豊かすぎる海(SDGs 14.1 その5)
プラスチックなどの海洋ごみがなくなれば、これで豊かな海になるかというとそうとも限りません。逆に豊かになりすぎて困ることもあるのです。
例えば、寿司が大好きな私なら、好きなだけ奢ってやると言われたら小躍りしてごちそうになっちゃいます。そんな私でも、目の前にいきなり100貫寿司が並んでいて、それを全部口の中に突っ込まれたらさすがに無理です。というかトラウマにさえなってしまうかもしれません。これが海の中であれば死活問題になってしまいます。海には大小さまざまな生き物が一緒の場所で生きています。その中でも最小の食べられる生物としてプランクトンがいます。そのプランクトン(※1)が以上に繁殖しすぎて海の色を赤色に変えるほど異常繁殖することを赤潮と呼びます。この海の色が変わってしまうほどプランクトンが発生してしまうと海の中の酸素を使い果たしてしまって、魚が窒息死してしまうのです。赤潮がなぜ起きるのかという研究は進められてはきているものの、本当の原因はまだ未解決な状態です。
自然発生的に起きている赤潮ならまだ自然の摂理として生まれているものなので、問題ないのですが、これが人間が引き起こしているということであれば問題です。東京湾、伊勢湾、大阪湾といった人が多く住んでいて、人間の生活排水がたまりやすそうな場所で実際に起こっているのです。ほかの魚のえさとなるプランクトンは川から流れてくる栄養豊富な土の成分や人間が生活した際に汚水として捨てている水を栄養分として成長しています。このように栄養が多い状態のことを「富栄養化」といいます。沖縄のようなきれいな海では1ミリリットルの中にプランクトンが10個程度しかいないのですが、東京湾では10,000個もいたります。言い換えれば、透き通ったきれいな海というのは餌が貧弱な海であり、透明度がなく黒く見える海は栄養豊富な海であるともいえるのです。
このプランクトンは海中の酸素と太陽の光を吸収して二酸化炭素を排出して生活しています。水の汚れを表す値にBOD(Biochemical oxygen demand 生物化学的酸素要求量)というものがあります。簡単に言うとあるものを海に流してしまうとどれだけのプランクトンに栄養となるのかという数字といったところです。魚が快適に住める程度のBODは5㎎/Lと言われています。これがてんぷらの油を20mLを捨ててしまうとBODは30,000㎎/Lとなります。つまり、魚が快適に住める環境の6000倍栄養がありすぎるということになります。もちろんその分酸素が足りなくて苦しい状況になってしまうということです。
参考:生活排水読本 環境省
そしてBODばかり注目してばかりもいられません。プランクトンの成長には陸上の植物と同様に、リンや窒素なども栄養となります。特に窒素は酸素や水素と結びついて、硝酸やアンモニアなどを作ってしまい、いわゆる水が腐ったにおいはまさにこの化学反応が起こっている証拠です。
1人の人間が1日に必要とする水は250Lと言われています。つまり250Lの栄養豊富な水を流しているということになります。そして、その水を地球上の70億人の人間がそのまま海に流してしまうとどれほど海の生き物のバランスを崩してしまうのか想像さえできません。人間が生きている限り必要になる水、これを何とかしなくては、いくら海洋ごみを回収したとしても、海の生き物たちを殺してしまうことになってしまうのです。
※1 カレニア、シャットネラなど赤潮の原因となる有害プランクトンは200種類に及ぶと言われています。
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