議長テキスト(SDGs14.6　その4)

SDGsに漁業補助金交渉の文言を入れたことはいい流れを生みました。闇の漁業補助金とはIUU漁業（※１）につながるものを指すとしたのです。「悪というものはこういうもの」という「悪者」を明確に定義したことで具体的に何を退治すればいいのかがはっきりわかってきたのです。気づけば闇の漁業補助金は２兆3660億円にも膨れ上がっていて、漁業補助金の全体63％にあたることもわかってきたのです。（※２）WTOの話し合いは順当に進み、2019年の第12回WTO閣僚会議ではいよいよ最終案が出るというところまでこぎつけてきました。（※３）だれもがSDGs14.6で定めた期限の2020年までに決着がつくということに疑う余地もなくなってきました。ところが予想もつかない事態が世界中で起きてしまったのです。それがコロナショック。

様々な思惑が入り乱れ、約20年の黒歴史に終止符を打つ大事な会議。全会一致が原則のWTOとしては返答から逃げられない対面での会議を行いたかったのです。そうしてやむなく延期せざるを得ない状況になっていったのです。とはいえ、事務局も黙って落ち着くのを待っていわけではありません。着々と準備を整えていったのです。そしていよいよオコンジョ・イウェアラ事務局長はその内容を取りまとめて全世界へその内容を公開しました。それが「議長テキスト」。全11条からなるテキストで内容としては
IUU漁業に対する補助金
乱獲された水産資源に悪影響を与える補助金
乱獲や過剰な漁獲能力に寄与する補助金
に的を絞って全面禁止にしたのでした。（※４）

コロナウィルス用ワクチンが開発され、2021年10月には世界中でパンデミック終焉の兆しが見え始めました。そしていよいよ漁業補助金交渉に引導を渡す第12回WTO閣僚会議まで6日という2021年11月24日、最終の合意案をまとめたのでした。内容は「いかなる国も過剰な漁獲につながる補助金を支出しない」と原則廃止を明記したのでした。（※５）すべての下準備も整い、決着まで秒読みとなった2021年11月26日、事態は急変したのです。進化したウィルス「オミクロン型ウィルス」の発見です。（※6）翌27日には、会議がさらに延期することになってしまったのです。

度重なる不運に阻まれてはいるものの、確実に闇の漁業補助金との戦いの終焉も目と鼻の先まで来ています。でもこれですべての闇に終止符が打たれるわけではありません。実はここからが本番になるのです。いくら国連の偉い人たちがルールを決めようとも、所詮ルールが決まっただけです。守るか守らないかは現場の人なのです。（※７）勉強しなさいと縛り付けられると勉強をする気がなくなるように、ルールも締め付けがきつくなればなるほど違反者は増えていくものです。今までの闇の漁業補助金の経緯を思い出してください。見えないところで私腹を肥やしてきたことこそが、この漁業補助金の闇なのだったはずです。世界中で決めたルールを自分の国の現場にちゃんと落とし込んで、地元の名士もまじめにやっている漁師もすべての人にきちんと理解してさせなければ元に戻るだけです。そしてなにより、もう二度と今までのような漁業の方法では利益を上げることはできなくなったと国自体が腹をくくらなければならなくなったのです。本当の戦いはこれからなのです。

※１、海のイドバタ会議　海は誰のモノ？(SDGs14.4　その１)
https://note.com/theruleofoceans/n/n783f9
※２、NATIONAL GEOGRAPHIC　世界の漁業補助金の64％が「有害」、中国が最多
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/101000585/
※３、日本協同組合連携機構　WTO 第 11 回閣僚会議
https://www.japan.coop/wp/wp-content/uploads/2018/04/171225_01.pdf
※４、WTO　議長テキスト
https://docs.wto.org/dol2fe/Pages/SS/directdoc.aspx?filename=q:/TN/RL/W276.pdf&Open=True
※５、日本経済新聞　漁業補助金で最終合意案　途上国の扱いは閣僚判断へ―ＷＴＯ
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021112600208&g=int
※６、日本経済新聞　WHO、新変異型「オミクロン」と命名　警戒最大に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR26DRJ0W1A121C2000000/
※７、海洋政策研究所　世界貿易機関における漁業補助金交渉の行方
https://www.spf.org/opri/newsletter/423_3.html