16周年を祝う話(初音ミク)
どうやら初音ミク16周年ということなので、自分の好きを語っておこうかなと思い立ちテキストライターを立ち上げた。
16周年ということは、ちょうど16歳の頃に発売されたのか…。高校生だな。
いわゆる青春時代の只中にニコニコ動画が最盛期だった。もともとオタク気質だったこともあり、まんまとボーカロイドにはまっていた。
「みくみくにしてあげる」とかロイツマのIevan Polkkaとかで初音ミクのキャラクター像が作り上げられていき、「メルト」でボカロ文化が勃興したといっても過言ではない。(ある)
このボカロ文化黎明期に一番印象に残っているのは、野良クリエイターの多さだ。
もちろんプロ勢もたくさんいただろうが、ボカロPの多くは趣味の延長で楽曲制作しているようなアマチュア=野良のクリエイターだったと思う。初音ミクというキャラクターとボーカロイドという文化がセンセーショナルに登場し、創作のタネを持っていた全国のクリエイター達がそれに感化され、こぞって制作物をニコニコ動画にアップロードし才能を開花させていた。デビュー曲は拙い出来だった初心者ボカロPも新曲が出るごとにどんどんクオリティが上がり、今では大人気アーティストにまで上り詰めたような人も存在する。
ボカロ曲だけでなく、自分で作ったものをニコ動を通して手軽に世間に発表できるというシステムが野良クリエイターの承認欲求を満たし、かつコメント機能ですぐに反応が見られることも効果を増長させていたのかもしれない。ともかく、埋もれていた才能が発見されやすい土壌ができたことは確かだ。
黎明期においては様々なジャンルの楽曲が次々と投稿されたが、特にクオリティの高い作品についてはランキング機能で多くの人の目に触れやすく、ジャンルを超えてファンが増える仕組みが面白かった。聞いたことのないジャンルの楽曲を初めて耳にして、こんなかっこいいのがあるんだ!と新しい発見をし、その系統の曲を探してみてさらに好きになっていったりもした。(親切なのか有難迷惑なのかは人によるとは思うが)コメント機能で「この曲が好きな人はこれも良いよ」なんて書かれたりして、当時は本当にたくさんの楽曲に触れていたなと思う。
多ジャンルが飛び交っている中でも特に好きだったのが、サウンドメイク、トラックメイク系のプロデューサーたちの作品だ。
メジャーどころの「ワールドイズマイン」だったり「炉心融解」「恋は戦争」「magnet」「右肩の蝶」etc...
挙げだしたらキリがないが、こういった分かりやすい歌モノの楽曲も聞いてはいた。
ただもともとテクノ・エレクトロ系の音楽が好きだったこともあり、そっち寄りのクリエイターの作品がよく刺さってくるのだ。
Treow(今はELECTROCUTICA名義)やATOLS、ちゃぁ、zddnなどの音作りに特化した方々の楽曲は、度々「電子ドラッグ」なんてタグが付いたりしていて、歌を楽しむよりは音を楽しむ構成のものが多かった。
それぞれのクリエイターのオススメ曲も紹介しておこう。
「Treow」は初作の「L’azur」からとんでもなくハイクオリティで、変拍子での難解なリズムやこれぞ“歌ってみろ”タグそのものな超高音ロングトーンで一気に人気が出た。そのまま変拍子の進化系でもはや変態拍子になっている「Dependence Intension」で遊びの幅を、「Drain」ではダークな世界観を披露した。特にDrainは感性の反乱βタグが表すとおり、前衛的な映像と共にブレイクコア風の曲調とノイズ加工したミクの声が多くのファンの心を掴んだ。後半の展開は垂涎ものだ。
有名Pの暴走として「わりばしおんな。」のリミックスをして視聴者を驚かせたりとお茶目な一面も。(リミックスは素晴らしい完成度で、ダメ曲が台無しなんてタグも付いていた笑)
AVTechnoの「DYE」をリミックスした楽曲は映像表現も相まって巡音ルカの魅力を最大限生かしているのでこちらも必聴。
「ATOLS」は、インターネット老人会ではおなじみの検索してはいけないサイト「イルカの夢でさようなら」の作者ではと噂されている人物で、どうやら複数人でのグループ名義のようだ。
「バベル」「エデン」「アダム」「牢獄のアドニス」などの作品群では、シンフォニックな雰囲気をまといつつも変拍子による崩しや逆再生されたような音声を使用して耳に残る作品になっている。
と思えば、「マカロン」「アワオドリ」「キーウィ」のようなコンセプトがイカレているのに何故かものすごくかっこいい楽曲が出てきたりと、つかみどころのないクリエイターの雰囲気がある。
なかでも一押しは「プリセット」シンプルなビートに様々な声色のミクボイスが合わさり、映像の効果も相まって電子の海を漂っていくような気持ちよさがある。
2023年現在も活動が続いているクリエイターであり、最近の発表曲は追いかけられていないが、変わらずに尖った作品を公開しているのでディグってみては。
今回挙げた4人の中でも特に癖の強いクリエイターが「ちゃぁ」だ。
ボカロ文化の最初期からいるクリエイターで実験的な作品が数多く存在する。いわゆる電子ドラッグな曲が多く、楽曲自体は上級者向けと揶揄されることも。内に秘めたる変態マインドがたまに漏れ出ている。
「メコノプシス・ベトニキフォリア」で初めて名前を知ったのだが、曲の雰囲気とミクボイスが非常にマッチしており綺麗な曲だったので、他の楽曲を聞いた際にギャップに驚いたものだ。
跳ねるようなリズムがポップな「素早いスズメ」や、ごりごりのディストーションで不安感を誘う「PAIN7」、グロい歌詞に重低音が響く「acutecare」、特有の攻撃的ベースと美メロシンセが融合した「Sound Maker」はちゃぁ史上最高傑作とも評価されている。特に鏡音リンの調教に定評があり「超アメンボ赤い」は必聴。
チャージマン研の挿入曲をアレンジした「殺人レコード 恐怖のメロディ」はおふざけのくせに非常にかっこいいので悔しい限りだ。あぁっ。
そして最推しの「zddn」
楽曲の中で初音ミクが叫ぶ衝撃の処女作「fuse」でデビューを飾り、続く「monophonics」では一転してさわやかな楽曲を、さらに3作目「croak」では10分超えのプログレ楽曲を披露して視聴者に鮮烈な印象を与えた。
元々の投稿者名はtalawなのだが「fuse」の投稿時にずどどどーんと記入されていたことからずどどんPとなった。その名が表すとおり重低音に定評のあるクリエイターで、すさまじい音圧の楽曲もあることから頻繁にヘッドフォン推奨とコメントされている。
「uta girl」や「snow knows」などのさわやか系楽曲も魅力だが、特にずどどんPの変態性を感じられるのは、上記「croak」と「vein」の2曲だ。croakでは10分の長尺の中でも多彩な展開により飽きることなく最後まで楽しめる。さらにそれを超える14分の作品「点」も存在する。「vein」では病気の潜伏期間というテーマのとおり、静かだが着実に蝕まれているようなじりじりとした焦燥感を感じ、楽曲後半では通常では考えられないような大胆なホワイトノイズをかましてくる。“全休符の魔術師”なんてコメントが付くのも頷ける緊張感の演出が巧みなクリエイターだ。
こういった王道ボカロから外れた作品を追いかけていると、自然と似たような楽曲がマイリストに増えてくる。
この系統のジャンルはボカロの使い方が本当に特殊化しておりバラエティも豊富で非常に楽しい。
ボカロにラップを歌わせるクリエイターも多いが、その中でも特に異色なミクの使い方をしており一度聴いたらしばらくは忘れられなくなるHiphopを連発している松傘の「ミックホップのはらわた」「エイリアン・エイリアン・エイリアン」「ミッキーマウス」や、メタな歌詞に独特のサウンドメイクが刺さるyanagamiyukiの「サイバーかわいくないガール」「Vocaloid Become Human」「収束するUFO」は聴いてみてほしい。これがボーカロイド!?となること必至だろう。
グリッチチップチューンとでも形容するしかない曲調に“ボーカロイドはおまけです”を地で行くにほへ「渚にまつわるハムナプトラ」「カニ食え」、ミクが"歌っている"のではなく"何か喋ってる"+他に類を見ない音作りが特徴のmishiki「paradaio」「lukeworm」、囁くように歌うミクに金属音のような変わった音作りが特徴のHeineken「Crapetyle」「Aprhyme」もいつまでも脳裏に焼き付いている。
今ニコ動を見に行っても当時のような活気はないが、それでもまだ作品を発信し続けているクリエイターもいて、この文化は廃れてほしくないなぁとは思う。今はニコ動以外にも発信するための場があちこちにあるし、当時より発信するハードルも下がっているから大丈夫だとは思うが。
ただ、作品の評価については、そのお手軽さから正当性が低下しているようにも感じるので、良いものを見つけたらそのプラットフォームに則った適正な評価を付けて作者を応援していきたい。
最後に初音ミク16周年おめでとう。
これからも仕事を選ばないキャラクターの一角として、日本のサブカル文化を盛り上げていってほしい。
おわり。