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ライブ評「BCNR & Weyes Blood 」サンパウロ公演~最低フェスの中でも輝く大収穫!

どうも。

今日はライブ・レポート行きましょう。これです!

先週も予告した通り、サンパウロで行われたフェスティバル、C6フェスト、これのレポートに行きましょう。

 ただですね、フェスと言っても、今回僕、

2アーティストしか見てません!

 先週も言いましたように、日割りではなくステージ割でチケットを売る、これまでのフェスで経験のないことをチケットを買う際に経験したんですけど、いや〜、いざフェス当日もかなり変でした!

 だって、僕の買ったチケット、午後6時になるまで入場できなかったんですよ。しかもこれが屋内!

こういう体育館みたいなとこで、せいぜい2000〜3000人はいるかなあ、という小ぶりな小屋ですよ。そこで開演前に並んで待ってたら、これから見るアーティストのリハの音がガンガン聞こえるんですよ(笑)!フェスでアーティストのリハの音が聞こえてきたのなんて初めてですよ。もう、この時点で一抹の不安しかなかったんですけど、中に入れば

屋内ステージなのに木が生えてるんですよ!目を疑いましたね。サンパウロのライブ会場、木が生えてるところ、結構あることはあるんですけど、屋内会場に木なんてある必然性、全くないじゃないですか(笑)。あって目の邪魔でしかない。

 で、発売の時から心配だったんですが、案の定、チケットが全く売れてない!木の後ろにほとんど人がいないんですよ(苦笑)!前の方も右端、左端はもうスカスカ。このステージだけだと1000人いるかいないかじゃないかな。他のステージがあといくつかあるんですけど、他も推して知るべしじゃないかな。

 ただ、人がいなかった分、かなりステージの近くで見れたことだけは確かです!いつもより効果的に写真は撮れましたからね。

<次から次へと溢れ出て止まらない、BCNRのほとばしる才能!>


この写真、僕のケータイで2倍くらいでこの大きさで撮れたので、かなりいい位置で観れたことは確かでした。

 というわけで、この日、2つ見たうちの一つのアクトはブラック・カントリー・ニュー・ロードことBCNRです。

 この人たちに関しては、もう1年くらいずっと楽しみでした。というのは

 去年の6月の第1週になるんですね。フロントマンのアイザック・ウッドが抜けてしまって、「さて、このバンド、これからどうするんだ?」となった時に、休むことなくツアーに出たんですね。そこで披露される曲はオール新曲で、ヴォーカルを受け持つのは残ったメンバーたち。そして、そこではこれまでに聴かれなかった、受け継いだメンバーたちの潜在能力まで感じることができ、むしろ成長とも取れた。

 僕はYouTube上に上がった、新体制でのライブに度肝を抜かれ、その時からもう見たくて見たくてたまらなかったんですよね。「今回、これでやっと見れる。これだけはどうしても見ないと!」。その気持ちが本当に強かったです。

で、見てみたら、これが本当に予想以上でした!

 今、中心となっているのはタイラー・ハイドですね。アンダーワールドのカール・ハイドの娘さん。彼女がベース弾きながらヴォーカルをとる曲が約半数から6割。あまりシンガーっぽい声質ではないんですけど、従来のBCNRっぽい曲では彼女が歌ってますね。

 思ったんですけど、アイザックのいる時から、ソングライティング・デューティ、彼女が多くの部分を受け持っていたんじゃないかな。

 ただ、今回、歌ってるのは彼女だけではありません。

サックスのルイス・エヴァンスも2曲ばかりヴォーカルをとってましたね。彼も従来型のBCNRっぽい曲で歌ってましたけど、声の雰囲気もアイザックと違和感なく聴けますね。

 ただ、今回僕の目を引いたのは、楽器プレーヤーの方ですね。サックスはもちろんなんですけど、彼、フルートもうまく吹けるんですよ。楽曲によって、サックスとフルートを使い分けることによって、曲に多彩なフレーヴァーを施すことができる。彼みたいな器用なバイプレーヤーがいることで、バンドそのものが退屈に聞こえることがなくなっているのが大きいです。

キーボードのメイ・カーショウも歌いました。ただ、1曲だけでしたけどね。最近出た、この編成でのライブ盤では2曲歌ってましたけど。彼女の場合、すごくピアニストっぽい曲を書くというか、ドビュッシーみたいな華麗なコード・プログレッションの曲を書きますね。これが、従来のBCNRのようなジャズ、ポストロック系っぽいパフォーマンスにうまく変化球をつけていて、よりメロディックかつドラマティックになっているんですよね。

 こんな多彩な才能を持ったシンガーがアイザックの代わりに3人も新たにできていること自体に驚くんですけど、今回、そこに決定打が加わっています!

ブッシュ・ホールのライブ盤でこの人のヴォーカル曲はなかったんですけど、いやはやなかなかすごい才能の人がもう一人いるんですよ。それが


ジョージア・エラリーですね。わかりやすくいうと、昨年突如の予想外の成功を果たした、DJテイラー・スカイとのユニット、ジョックストラップのヴォーカリストです。

 とはいえ、BCNRの中では彼女は徹底してヴァイオリン・プレイヤー。バック・ヴォーカル・マイクもなくひたすら脇役に徹しています。

 しかし、この日、ジョージアのヴォーカル曲が披露されたんですよ!これがトラッドフォークみたいなすごくいい曲で、生かした方が絶対にいい、彼女のファルセットを混ぜた透明感のあるヴォーカルも光ってた。しかも彼女、ヴァイオリンだけじゃなく、マンドリンの名手でもあることがその曲で新たに発覚したんですよ!もう、ルークといい、ジョージアといい、そのなんでも楽器、簡単に引けてしまう才能は一体何なのでしょう。こういうメンバーいると、サウンドの拡張がすごく楽になるんですよね。

 この才能をジョックストラップに流出させないためにも、彼女の出番をバンド内でもう少し増やして欲しいですね。その方がBCNRにとってもいいはずです。

いやあ、こんな女の子主体のバンドで、こんなに一人一人の才能が濃くて、サウンド拡張のためになんでもできる可能性を秘めたバンドなんて、かつてあったでしょうか。一番近いのはフリートウッド・マックだと思うんですけど、バッキンガムーニックスーマクヴィーみたいな黄金のソングライティングとヴォーカル・チームを築いたように、BCNRにもそれに値するような活躍を期待したいですね。

<未来と普遍をつなぐWeyes Blood>


続いてはワイズ・ブラッド。彼女もすごく楽しみにしていました。彼女が出した最新アルバム「And In The Darkness Hearts Aglow」は僕の去年の年間ベストアルバムの4位に選んだ作品でした。それまでそこまで押してた感じでもなかったんですけど、このアルバムからのソングライティングがすごく成長した感じがして、それでなんども聞き返して聴いたものです。

 これまでフェスとかでも見る機会全然なかったし、アメリカ以外での活動ってあんまり聞いたことなかったのでどんな感じなのだろうと思っていました。

 ライブがいざ始まると、BCNR同様、期待以上の内容でしたね!

バンド編成はキーボード2人にドラム1人、ベーシスト、この人が女性でしたけど、そしてワイズ・ブラッドこと、ナタリア・メリングの5人でした。

 この人の昔からのアイデンティティでもある、シンセサイザーを駆使した浮遊感はここでも同様だったんですけど、今回の1曲目にも選ばれた「Its Not Just Me Its Everybodyカッコに顕著なように、キャロル・キングやカーペンターズを彷彿とさせる、70年代前半のSSWの超王道を行く、オーソドックスでよりピカピカに磨き開けられた普遍的なソングライティングがとにかく光りましたね。

 そしてステージ上では、腰まである真ん中分けの超ロングヘアをなびかせながら、シルクのロングドレス、しかも地面に着いちゃうようなヒラヒラのロングケープのあるやつですね。それでスティーヴィー・ニックスとかフローレンス&ザ・マシーンを彷彿させる華麗な見せ方をしてましたね。

 最初の方は新作と同じ曲順でグイグイ攻めましたね。「Children Of The Empire」は静寂の中で跳ねるピアノに、星屑を散りばめたようなアコースティック・ギターに、遠くから数行に響いてくるグロッケンシュピールと、まさに「ペットサウンズ」から「サーフズ・アップ」の頃のブライアン・ウィルソンみたいで。そして、よりフォーキーな「Grapevine」でも、スネアを強く打ち付けるところから途端にサイケデリックにもなったり。さらに言えば、ナタリア自体のビブラート聞かせながら心地良く伸びるアルトの美声。これがエイミー・マンをすごく彷彿させることに気がつきましたね。

 それが終わると、今度は前作「Titanic Rising」の曲が中心となり、代表曲の「アンドロメダ」などの曲が披露されました。

 この辺りを聞いてると、これ、2020年のアルバムで特に顕著だった、「エンヤの後継者」みたいな、エレクトロなサウンドの中でオーガニックな美しさを逆説的に表現する。その昔、「インディ・ロックでエンヤはありえない」「それは本当にシーンに違和感なく多彩なものなのか」と問われたら、それを肯定して、僕もエンヤ、そこまで評価してなかったのは確かです。

 だけど今のアメリカのシーンにおいては、キャロライン・ポラチェックもそうなんですけど、エンヤの影響を感じさせるアーティストが結構いるんですよね。ここがシンガーソングライターと、エレクトロの両面で存在感をアピールしてたのは意外だったなと。ただ、そこと、伝統的な生身のソングライティングを加え、この二つを絶妙なバランス成立させているところに、ワイズ・ブラッドの唯一無二の独自性を改めて感じましたね。60、70年代のシンガーソングライターの音像がこんなに未来的に響いたことはないですね。

ただ、前作の時点までだと、ややもすると「アメージング・グレースでも歌いだすんじゃないか」と思えちゃうくらい、教会音楽というか、伝承フォークのイメージが、ファルセット使って朗々と歌う感じがあって、そこが個人的にはあまり得意じゃなかったりしたんですけど、今回はより黒人音楽的なゴスペルのグルーヴ感を体得出来ているので、そこのところの「お行儀の良い、綺麗すぎる白人っぽさ」をそこまで感じなくて良くなってるなとも思いました。

 30代前半で、これまでそこまで大きな商業実績もないから、ステージ・プレゼンスがロングのケープ使ってる割にはちょっとまだ大人しめな印象は残ったりはしました。ただ、そこのところは今後、洗練され磨かれていけばいいなと思います。インディ系の女性アーティスト、昨今多いですけど、これだけスケールが大きく多彩なサウンド・スケープ表現できる人も貴重ですからね。


<悪コンディションゆえにウォー・オン・ドラグッスは断念>


 本当はこの後にウォー・オン・ドラッグスが観れたんですけど、断念しました。

 とにかくいて、不安が大きかったんですよ。何せこの会場が市内のどこからも遠い場所にあって、しかも公園っていっても皇居くらいデカいから、どこで適切なバス停つかまえられるかが微妙だったんですよね。しかも、夜でしょ?サンパウロで、夜に道迷ったりしたら、すごく危険ですからね。
 
加えて、このイベント、フェスなのに食事売ってなかったんですよ!高い値段でビールしか売ってない。あるのは、ものすごく高く値段設定されたポップコーンだけで、そこに長蛇の列が並んでいる。「帰りのめどがつかないは、腹は減るは、じゃたまったもんじゃないな」と思い、午後8時30分くらいでしたが、会場を後にしました。

 多分、このC6フェストそのものには二度と行かないでしょう(笑)。ただ、そんなひどいものの中に、こういうダイヤが不意に混ざったりする時があるから、フェスとは厄介なものなんですよねえ。



 



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