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第4話 『案内します』

「昨日、ご連絡したものなのですが…」

「あぁ~あなたですね。例の木造船を見に来たんですね。初めまして、私はここでハーバーマスターをしている者です。はい、確かに、その船はこのマリーナにいますよ。本当にきれいな船でねぇ~。ところで、どういった経緯でここに…?」

「あ、そうですね!僕は…」

…と、僕は簡単な自己紹介と伝説の造船技師さんから聞いて、ここまで来た経緯を話しました。

「ほぉ~では、あの方と直接お話になったのですね。そういうことでしたら、案内しますよ。」

と、件の木造帆船にむけて、マリーナの中へと進みました。

間近で見る船は控えめに言っても

かっこいい!

石原裕次郎さんが乗るようなクルーザーから釣り船まで。300~500艇はありました。

「だいたい、手前がボート船、奥がヨットリゾート、さらに奥が釣り船かな?でも、船はお金がかかるから、このくらい(40フィート=12m)の船の係留料で(係留料=船を止めるための駐車代みたいなもの)100万円くらいかな?めっきり、利用者は減ってはきましたがね」

そりゃ、減るわ。家賃よりはるかに高い。

「でもね、ヨットはいいものですよ!なにせ、自然の力だけで世界中周れるのですからね。今だって、定年退職した65歳の利用者が1人北米目指していったところですよ。ところで、守さんはどうして木造船なんて珍しい船に興味を持たれているんですか?」

とハーバーマスターに聞かれ、僕の夢
『自分の造った船で世界を回りたい』
の話のくだりを軽く話しました。

「ふむふむ…ほぉ~。すばらしい夢じゃないですか。本当に難しく、険し道のりになるでしょうが、是非、頑張って夢かなえてください。」

語る言葉は少なくとも重みのある温かい言葉でした。

マリーナの中はすべて海に浮いている桟橋でできていて、その桟橋が入り組んでは、あちらこちらに船がくっついている感じ。まさに海の上の迷路といった装いでした。

そして、このマリーナのちょうど真ん中あたりにある桟橋の角を曲がると

「おっ、見えてきましたね。あそこに見える木造船が、例の『麗しの天使』号ですよ。」

ハーバーマスターの指さす先に、船全体が高級なホテルの手すりのようにてかてかに光った木目調で、天を指すようなまっすぐなマスト(ヨットの帆を張るための縦棒)がそびえっている船がありました。ヨットというだけでも高級感があるのに、その堂々たる姿がさらに高級感を引き立てていました。

その船に見入っていると、ハーバーマスターから衝撃的な一言が発せられました。

「そういえば、守さんはどんな船に
乗っていたんですか?」

え?

船?

乗ったことは、

ない…

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