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全オリジナル・アルバム FromワーストToベスト(第38回) ジャネット・ジャクソン 11〜1位

どうも。

 今日は久しぶり、昨年10月のカエターノ・ヴェローゾ以来となります、当ブログ恒例企画、FromワーストToベスト、行きましょう。

 今回は1回限りです。そんなにアルバム数がないアーティストなので。この人です!

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 はい。今回はジャネット・ジャクソン。彼女がこれまでに出した11枚のアルバムに関して、ランキングをつけてみました。

 ジャネット、今がリリース・タイミングでもなんでもないんですけど、1月末にアメリカでドキュメンタリーが放送されたこと、つい最近、スーパーボウルが行われたことで「あのこと」が思い出されること(苦笑)、あと、やっぱ去年のジャズミン・サリヴァンだったりスカイ・ウォーカーのアルバムで90sR&Bリバイバルが想起されたことから、「90sでだれやったら面白いかな」と思って、すぐに脳裏に浮かんだのがジャネットだったからです。

 全部聞き返してみて、すごく楽しかったですよ。さっそくワースト、11位から行きましょう。

11.Dreeam Street (1984 US#147)

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 ワースト11位は「Dream Street」。1984年、まだジャネットがアメリカで自分を模索する前の段階のアルバムですね。実はこのアルバムの時、日本で地味ながら売り出しかかってたんですよ。ナショナルのCMに中村雅俊とコンビ組んで出ててですね。これの先行シングル、「ときめきラヴ・チャンス」って言うんですけど(笑)、日本のラジオでも若干かかってました。ただ、その曲もそうだし、アルバム全体でもそうなんですけど、この当時のブラコンことブラック・コンテンポラリーなら誰でもやってた、別に彼女じゃなくても誰でもいい感じのフツーのエレクトロ・ファンクで個性が見えないんですよね、これ。サウンドも再評価できる感じじゃない打ち込み音のダサさがあって。中村雅俊とのCMもなかなかの恥ずかしさがあるんですけど、音の方もこれ、同様です。ただ、ここで彼女自身が「周りに仕立てられてた」という意識が強かったんでしょうね。この次から彼女、自分らしいヴィジョンを持った確固たるアーティストへと変貌を遂げます。

10.20 Y.O. (2006 US#2 UK#63)

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 ワースト2は2006年作の「20 Y.O」。これは「20 Years Old」、つまり「20周年」という意味なんですが、彼女のブレイクスルーのきっかけとなったアルバム「Control」から20周年という意味です。ということもあり、彼女なりの原点回帰を目指したアルバムではあって、コンセプト的には気合入ってそうだったんです。しかし、いざ蓋を開けてみると、その「Control」におけるサウンドの主役だったプロデューサーのジャム&ルイスがすごく調子悪くて全体の半分以下の参加になって、残りをジャーメイン・デュプリとダラス・オースティンといった、TLCの90sの黄金期を作った人たちに委ねてます。ただ、もう時代はTLCの時代でさえとっくに無くなってて、それこそティンバランドとかネプチューンズの時代ですよ。その時代にこの人選は「え?」の違和感しかなかったし、エレクトロ的なサウンドの真似事みたいのをちょっとアップテンポにしただけの、「Control」が持ってた斬新さなどみじんも感じられない、無残な失敗作になりました。「あの完璧だったジャネットでもこんなの作るんだな」とすごく悲しくなったのを覚えてます。

9.Damita Jo (2004 US#2 UK#32)

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 9位は「Damita Jo」。このアルバムくらいからジャネットの神通力が落ちて、セールス下がっちゃうんですよね。それはそこのイギリス・チャートの数字でも明らかなんですけど、アメリカでもこれ以降は初登場順位が高いだけですぐ下降するタイプのアーティストになってしまいます。その理由はと当時はもっぱら、このアルバムがリリースされる直前に彼女が出演したスーパーボウルのハーフタイム・ショーでジャスティン・ティンバーレイクに胸の部分を剥ぎ取られてあそこが見えてしまったから、というのが指摘されていたものです。ただ実際は、アルバムそのものが弱かったことに他なりません。これまでアルバム全編をプロデュースしてきたジャム&ルイスの曲にキレがなく全曲を任せられなくなり、そこでカニエ・ウェストを始め、ベイビーフェイス、ダラス・オースティンあたりが入っているんですが、カニエとロックワイルダー以外は時代錯誤な人選でしたね。加えてこの時って、R&Bってもうビヨンセの天下になってて彼女が最新鋭のトラックでグイグイ攻めてる時に、ジャネットは洗練ばかりに走ってストリート性や鋭角性を失った、勢いコンサバな「きれいなお姉さん路線」みたいな感じになったというか。そこも当時なんかすごく歯がゆかったのを覚えてますね。

8.Discipline (2008 US#1 U#63)

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 8位は2008年の「Discipline」。全盛期のジャネットはアルバムに3〜4年と、かなり間隔を空けることで知られていましたが、2000sはペースがやたら早いんですよね。これに至っては前作からわずか1年半しか経たないで出されてます。これは彼女がこの時期に調子が良かったからではなくて、「なんか違うんだけどな」と云う違和感を解消したくて、ああでもないこうでもないとやった結果だと僕は思ってます。このアルバムも前作「20 Y.O」がうまくいかなかったところを、とうとうジャム&ルイスの参加を外してロドニー・ジャーキンスとジャーメイン・デュプリで作ってます。ただ、もう両者ともにヒットもなかったし、ジャム&ルイスもいないってことで、批評的にはこれ、かなり叩かれてます。ただ、今冷静に聞き返すと、彼女が前作で作りたかった「今風のControl」ということに関しては、特にロドニー・ジャーキンスは「頼まれたオーダー通りの仕事をした」という意味では果たしているし、その意味ではこの前作よりはマシだと思います。ただ、困ったことに、この当時、もうリアーナあたりがやっているエレクトロでグイグイ押すタイプのR&Bの表面だけを真似した感じみたいにはどうしてもなってしまってるというか。今の耳で聞くと、その後のKポップみたいで面白くはあるんですけど、「ジャネットらしさ」というのが見えにくいものにはなってます。

7.Janet Jackson (1982 US#63)

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 7位は初々しいですね。1982年の記念すべきデビュー作です。この時、まだ彼女、16歳ですよ。このころはちょうど、お兄さんのマイケルが「オフ・ザ・ウォール」で大成功して、次の「スリラー」に備えてる時期ですね。末っ子のジャネットは兄弟姉妹の中で才能は期待されてはいて、それがこのように早期のデビューにも繋がったんだと思います。ちょうどこのころ、彼女は「アーノルド坊やは人気者」にも出演してまして、そこで女優デビューもしていたんですが、日本でも彼女の出た回、放送されてたので僕も覚えてます。そんな駆け出しのころの彼女ですが、サウンドはもう、全くもって「オフ・ザ・ウォール」の真似です(笑)。言ってしまえば、マイケルに似たサウンドだけを作って、そこから先は知らないみたいな、ちょっと無責任なサウンドではあるんですけど、ただ、トラックの完成度そのものは悪くなく、今の耳ならシティ・ポップ・ブームの流れで楽しんで聞けそうな、そういう雰囲気の良さもあります。ただ、それをサウンドのアイデンティティにしようとする気概もなく、時代に合わせた行き当たりばったりな作りでもあるので、その次が大きな落とし穴にはなったんですけどね。

6.All For You (2001 US#1 UK#2)

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 6位は「All For You」。これがいわゆるジャネットの、商業的現象的成功期の最後のアルバムですね。まあ、その前の4作がまるでハズレがなく何もメガヒットだったということの方が異常だったんですけどね。このアルバムだと、ちょっとこれまでのアルバムに見られた企画性みたいなものが後退して、初めて「前作の延長線上」の作品作っちゃったな、というのが当時の印象でしたね。この前の年のビッグヒットの「Doesn't Really Matter」と先行シングルの「All For You」に見られるような、「洗練された大人の女性としてのジャネット」を打ち出したような感じでしたね。あと、前作でのサンプリング・ワークの手際良さが評価されたことに気を良くしてか、アメリカの「Ventura Highway」がネタ元の「Someone To Call My Lover」やカーリー・サイモンの大名曲「うつろな愛」を大胆に使った「Son Of A Gun」などがシングルとしてピックアップもされていたりもしましたけど、ちょっと二番煎じが強い感じがするというか、こういうところも「新機軸打ち出せてないな」と思って、このころ、若干、今後のジャネットとジャム&ルイスのことが心配になり始めたころでもありました。でも、「前作の路線のおこぼれ」的な感じもしつつ、そういう曲でも1枚のアルバムとしては聞き応えのあるものに仕上げられていたところは余力の強さは伺えましたけどね。

5.Unbreakable (2015 US#1 UK#11)

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 5位が、目下のところの最新作ですね。「Unbreakable」。2015年、その当時にしてみれば実に7年ぶりにリリースされたアルバムでしたけど、もう起死回生と言い切っていいでしょう。その前の3〜4作のモヤモヤを吹き飛ばす会心作を作ってくれました。ここでの原動力になったのは、まさかのジャム&ルイス。もう、才能衰えてフェイドアウトしてしまったかと思われていた名匠がこのアルバムでまさかの全面復帰ですよ。もう、それだけで熱いものがあるんですけど、才人コンビがついに自分を取り戻したか、1曲1曲が濃密に考えられた出来になりましたね。特にミディアム〜スローに関してはメロディと曲展開にかなりこだわったものになったというか。これまでのジャネットの歌ってきたそれ系の曲よりベースラインのためとうねり強い本格的なソウル・ミュージックなんですよね。アップの曲もエレクトロのビート使うものでも、他の流行りと似たように聞こえない配慮をして作ってある感じがするというか。その前2作の、どこか他で聞いたことある流行りものを後追いした感じが一切ないんですよね。そうした熟慮された各曲を、加齢でおなじみのソプラノ声がちょっと下がったジャネットが新しい自分を試すように、これまで以上に丁寧かつ表現豊かに歌が歌えていることもケミストリーを生んでいます。これが1作だけというのはかなりもったいないので、なるべく早くこれの次を作って欲しいところです。

 もう、ここから先の4枚は、はっきり言って順位つけるのが酷ですね。本当に難しかった。何が1位になってもおかしくない、彼女の黄金期の4枚が続きます。

4.Janet (1993 US#1 UK#1)

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 まず4位は、1993年の「Janet」。もう、この黄金期のジャネットというのは、アルバム1枚を4年に1度出すという行為が、もうその年の音楽業界にとっての一大行事というか、それくらいのインパクト、誇張じゃなくてありましたね。それだけ、彼女とジャム&ルイスがアルバムを一つのプロジェクトとして考えて作っていたということでもあります。このアルバムは、前作が本当に兄貴の「スリラー」くらい、大プロジェクトで作ってたアルバムだっただけに「次どうするのかな」と思われていたアルバムでしたけど、いやあ、進化しましたね。前2作がファンキーなエッジを売りにした作風ならば、ここではよりジャンル横断的かつ、リズム面の時代に合わせた進化を強調してますね。それは前半部で見せた意外なまでのロック色の強さであったり、全体に強いハウスやグラウンド・ビート以降のグルーヴ感であったり。このグルーヴが思ったより賞味期限短かったので、この部分が今聞くとちょっと古くもあるんですが、それでも当時はジャム&ルイスの時代対応のうまさに舌を巻いたものです。あと、ここでのジャム&ルイスから強く感じられるのは、ジャネットをこの時代のダイアナ・ロスにしようとする気概ですね。それは「You Want This」で「Love Child」、「If」で「Someday We'll Be Together」と2曲のスプリームス・クラシックをわかりやすくサンプリングしたことでヒントも出されていると思います。その試みは大当たりだったし、恐れずに言うならサウンド・クオリティもヴォーカル力も圧倒的にここでのジャネットの方がダイアナよりだいぶ上でしたね。

3.Rhythm Nation 1814 (1989 US#1 UK#4)

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  そして3位に「Rhythm Nation 1814」です。1位にすると思ったでしょ?確かにこれ、商業規模や、世間に与えたインパクトなら圧倒的なんですよ。何せ、ここから1989年から1991年にかけて7曲が全米チャートのトップ5入りの、そのうち4曲が1位だし、これのツアーはダンスとセットになってR&Bのショーの規模、マイケル共々大きく変えたわけだし、そして何よりアルバムの構成ですよね。いわゆる短いインタールードを合間にバシバシ挟んでのコンセプト・アルバム。しかも、黒人たちが日々抱える社会的問題を盛り込み、「ダンス・グルーヴの中での自由で平等な社会」を訴えたようなメッセージでね。これだけのことやったら普通1位です。ただ今回聞き返して僕自身もそう感じたし、ジャネットのオールタイム・ベストいろいろ見ててもそうだったんですけど、1位じゃないパターン、多いんですよね。なぜか。今聞くと、ちょっと作りが古い感じがするんですよね、これ。だってエイティーズ・リバイバルと言ってこのアルバムの音、思い出さない上に、インタールード挟むパターンっていうのも、今もやらないことはないんですけど、このアルバムでの挟み込み方がちょっと古く感じられるというか。それ言ったら他の彼女のアルバムでもそうなんですけど、全体のサウンドとの掛け合わせでそう聞こえてしまうというか。なんでしょうね。ビートルズの「サージェント・ペパーズ」とかザ・フーの「トミー」にも言えるんですけど、コンセプト・アルバムって、出た当時のインパクトは絶対的に大きいんですけど、風化しやすい運命にあるのかなと、これを聞いても正直なところ思ってしまいましたね。ただ、リズムの打ち込み音に古さは感じつつも、ジャム&ルイス特有のコード進行に支えられたメロディは冴えは今でも感じますね。「Escapade」とか「Love Will Never Do (Without You)」あたりは特にですね。

2.The Velvet Rope (1997 US#1 UK#6)

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 そして2位が「The Velvet Rope」、1997年作ですね。海外のオールタイムだと、今だとこれを1位にするパターンも多いですね。なぜか。今の耳で聞いてこっちの方がモダンというか、今に繋がるものになっているからだと思います。音としての普遍性が強いんですよね。ここでのジャネットはいわゆるファンクのフェーズは終えていて、もう本格的にヒップホップ・ソウル寄りのサウンドになっているのですが、あの当時のその手のサウンドの中でも極上の曲が集まってますね。冒頭のタイトル曲で、いきなりマイク・オールドフィールドの「チューブラー・ベルズ」という、ブラック・ミュージックとの組み合わせとしてはあまりに意外なプログレ曲でリスナーにいきなりパンチを食らわせ、立て続けに、ジャネット史上最高の名曲の一つ「Got Til It's Gone」が来るわけですからね。ジョニ・ミッチェルの「ビッグ・イエロー・タクシー」をサンプリグしたラフでスローでオーガニックな響きを持つこの曲はジャネットほどのメインストリーム・アーティストとしては当時あまりに実験的でそれゆえシングル・ヒットしそこなったほどですが、そういう曲の方が寿命長いんですよね。今聴いても抜群にかっこいいです。この後「Go Deep」も「ヒップホップ時代における進化型のジャネット流ファンクの趣」で良い。アルバムは前半がヒップホップ・ソウルで後半がバラードやミドル・テンポなんですけど、ジャネット流ハウスmeetsスプリームス路線の最高傑作の「Together Again」、さらにロッド・スチュワートの名曲のカバー「Tonight's The Night」も光ります。力入りすぎて、中盤以降の曲が多すぎるのが惜しいですが、その分、届けたかった曲が多かったことがわかります。

1.Control (1986 US#1 UK#8)

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 そして1位は「Control」。「Rhythm Nation」でも「Velvet Rope」でもなく、あえてこれです。ただ、これが低くなるのはあらゆる人やメディアのジャネット・オールタイムでもないし、やはりこれは一つのエポック・メイキングの作品であることは間違いありません。これ、ジャネット自身の覚醒としてはあまりにも衝撃でしたし、あの頃のブラック・ミュージックやポップ・ミュージック全体に与えたインパクトも相当なものでしたからね。だって、もう強く打ちつけるビートとベース音だけで、あの当時で聞くとメロディよく聞こえなかったの、衝撃でしたからね。マイケルとプリンスがシーン全体の2大キングの時代でしたけど、彼らでさえ、こういうサウンドまでは作ってませんでしたから。最初のシングル2曲「What Have You Done For Me Lately」「Nasty」の2曲は「これから音楽、こういう風になるんだ」と思って飲み込むのに時間かかったものでしたけど、そういう曲だったからこそ普遍的だというか。日本のレコード会社、ついていけてなくて前者の方に「恋するティーンエイジャー」って「ときめきラヴ・チャンス」と変わらないセンスの邦題つけて浮いてしまったほどですからね(笑)。あと、そういうゴリゴリに攻めたのぶといベースのファンクがあった一方で、「When I Think Of You」や「Let's Wait Awhile」といった、その後のジャネットの永遠の定番となるミディアム〜スロー路線もこのころからちゃんと確立されてて、その対比の鮮やかさも見事でしたね。この路線の影響力が強いことはアリアナ・グランデの「thank you next」聞いた時に思い切りジャネットを思い出したくらいですから、ジャネットがシーンに与えた影響、思った以上に大きいなと思ったくらいです。それが、その後の3枚の長大なスケールのアルバム・サイズにしなくとも、コンパクトにまとまった形で早々にアイデンティファイできてたんだなと思うと、やはりこのアルバムは偉大だなと思った次第です。



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