『袋小路くんは今日もクローズドサークルにいる』著者:日部 星花
ミステリファンは、リアルタイムに読むことができる幸運を感じてほしい作品のひとつだと思います。
正直、もうそれ以上、何も言えません。
20世紀がほぼ終わりかけの頃から21世紀が始まっての数年間の思い出です。
ボクはひょんなことからあるミステリファンの方が運営するサイト『猟奇の鉄人』を知り、毎日更新される古本購読&書評の日記を、柱の陰から恐る恐るのぞき見するように見てました。
そのサイトには、様々なミステリーの古本蒐集の鬼ともいうべき人たちが集っていました。ボクのようなド素人が立ち入ることのできない世界であることはすぐに理解できたので、ひたすら読むだけで掲示板に書き込もうなどと大それたことは露思いもしませんでした。
そしてそのサイトから未読王さんのサイトも知り、こちらは毒のあるユーモアにあふれる文章で楽しませていただきました。
たぶん、未読王さんの購書日記で書評家として活躍されている大矢博子さんを知ったと思います。ずいぶんと毒のある書かれ様でしたが、それも同志愛ゆえでしょうか^^;。
数年間だけでしたが、遥か高みにいるミステリ&古本マニアの世界を垣間見れたことは楽しい思い出でした。そしてそこに集いし方々の名前の多くは記憶から忘れかけていますが、もし現在、それらの方々が、「この作品はいい」とネットで書かれたら、ボクはその発言を信じます。
なにしろ骨の髄までミステリの面白さを知り尽くし、忖度などせずに、「いいものはいい」と言われるであろう方々だからです。
というダラダラとボクの思い出話を書いたのも、『袋小路くんは今日もクローズドサークルにいる』を大矢博子さんが「秋の夜長は自宅で! 退屈させない珠玉の6作品! ニューエンタメ書評」で取り上げていると知って、大矢博子さんがチョイスするということは、この作品が面白くないはずがないと思ったからなのです。
なので早速読むべし、と思ったのですが、なぜか電子書籍化がされていなかったので(宝島社文庫さん、電子書籍化してください)、アマゾンで紙の本を注文し、読ませていただいきました。
かって推理作家の斎藤栄氏は、犯人が作中で探偵や読者に仕掛けるトリックとは異なり、作者が作品のストーリー全体で読者にしかけるトリックを、「ストリック」とネーミングしました。
が、一般的にはならずミステリ用語としては死語になっているようです。
まぁこのネーミングはちょっとな、というのが正直なところでして、活舌の悪いボクが「ストリック」というと別の言葉に聞き間違えられる可能性が高すぎます。
(それ以前に、ボクは斎藤栄氏の作品を読んだことがないので、どの作品が「ストリック」な作品なのか知らないのですが)
えーと、話が脇道にそれてばかりですみません。
書けないのです。『袋小路くんは今日もクローズドサークルにいる』の感想が!。
マジックとミステリの違いは、マジックは決してネタをばらさない。ばらしたら、なぁんだという失望感を与えてしまうことが多いから。
ミステリは必ずネタを最後に明かしますが、明かしてもなお、名作はマニアの読者からも、そうだったのか!見事に騙された!と称賛されるのです。
『袋小路くんは今日もクローズドサークルにいる』はまさしく、終盤において、「え?なんだって!」となってもう一度最初から読み直して、「そうだったのか!」と快哉をあげてしまいたくなる作品なのです。
本の帯にある、以下の辻真先さんのコメントは、作品を読み終えた後、読者はその本当の意味を知ることになります。さすが辻真先さん、なのです。
これは呪われたワトスンとホームズが、呪いに挑もうと
覚悟をきめるまでの、学園ミステリである。
そして同様に帯にある惹句。
特殊設定と不可能犯罪の往復ビンタ四連発。
学園で立ちすくむふくろうさんと、少女探偵時任さん。
安心の読み心地に酔っているあなたを襲う、一瞬の目眩。
そう、その“一瞬"にミステリの妙味は潜んでいるのです。
そう、まさしくボクがそうでした。
巻きこまれ型ワトソンとちょっとズレたところもある美少女ホームズのコンビによる、特殊設定状況下でのみ通用するロジックを駆使した学園ミステリとして、その安定した、苦みのある世界に浸っていたら、まさに一瞬にしてボクの思っていた世界は姿を変えたのです。
それはまさにイリュージョン。
もちろん種明かしをされても肩すかしなどかけらもありません。
下手に感想を書こうものなら、ネタバラししかねないので、あらすじすらもなにもボクには書けません。
ただただ、大矢博子さんの書評の一部を引用するだけなのです。(せひリンク先の全文を読んでください)
図書室で起きた傷害事件、美術室の死体、演劇部での服毒事件などなど、強制的クローズドサークルという設定が容疑者を絞ってくれるため、ひたすら純粋な論理的思考が楽しめる。だが……いやいや、その先は言わないでおこう。思わぬ仕掛けがあるぞ、とだけ伝えておく。ゾクリとした。
ボクがミステリに求める醍醐味のひとつ、まんまと騙されることの刹那の快感を存分に味わえた作品でした。
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