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USとUK。今、どっちのインディ・ロックの方が勢いある? 答えは圧倒的に・・・

どうも。

ここ最近、ツイッターでやって、やたら反応があったネタを今日はやろうと思います。

それは

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イギリスとアメリカにおける、今のインディ・ロックの状況、どっちがいいか。これをチャート上実績で比較した結果を述べる、というものです。

これがねえ。「こういうことって知られてないんだなあ」と思って、僕自身もびっくりしてるんですよね(笑)。思った以上に、すごい反響があって。「やっぱ、思い込みって怖いなあ。ちゃんとした客観事実をデータで示さないと」との思いを強めた次第です。

で、この答えなんですけど。まあ、このブログを以前から読んでる人には答えは歴然だとは思うんですけど

もう、圧倒的にUKです!

今の日本の洋楽の、ファンだけじゃないですね、これ、批評家界隈にも言えることですけど、あまりにこの認識が足らない!これ、もうちょっと重要視されていい話です。そうすれば、欧米のロックに対して取るべき意識、だいぶ変わってくるとも思うので。

まず、その「勢いの差」、これをどこではかるか。それを示しましょう。それは

過去5年間で、どのくらいのアーティストが新規にナショナル・チャートのアルバムのトップ40に入ったか。

この比較で見ていこうかと思います。やっぱり、「いかにニューカマーたちが売れるようになったか」、これっていうのはロックの勢いをはかる最大のバロメーターだと僕は信じています。

では、まずUKから見てみましょう。

2021
The Snuts
Dry Cleaning
Black Country, New Road
Anchoress
Black Honey


2020
The Big Moon
Dream Wife
Sports Team
Sea Girls
Beabadoobee
Working Men’s Club


2019
Fontaines DC
Sam Fender
Fat White Family
Murder Capital

2018
Goat Girl
Shame
Idles
Pale Waves
Magic Gang

2017
Declan McKenna
Creeper


ごらんのように、合計で20組超えてます。特にこの2年の増え方、顕著でしょ?これだけロック系のバンド、アーティストいたら、コロナ明けのフェスで困ることもないでしょう。さすがに20も候補あったら、将来のヘッドライナー・クラスもいくつかでてくるでしょうからね。だって僕自身、「まだ、あるんじゃないかな。書き忘れてないかな」ってくらいの数、ありますからね。

だって、まだこれに加えてブラック・ミディ(デビュー・アルバムは43位)とか、かなり有望なものもあるし、「インディ・ロック」という定義にしたからあえて外れてますけどヤングブラッドみたいなラウドなヤツだってありますからね。

これ、やっぱりひとつ言えるのは転換点が2018年ですよね。シェイムとアイドルズが「ロックンロール新世代」、シェイムを皮切りとしたサウス・ロンドンのアーティストが台頭しやすくなったこと。あと、2020年の夏にスポーツチームがレディ・ガガにもう少しでアルバム・チャートで勝ちそうになって以降のロック勢によるアルバム・ヒットの続出。この2つがすごく効いてますね。

あとガールズ・バンドや女性フロントのバンドが増えたことも特筆すべきですね。22個中8つがそうですからね。ジェンダーに対しての意識、だいぶ変わってきてると思います。

では、US見てみましょうか。

こんな感じです。

2021 Julien Baker

えっ?

たったひとりしかいないの!?


なんと、1ー22でUK圧勝なんですよ!

僕ね、ツイッターで実はミスしてまして。そこでは僕、「2015年を最後にアメリカで新たにアルバムのトップ40に入った若いUSインディのアーティストはいない」って書いちゃったんですけど、ついこないだジュリアン・ベイカーが入ったばかりです。

が!

そのジュリアンとて、入ったと言っても39位です!

だって、UKは上の22組のうち、14組はトップ10に入ってますからね。それに対してUSは39位がひとりだけって・・・。

この指摘がすごく驚かれたんですよ。だって、これ、本当の話ですよ。

逆に、この5年でUSのトップ40に入り損ねた人たち、見てみましょう。

2018
Mitski(52位)
Parquet Courts(122位)
Car Seat Headrest(92位)

2019
Clairo(51位)
Big Thief(142位、113位)
Angel Olsen(52位)

2020
Phoebe Bridgers(43位)
Waxahatchee(140位)

・・いやあ、散々でしょ・・・。僕が書いてて落ち込みますもん、これ。どんなに評判良くたって、今、アメリカ、インディのアーティスト、こんなにも売れないんですよ。

もちろん、チャートの上位に入っているアーティストならいますよ。でも、そういう人たちって、2015年までにすでにトップ40に入っているようなアーティストばかりなんですよ。そういう既得を得たアーティストじゃないと、今のアメリカでインディ・ロックとして成功できない仕組みになっているんです。それがボニーヴェアであれヴァンパイア・ウィークエンドであれ、フリート・フォクシーズであれ、HAIMであれ、セイント・ヴィンセントであれ、全部2014年までに成功したアーティストばかりです。2015年にファーザー・ジョン・ミスティがトップ40入りしたのを最後に、6年も新規のトップ40入りアーティストがいなかったんですから!

さらにいうと、イギリスで、この中だったらパーケイ・コーツ、ビッグシーフ、エンジェル・オルセン、フィービー・ブリッジャーズ、さらにサンフラワー・ビーン、こうしたところはUKトップ40入りしてますからね。イギリスの方がアメリカの才能まで拾い上げてくれてます。

もっとも”インディ”と括弧書きにしたからアレですけど、もうちょっと範囲広げると、アメリカでもこの5年でトップ40入りしたニューカマーならいます。

で、それがどんな感じかというと

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最後だけやたらでかいですけどね(笑)。グレタ・ヴァン・フリート、AJR、そしてみなさんおなじみビリー・アイリッシュ。広義にロックと言えるところでさえも、この3組しかいません。

どおりでグレタ・ヴァン・フリートにロックの救世主的な期待がかけられてた時期があったり、ビリーへの業界の期待と負担が大きいか、わかるでしょ?ロック系のラジオが実態のよくわからないAJRに第二のイマジン・ドラゴンズの期待かけるのとかも。

これ、本当に、チャートがSpotify集計になった弊害によるものなんですよね。2015年までって、チャート換算のメインが実売だったんですよ。だから、音楽好きのある程度大人な人が店で見つけて「いいな」と思って買っていくようなものが多く入ってたんですね。そういう人たちにインディって支えられてたので。

だけど、2016年以降、お金持ってないキッズたちのサブスクで聴く回数がチャートに反映されるようになった。これがアメリカのインディ・ロックの致命的な痛手になってるんですよね。どんなに評判いい作品でさえも、子供が繰り返して聴く勢いには勝てませんから。これが本当に大きかったですね。

こんだけ新規のヒット・アーティストが出ないとどうなるか。そりゃ

フェスだって、ロックの若手にはまかせられない


ということになりますよね?

2018年くらいからのコーチェラに顕著でしょ?ヒップホップとセレブのフェス席巻。あれを「ポリコレで女性や黒人に機会均等が広がった」って歓迎してる向きがありますが、あれ、全然違うんですよ。

あれは

インディ・ロックが売れないのにかこつけて、セルフィーの客取りたい芸能界がフェスに参入した結果


この事実を見逃してはいけません。フェスってそもそもどんなものでした?「芸能界の音楽が嫌い」な人たちが自分の求める音楽探しに行ってませんでした?その原則が、USでのインディ・ロック不振で実質、死んだようになってるんですよね。

だから、「今のシーンの現状」とかって、本来インディ・ロック紹介してたような人たちが過度にセレブやヒップホップに流れていくの、あれ、ちゃんと見ないと危ないんですよ。もちろん2015年、16年とかのケンドリック・ラマー、フランク・オーシャン、ビヨンセ&ソランジュ姉妹の存在は不可欠だし、最近のテイラー・スウィフトの覚醒も素晴らしいと思います。BTSやブラックピンクのようなKポップも大事だと思います。だけど、なんかなし崩し的に「売れてるヒップホップやアイドル」に質そっちのけで注目するあまりに、本来自分たちが支えてきたインディ・カルチャーが苦しむ姿をなんとかしようと思わない。これは僕、はっきり言って「本当にそれでいいの?」と思ってます。

逆にイギリスが息吹き返したのが興味深いんですよね。そんな、インディの音楽がアメリカで売れなくなった状態で、あの国の売れ筋音楽が世界でシェアされている。この、あんまり良くない意味での洗脳行為で、世界のどこの国も悪い影響受けてます。どこの国も同じような曲が流行って、ご当地のそれの焼き直しみたいな曲ばかり流行ってますからね。僕がトラップに対して批判的な物言いするのも、その「別言語ご当地ソング」でのコピペ感が嫌なのも理由です。ヒップホップがヨーロッパあたりだと「移民カルチャー」を支えるものとして大事なのは承知してますけど、それでももう少しオリジナリティ出せると思いますからね。

イギリスだって、シングル・レベルではその影響思い切り受けてるんですけど、それに対して、バンドのファンたちがアナログやCDを買うことで対抗する、という図式がなんかイギリスでできつつありますね。現行のチャートだと、フィジカルで買った方がサブスクよりポイント高いんで。こういう皮肉っぽいカルチャーができあがるところは、さすがにイギリス、って感じではありますよね。

でも、そのおかげでイギリスは本当に息吹き返してますよ。2010年代って、13年にThe 1975とウルフ・アリス、14年にロイヤル・ブラッドという収穫はあったものの、イギリスもイメージ、どっちかっていうとアデル、エド・シーラン、もしくはそのフォロワーってイメージが強かったですからね。今だって世間一般的にはデュア・リパ、ハリー・スタイルズ、ルイス・キャパルディなんでしょうけど、それにしたってアメリカのセレブよりは断然バンドっぽいわけじゃないですか。

あと、インディのバンドにしたって、サウス・ロンドン、たしかに勢いあるしコアなシーンなんですけど、別にそれだけじゃない。ブライトンもダブリンも、イングランド北部、スコットランドもシーンありますから。そこ、忘れないでほしいですね。

それに引き換えアメリカはなあ。もう「アートな女性アーティストだのみ」じゃないですか。ビリーにしたってそうだし、さっきも例をあげた「インディでトップ40に入りそうなアーティスト」にしたって女性シンガーばかりでバンドが全然ないじゃないですか。この幅のなさはおおいに不安材料ですね。これ、しばらくはそれこそ、テイラーとかオリヴィア・ロドリゴみたいな大衆セレブからインディ的なエッセンスをキッズに吸収してもらうしか方法がない。そこまで追い込まれてますね。そうでもしない限り、インディで面白いことやってるアーティストがすくい上げられる可能性がなくなってる。「芳醇なUSインディ」とかいってのんきに構えてる場合などではないんですよね。

そう考えると、本当に2016年が象徴的な転換年だったというか。

あの年に

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USインディ業界が期待したエンジェル・オルセンの「My Woman」が全米で46位までしか上がらず

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誰もがノーマークだったイギリスからのグラス・アニマルズがアメリカで先行して売れて20位まであがって、イギリスで逆輸入で売れたこと。ここが潮の変わり目だったのかなあと今にして思いますね。






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