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アラン・ホールズワースを忘れない

澁澤龍彦風に書くと、「毀誉褒貶相半ばする」ギタリスト、アラン・ホールズワースは世間一般的にいう類稀な才能以上の想像力と創作力、奔放なイマジネーションを音色化することに長けた、比類のない技巧を持ったアーティスト、ギタリストである。
アラン・ホールズワースは一連のボーカル入りのバンド形態のアルバム、「I・O・U」から「メタル・ファティーグ」を発表後、SynthAxe呼ばれる、所謂ギター・シンセサイザーを前面にフューチャーしたアルバム「アタヴァクロン」を発表する。自分が初めて聴いたリアルタイムのアラン・ホールズワースの新作がこれである。このアルバムはレコード評で完全に賛否が分かれていた。「毀誉褒貶相半ばする」理由の一つである。本人は前人未到の地に足を踏み入れることを恐れてはいないが、多くのファンは確立された彼のキャラクターにこだわっている。期待していたものが聴けないファンと、同じことを繰り返したくないアーティスト側の意向が悪いほうに転んだパターンである。確かに、自分もギタリストのアルバムでありながら、ほとんどギターの音が聴こえてこない不思議なアルバムだ、というのが当初の感想だった。それでも聴き重ねていくうちに、シンセの機械音ではあるが、ギタリストの弾く音の羅列が垣間見えてくる。それも複雑で奇怪な自分がそれまでに聴いたこともないようなフレーズ。しかし、それは音色を変えると、実にホーンライクなフレーズである。実にクールな、パット・マルティーノとはまた違った、空間破壊型のフレーズ群を紡ぎだすことができるギタリストである。

自分がアラン・ホールズワースのアルバムで好きなのが「None Too Soon」である。いわずと知れたジャズ・スタンダードをカバーした内容となっている。このアルバムの中でアランはジャンゴ・ラインハルトの曲「Nuages」を取り上げている。ラリー・コリエルやジョー・パスといったギタリストならこの選曲もむべなるかなと考えてしまうが、これがアラン・ホールズワースだととても新鮮である。SynthAxeは彼の機材の中では賛否のあるものの一つだが、このような曲ではかなり重圧な効果を上げている。そして次の曲にスタンダード中のスタンダード「How Deep Is The Ocean」。この曲のようなソロが、アランのプレイの中で自分は大好きで、特に曲のラストでこの曲の有名なメロディーラインを弾いているのを初めて聴いたとき、アラン・ホールズワースでさえこのメロディーはそのまま弾くんだと思うと、とても微笑ましくなったのを覚えている。

それでも自分がアラン・ホールズワースのベスト・アルバムを上げるなら、1989年作の「シークレッツ」、2001年作の「フラット・タイア」。特に「フラット・タイア」発表時、彼は私生活で相当な苦労があったようであり、その挙句の果てに発表された本作がこれほどまでに完成度が高いのは、やはりこの人の執念は音楽の創造に注がれているといえる。そういったすべてのことを考えながらこのアルバムのジャケットを見ると、とてもやるせない気分になってくる。
何かのインタヴューで「自分が好きな音楽をやるために、好きでもない曲を演奏する仕事をするくらいなら、引退を考える」うろ覚えだが、こんなコメントをさらりと答えるアラン・ホールズワースはやはりミュージシャンズ・ミュージシャンであり、世の多くのギタリストの指標となる人である。自分は彼のキャリを時系列に聴いていないので、あまり良いファンとは言えないが、UKやトニー・ウイリアムスのアルバムでのプレイも忘れられない。

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