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[ミステリ感想]『ヴェルサイユ宮の聖殺人』(著:宮園 ありあ)

ヴェルサイユ宮の聖殺人』は第10回アガサ・クリスティー賞優秀賞を受賞した作品で、作者の宮園 ありあ氏はこの作品で2021年にデビューしました。
(大賞は『掃除機探偵の推理と冒険』)

なにが凄いと言ってもこの作品、日本人がひとりも出てきません。

それもそのはず、時代は国王ルイ16世の治世、1782年。舞台はフランス、ヴェルサイユ宮殿。(フランス革命が1789年だから、その7年前。まさにフランス革命前夜の時代です)
そのヴェルサイユ宮殿の中の施錠された部屋で殺人事件が起きます
殺されたのはパリ・オペラ座の演出家で、徴税請負人のトマ・ブリュネル。

事件を追及する探偵役は、国王ルイ16世のいとこで、かっては王妃マリー=アントワネットの総女官長を務めたこともある、パンティエーヴル公妃マリー=アメリー。
そして、マリー=アメリーの相棒となる、フランス陸軍大尉でパリ王立士官学校教官のジャン=ジャック・ルイ・ド・ボーフランシュ大尉。

10代の頃は海外のミステリも平気で読んでいたのですが、段々と名前を覚えるのが辛くなってきて、日本ミステリにシフトしていったボクとしては、とにかく登場人物の名前が覚えにくい!もう、何度、登場人物紹介のページを見直したかわかりません!😫。

とはいえ、それさえ乗り越えることができれば、意外と読みやすい部類に入る作品だと思います。
巻末には6ページにも渡って参考文献が記載されていますが、それにふさわしい、まるでフランスで書かれた歴史ミステリ小説を日本語に翻訳したのかと思ってしまうほど、圧倒的な描写で、18世紀末のフランスの世界へといざなってくれます。

ただし、謎解きミステリとしては正直言って、薄いです
(本格ミステリの巨匠、ジョン・ディクスン・カーが、後期に好んで書いた歴史ミステリ作品群の方が、謎解きの密度は濃いです)

ミステリとして読むよりも、ミステリ風味の歴史ロマン小説として読むべき作品だと思います。

この時代の知識が皆無なので、多彩な登場人物のうち、ルイ16世マリー・アントワネットシャルル=アンリ・サンソンぐらいは歴史上、実在した人物だとわかるのですが、それ以外の登場人物は、実在した人物なのか、創作の人物なのか、わかりませんでした。
この時代に詳しい方であれば、もっと作品を楽しめたのかもしれません。

尚、時代背景もあるのか、ボク的にはけっこうグロいと感じた描写がいくつかありました(個人の感想です)。

ミステリなので、細かなストーリーを書くとネタバレになりますので、書けませんが、作者の圧倒的な知識で構築されたフランス革命前夜の時代を味わえる作品であると言えます。
(ミステリーとしての謎解きの妙を期待されると・・・ですが😅)

ともあれ、この時代を取り上げた日本ミステリーはボクの記憶にはなく、作者の野心作ともいえ、そしてそれが見事に「歴史小説」として成功しているともいえます。

パンティエーヴル公妃マリー=アメリーと、その相棒、ジャン=ジャック・ルイ・ド・ボーフランシュ大尉の関係が今後どうなっていくのか、続編を期待したくなる作品でした😊。


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