[読書感想]『ぼっけもん 最後の軍師 伊地知正治』著:谷津矢車(1243文字)
幕末・維新の勝ち組といえば、薩長土肥。
特に薩摩藩・長州藩があげられますが、中には薩摩藩・長州藩に属しながら、勝ち組から賊軍になってしまった人もいたしります。
例えば長州藩であれば、不平士族による「萩の乱」。
吉田松陰から人格を高く評価された前原一誠は、維新後、新政府で参議を務めるも、明治政府内の政策で対立して下野、やがて萩の乱を起こして、首謀者として処刑されます。
薩摩藩では西南戦争。西郷隆盛をはじめ村田新八、桐野利秋、篠原国幹等々、幕末・維新で功を成し、勝ち組だった者たちの多くが、賊軍になってしまっています。
(佐賀藩の江藤新平もですね^^;)
この「ぼっけもん」の主人公は、鳥羽伏見の戦い・戊辰戦争で活躍した薩摩の天才軍略家、伊地知正治です。
小説は、3つの時代の伊地知正治を描いています。
ひとつは幕末の鳥羽伏見から戊辰戦争で軍略家として活躍する伊地知正治。
ふたつめは維新後の明治政府内で、居心地の悪さを感じる伊地知正治。
みっつめは明治15年に薩摩に帰り、人を育てることに残りの人生の託そうとする伊地知正治。
現在軸となる明治15年の薩摩を起点に、過去の時代の描写挟まれて、描かれます。
伊地知正治は、西郷のように賊軍になることはなかったのですが、かといって、明治政府の中で出世したわけではなく、むしろ時代から取り残されていった存在として描かれているように思えます。
この小説に登場する幕末維新の有名人、大村益次郎、西郷隆盛、大久保利通らと、その頑固な性格ゆえか、心根をわかりあえなかった伊地知正治。
明治新政府の中で軍人として生きていくことが出来ず、かっての弟子たちからは時代遅れと疎まれ、組織の中で居心地の悪さを感じていく伊地知正治。
鳥羽伏見から戊辰戦争での活躍が鮮やかであればあるほど、維新政府内での伊地知正治の生きざまには、もどかしさとやりきれない切なさを感じさせます。
生き残った伊地知正治は、栄達に背を向け、自らに課した使命、薩摩の地で、たとえ弟子に裏切られようとも、種を蒔き育てることに人生を尽くそうとします。
口も態度も悪く、偏屈者で誤解されるけれど、弱きものを見捨てられない、希代の軍略家の不器用な生きざまは、なぜか、令和の時代に居心地の悪さを感じる、能力がありながらも忖度できずに出世コースから外れてしまった、昭和のビジネス戦士の姿がオーバーラップしてしまいます😅。
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