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沢田太陽の2021年間ベストアルバム 30-21位

どうも。 

では、年間ベスト・アルバム、きょうは3回目ですね。今回は30位から21位のアルバムを紹介しようと思います。

このようになりました。

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はい。では、早速30位からいきたいと思います。

30.Typhoon/Royal Blood

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30位はロイヤル・ブラッドのサード・アルバムですね。これ、全英1位にこそなりましたけど、僕からすればこれは今年もっとも誤解され、過小評価されたアルバムだと思っています。これ、一般には「これまでハードなサウンドで売っていたロイヤル・ブラッドがポップなダンス・ロック・アルバムを作った」というすごく表面的な評価をされがちなんですが、とんでもないです。マイク・カー奏でるギター同然の効果が出るよう改造したベースから放たれる低音。これがしっかりと、エレクトロとかヒップホップのクラブとほぼ同じ音質のベース音になってること、しっかり気づかれるべきです。これまで、ダンス・ミュージックを意識したアルバムは多く出てますけど、単に跳ねた音符とかシンセとかを使ってるだけでなしに、実際にフロア対応できたベース音で作られたものって、そうはないですよ。あと、「これから、2020年代向けのロック・サウンド」ということでも本作、昨年のストロークスやHAIM並みに考えられた音なんですけどね。このアルバムは、そのことが数年して理解されるような気がしています。

29.New Long Leg/Dry Cleaning

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29位はドライ・クリーニング。今年のサウス・ロンドンのポストパンクを盛り上げた代表的バンドのひとつですよね。サラサラ・ロングヘアに大きな目が特徴のミステリアスな美女ふローレンス・ショウによる、アンニュイな雰囲気漂う低い声によるポエトリー・リーディングに、テレヴィジョンを彷彿させるトム・ドウズによる縦横無尽な鋭角さを持つギター。ジョイ・ディヴィジョンを思わせる冷徹なまでのミニマルさを保ち続けるベースとドラム。そしてこれらが互いに、ある一定の距離を保ちながら分離されたストロークスのような音の佇まい。もはや使い古された表現になりつつあるポストポンクのそれぞれ最良の部分を抽出して組み合わせると、なおも高品質のロックが出来上がることを証明した見事な例だと思います。個性としては申し分ありません。ただ、こうした個性でゾクゾクしぱなっしの前半の勢いを、曲の幅の少なさで少しずつ弛緩してしまう中盤以降の展開を克服できたら、さらにとんでもないバンドになれるはずです。

28.Mood Valiant/Hiatus Kaiyote

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28位はハイエイタス・カイヨーテ。オーストラリアという国は、近年のテイム・インパーラを例に出すまでもなく、突然変異で独自の個性を発揮したアーティストを生む土地柄なんですけど、このメルボルンが生んだネオ・ソウル・バンド、ハイエイタス・カイヨーテもそうですね。黒人そのものが人口的に特に多いわけでもないところから、なぜにかくもどっしりと腰のすわった、ねっとりとしたディープなソウル・ミュージックが生まれうるのか。僕自身、すごく不思議です。この国の歴史的に見てもかなり稀なタイプのように思います。このアルバムは、そんな彼らの潜在能力が一気に開花した傑作ですね。重厚なベースとドラムのアタックとウネリはディアンジェロやザ・ルーツといった、アメリカでネオ・ソウルが出始めた90s後半の頃を思わせる、本国でさえ理想的な継承者が出なかった至宝を継承した趣さえあります。そこに、乳がんを克服したフロント・ウーマン、ネイ・パームの、生命への強い意志と喜びを詰め込んだリリックと歌声と旋律のエモーションが美しき結晶として昇華されています。これが孤高に終わらず外へ外へと広がっていくことを願いたいです。

27.時間/betcover!!

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27位はbetcover!!。去年、僕の年間ベスト・アルバムでは日本のアーティストを2組入れましたが、今年もそれは同様です。まずひとつが、このbetcover!!。1999年生まれのヤナセジロウのソロ・プロジェクトです。僕、これが出るまで彼のこと全く知らなかったのですが、こと、邦楽に関して言えば僕のツイッターのTLでフォローしてる人は最高のテイストメイカーでして、彼らが熱く絶賛してるものは大概良く、彼らが2021年にもっとも盛り上がってたのは間違いなくこれ。僕も「なんだ、なんだ?」と思って聞いて衝撃でしたね。これ、雰囲気としてはキング・クルールみたいなソウル・ミュージックをアングラにデカダンのフィルターで再構築したみたいな感じなんですけど、初期のニック・ケイヴ的な歪みと、80年代のブライアン・フェリー、それが日本的になってるから井上陽水ですけど、その洒脱な雰囲気の両方でかき回して現在のフィルターで表現したような、日本はおろか、世界でもきわめて稀な音楽です。こういう存在が突然変異で現れてしまうところにすごくカタルシス覚えますね。去年はじめて知ったGEZAN同様、異能な存在として小さくまとまらずに成長して欲しいですね。

26.Chemtrails Over The Country Club/Lana Del Rey

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僕の年間ベストの場合、凝るポイントはトップ10のほかに、11位、50位、そして折り返し地点の26位と25位なんですけど、今年もそこは同様です。まず26位はラナ・デル・レイ。今年3月に出た「Chemtrails Over The Country Club」。全世界で大絶賛され、2019年の僕の年間ベストの1位に輝いた「Norman Fucking Rockwell」の次作としてかなり期待の高かった作品です。NFRでは前々作の「Lust For Life」で芽生えたフェミニズムに対しての彼女自身の意識の変化を、現在屈指の売れっ子プロデューサー、ジャック・アントノフによる多彩にして変幻自在なバロック・アレンジで表現した彼女自身のひとつの表現の高みに達した作品でしたが、ここではフェミニズムの意識に加え、「音楽に精進したい」という彼女のさらに強まった意志を、カリフォルニア大火災後に移り住んだ中西部を舞台としたフォーキーナテイストで彩った1枚に仕上がってます。NFRからファンになった方たちはこれすごく気に入っていただけたようですが、ただ、初期からのファンの人たちにはなんとなく物足りなさが残ったとの意見も両方耳にしましたね。

25.Blue Banisters/Lana Del Rey

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そして25位もラナ・デル・レイ。こちらは10月にリリースされた「Blue Banisters」。かねてから短期間に大量の曲を書くことで有名だったラナでしたが、とうとう1年で2枚のリリースをやってしまいました。だって9年で7枚ですよ。しかも、デビュー作には追加EP出てるから実質8作。実に驚異的な創作量です。で、このアルバムなんですが、うまくいったと思っていたジャック・アントノフとの製作はここではやってなく、あまり耳馴染みのない新しいスタッフとの製作です。内容の方は、2020年からSNS上で受け続けた彼女に対しての「レイシスト」なるいわれない批判に対しての返答的なものになるかとも噂されていましたが、その要素が全くないわけではないですが、それよりは中西部移住第2弾で、こちらの方がよりパンデミック以後の彼女の生活を描いたものが目立ちますね。この前作から低い声でなくうわずった地声を使うようになったんですが、より素の表現になり、パンデミックで太ったことまで歌詞にするようにさえなりました。サウンドの方は、ここ数作なかった、とりわけ「Honeymoon」の時期のような音数の少ないダークな路線に回帰して、新しいファンを躊躇させ、古いファンを歓喜させてましたね。

24.Crawler/Idles

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24位はアイドルズ。僕の年間ベスト、今年でブログ上は5回目なんですけど、そこにラナが通算、4枚入ってるほど常連なんですが、アイドルズもこれで3枚目、しかも昨年のアルバムに続いて2枚連続とレギュラーになりつつあります。頭もはげあがったような超オヤジ顔の風貌で荒くれパンクロックで社会批判をまきちらし、シェイムやフォンテーンズDCのような若いバンドとイギリスでのロックンロール再復興を実現させたアイドルズですけど、前作はちょっと主張が空回ってしまったか「左翼プロパガンダすぎる」と批判されることも少なくありませんでした。その反省があったからなのか、わずか1年2ヶ月で十分なプロモーションもないままに突然出た今作では、「悲しみやトラウマ」をテーマに、これまでになくダークでメランコリックな作風に進化。聞いてて70sの名パンク・バンドだったマガジンあたりを思い起こさせますね。このアプローチにより、緩急と深み、そして鋭い部分はより鋭角的になりました。彼らが今後、この異色作のまま進むとも思いませんが、この変化球を経ての次作以降の成長がさらに楽しみになりました。

23.Home Video/Lucy Dacus

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23位はルーシー・デイカス。イギリスのインディでもっともホットなシーンがサウス・ロンドンの新たなポスト・パンクなら、USのそれでもっとも旬なのはやはりボーイジーニアスでしょう。フィービー・ブリッジャーズ、ジュリアン・ベイカー、そしてルーシー・デイカス。このインディ・フォークロック3人娘の持つ影響力が、とりわけ僕が昨年の年間1位にしたフィービーの「Punisher」以降、さらに強まってると思います。今年もジュリアン、そしてルーシーがこのアルバムで続きました。ジュリアンの方がヒットこそしたものの、僕はこのルーシーのアルバムの方を買いたいです。この3人の中では一番地味キャラで、歌い方もオットリとシャイで活発でユーモアセンス溢れるフィービーや圧倒的歌唱力でエモいジュリアンと対照的に見えるんですけど、その分、内面の孤独に寄り添って語りかけるような歌はジワジワ響いてきます。さらに、おとなしそうに見えて、ニール・ヤングばりにここぞのところでペダル踏んで轟音ギターかきならす力技を繰り出すことができるのもまたルーシー。多様のフィービー、一本気なジュリアンの中間が彼女ですが、そのスタイルが最も確固たるもののような気が僕にはしてます。

22.Raise The Roof/Robert Plant & Alison Krauss

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22位はロバート・プラント&アリソン・クラウス。このコンビニよる、これが2枚目の作品ですね。1作目は2007年に発表された「Rasing Sand」で、あれは2009年2月のグラミー賞で最優秀アルバムを受賞するほど絶賛されました。今回はそれから14年を経ての第2弾の共演となったわけですけど、パターンわかっていてもやはりしびれますね。プラントの衰え知らずのハイトーン・ヴォーカルとアリソンのカントリーの伝統楽器のフィドルとの組み合わせがいいことはもちろんなんですけど、レッド・ツェッペリンの頃から一貫した、むき出しになってのフォーク、ブルーズ、カントリーのいかなるルーツ・ミュージックに対応出来る器用さと、そのアレンジから繰り出される、プラントからの無尽蔵な極の数々のカバーですね。60sブリティッシュ・トラッドのバート・ヤンシュやアン・ブリッグスといったツェッペリン時代以来のフェイヴァリットから戦前カントリー・ブルーズ、ここ20年未満のオルタナティヴ・カントリー、オルタナ・フォークまで。これぞfオークやブルーズ本来の伝承の精神の継承であり、他に今これができるのってボブ・ディランくらいですよ。そう思うとツェッペリンの域さえ超えて尊敬しないわけにはいきません。

21.Carnage/Nick Cave & Warren Ellis

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そして21位はニック・ケイヴとウォーレン・エリスの「Carnage」。ニック・ケイヴはキャリアのスタート以来、決定的に失敗したアルバムのない、いくつになっても最上の音楽を表現し続け、そのピークが還暦前後にやってくるという、ロックでも非常に稀なキャリアを積んでいる真っ最中です。ここ数作は、10代にして早逝してしまった息子さんへの荘厳な鎮魂歌と天国での祝祭とでもいうべきヘヴィなゴスペルという、自己の表現の最高級の結晶で表現していましたが、今作はパンデミックの中での突発的な創作で生まれたものです。そういうわけでバッドシーズでの招集はなく、現在のバンマス的存在のウォーレン・エリスとの共演で作られました。ただ、さすがに電子音楽とクラシックとパンクロックのいずれにも長けたウォーレンがいると、もうニック御大も安心して身を任せることができるというか、ディープな歌声でのクルーンが多彩に響きます。現在の音楽シーンでこれができるの、ほかにトム・ヨーク&ジョニー・グリーンウッドのコンビくらいだと思います。十分このまま素晴らしい作品です。でも、ウォーレンがいかに優れていようとファンはバッドシーズの他の才人たちも集まった完璧な状態で聴きたくなってしまう。そこが贅沢な悩みでもあります。

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