーは発言を終えると、自分の言葉を通詞から聞いた林復斎はやしふくさいの表情がどう変わるかを観察します。

言葉が通じないというのは面倒なものだ。
あの通訳の者は、わたしの言葉をどれだけ正確に伝えているのであろうか。
変に気をきかせ、オブラートに包んだ通訳をされては困るのだが。
相変わらずポーカーフェイスのままということは、もしかするとそういうことなのかも知れない。

強気で日本に迫る腹づもりのペリーは、少し不安になりました。

しかし、通詞として日本ではトップクラスのひとりである森山栄之助は、ペリーの言葉を正しく林復斎はやしふくさいに伝えていました。

森山栄之助が通訳を追えると、林復斎はやしふくさいは、相変わらず表情を変えず、冷静に答えました。

「適切なのであれば、戦争に及ぶのも宜しかろう」

『現代語訳 墨夷応接録』 森田 健司(著)

アメリカが日本に対し戦争を行うことが適切だと言うでのあれば、日本としては、これを受けて立たとうー。

ペリーが想定もしなかった答えが日本側から返って来たのでした。

この男、正気か。
戦艦一隻ももたず、時代遅れの火力、兵力しかない国が、身の程を知らないにも程がある。
なぜだ?わたしは、しくじったのか?
窮鼠、猫を噛むというが、わたしは日本を追い詰め過ぎたのか?
ペリーは困惑しました。

日本が最初に攻撃をした場合に限り、反撃は許可されているものの、それは例外であり、ペリー自身に戦争を行う権限は、大統領から与えられていません。

綱渡りの強気の交渉をしているのはペリーの方でした。

「続けてよろしいか?」

英語に訳された林復斎はやしふくさいの言葉を聞いて、ペリーは我に返りました。

「・・・あ、ああ、どうぞ」

「では、続けさせていただく」

林復斎はやしふくさいは言葉を続けました。

日本側の反論が始まりました。


■参考資料
『開国史話』
 加藤祐三(著)

『現代語訳 墨夷応接録』
 森田 健司(著)

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