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エレツ・イスラエル博物館(@テルアビブ)

エルサレムにある「イスラエル博物館」とは別物で、「エレツ・イスラエル博物館」はテルアビブ北部にあります。いずれも1950年代のエルサレム・テルアビブの各市長肝いりで作られたものです。
ちなみにエレツ・イスラエル(Land of Israel)はイスラエルと比較して、聖書に記述されるより宗教的な「聖なる地」といったニュアンスを持ちます。1958年の開館時には「ハアレツ(The Land)博物館」という名称でした。

https://www.eretzmuseum.org.il/e/

ひとつの博物館と呼ぶには大きすぎ、8ヘクタールの敷地内に、上野でいえば西洋美術館と都美館と、国立博物館の平成館が7,8館分ある規模感です。敷地内には、Tell Qasileという、前12世紀ペリシテ人の遺跡もあります。

イスラエルでは、ユダヤ人の登場しない、いわば歴史以前の歴史には焦点が当たりにくいので、時代を超えたイスラエルを見るのにはよい所ではないでしょうか。ひとつのパビリオンの中でも常設展と特別展が並行しており、現代作家(Adi Nes)の写真展を見ていたと思えば、

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隣の展示室は「イスラエルの石器~金属器時代(BC4500年から3600年まで)の墓と埋葬」、頭が追い付かない・・。

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・コイン館(Kadman Numismatic Pavilion)
・郵便・通信館(Alexander Museum of Postal History & Philately)
・セラミック館
・人間と道具館(Man and His Work Center)
・銅器館(Nechushtan Pavilion)
・ガラス館(Glass Pavilion)
・モザイク広場
・ロスチャイルド家センター
・民族学・フォークロア館(Ethnography and Folklore Pavilion)
・考古学遺跡
・プラネタリウム
こうして見ると、完全に材料別。おもしろいことに、博物館創設の理念はLandesmuseumに由来し、19世紀ヨーロッパの民俗学(フォークロア)に基づき、民衆生活を展示すること。チューリッヒの国立博物館が有名な一例だそうです。行ってみたい。
特別展も含めて全部で8展示ほど見ましたが、ここで紹介するのは、この理念をよく示している「人間と道具館」と「民族学・フォークロア館」です。二館とも、その土地に固有のモノから慣習や文化を語ろうとするアイデアは共通する一方で、対象が二分されています。
パビリオンのタイトルだけを見ても全くわかりませんが、「人間と道具館」はイスラエルに暮らすアラブ人・ベドウィン(北部・南部に暮らす遊牧民)の「道具」が展示されています。農具、織物、台所用品などの日用品が、いかに「昔から」変わらず使われているか、そして展示のイントロダクションには「今日では消滅しかけている文化」と書かれていました。こうしたイスラエルでの民族学調査は、19世紀からオリエンタリストや、民族学者、神学者によって行われていました(植民地調査と同じ構造です)。

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積み上げた藁の盗難防止、兼魔除けのために所有者の名前が彫られた型。

アラブ人、ベドウィンの風習を「エレツイスラル」の一部として展示するという発想はたぶんエルサレムのイスラエル博物館にはなかったはず。
他方で、「民族学・フォークロア館」はユダヤ人(ディアスポラのユダヤ人を含み、同様の発想によりユダヤ人固有の風習やモチーフが展示されています。

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18世紀、イタリア・ピエモンテのシナゴーグの一部が移されたもの。

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兵士をモチーフとした、ハヌカーの燭台(1950)

エルサレムとテルアビブの「イスラエル博物館」、どっちに行こうかな~と迷っている奇特な方がいましたら、やっぱりエルサレムかなぁと思います(別便で載せます)。大規模な博物館にありがちなのかもしれませんが、ひとつの博物館としてはやや文脈に欠けるので、興味のあるところだけをつまみ食いするのが良いと思います。ただ、こう書いていて思いましたが、イスラエルには通史を俯瞰するような国立博物館はありません。歴史解釈がぶつかりすぎてありえないでしょうか。

すぐ近くには「イツハク・ラビン博物館」が隣接しています。ビン・ラディンではなくイツハクのほうです。イスラエル史にご関心の向きは併せてどうぞ。またテルアビブ大学内(ディアスポラ博物館、自然史博物館)も比較的近くです。


おいしいご飯どころは近辺にありません。残念・・・。イスラエル人にならって、ヤルコン川沿いのヤルコン公園でピクニックはいかがでしょうか。広々した川辺が気持ちいいですよ。

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