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ライブ評「プリマヴェーラ・サウンド・サンパウロ」(1)〜アークティック、ビヨーク、そしてミツキが最高すぎた!

どうも。

では、先週末の、個人的な大イベントのレビュー、行きたいと思います。

はい。プリマヴェーラ・サウンド・サンパウロ。あのバルセロナの有名フェスの南米版。ついにはじまりました。ちょっと感激ですけどね。

先週の土日、5日、6日と行ってきましたけど、2日にわたってレビューしたいと思います。

 場所はサンパウロ北部にあります、アニェンビ総合施設。そこはサンパウロのカーニバル会場でライブ会場としても使われるので過去に何度か行ったことあるんですけど、より運営形態が変わってたので行ってみて驚くことはありましたね。

入り口はこんな感じでした。ここから二手にステージが分かれていて、右に行くと第2、第3ステージ、左に行くと第1ステージがある、という感じです。

 5日の場合、着いたのは16時の少し前。最初に見たのはリニケルという、日本でもブラジル音楽好きにはそこそこ知られたアーティストですね。ゲイのシンガーで、70s風のブラジリアン・ファンクを聞かせてくれます。ブラジル国内のフェスでは引っ張りだこの人で、以前にロラパルーザでも見てます。そこまでぐっとくる感じではないんですけど、MCで「今日という日を本当に待ち焦がれたわ。民主主義の勝利よ」と1週間前の大統領選で極右クソ大統領ボウソナロに左派の大物ルーラが勝ったことを喜ぶコメントをしていたのが印象的でしたね。勝利の安堵で、サンパウロのフェスが政治色濃くならなかった久々の機会になりましたね。

 そのあとに第3ステージに移動してロス・プラネタスという、スペインではそこそこビッグなベテラン・バンドを見ましたね。こういう存在が見れるのもスペイン主導のフェスのいいとこです。ちょっとU2〜コールドプレイの系譜を感じさせるバンドでしたね。

 ビヨーク(18 20 第2ステージ)

そして、この日、最初の目玉はビヨークでした。意外に思われるかもしれませんが、僕が彼女ライブを見るのはこれが初めてです!なぜ今まで見てこなかったのかというと、なんか小難しそうなイメージあったじゃないですか?僕ですね、「前衛」とか「実験的」とかって言われる音楽に対しては、興味が全くゼロとかではないにせよ、それがあったからといってポイントが高くなることは基本ないんですね(苦笑)。彼女の場合、それがすごく鼻についてついてた時期があって、その間の10数年は新作出ても聞かない状態だったんですね。ただ、2017年の前作「Utopia」を久々に聞いて割と好感触で、9月に出たアルバム「Fossora」を聞いたらこれがすごく良くて。それで、せっかくの機会だからこの際、ちゃんとライブ見てみようと思ったんですね。

 彼女の場合、新作出したらその世界観で押し通すライブをやることが多いので今回もそんな感じなのかと思ったら、今年の7月頃にやってたオーケストラをバックにしたライブ、ほぼそのままの選曲でしたね。1曲目が2015年の「Vulnicura」からの流麗なストリングス・アレンジの光る「Stonemilker」。もう、この曲の時点から全体のトーン、決まってましたね。

 ここから先は彼女の代表作「Debut」「Post」「Homogenic」「Selma Songs」「Vespertine」までの曲が満遍なくと、「Vulnicura」の曲の合体で進みましたね。これはベスト盤の趣でしたね。まさに「Vespertine」くらいまでが彼女の曲がラジオでまだ流れていた時期だし、「Vulnicura」は最近の彼女m自身のお気に入り作品で、このアルバムをもとにした視覚聴覚体験で楽しむアート・エキスポみたいな企画やって、それ僕も行きましたからね。それを今回のライブまで引っ張るということは彼女自身、そうとう思うところのあるアルバムなんだと改めて感じましたね。

 この選曲見て思うのは、ビヨーク自身、かなり自身の普遍的な歌心の良さに改めて回帰してるんじゃないか、という気がしたし、実はそれこそが僕が長年求めていたものでした。「Post」のときなんて大好きだったのに、ああいうポップなアルバムを作らなくなってがっかりしてました。それでも、それこそ「Vespertine」の頃まではリスペクトできたんですけど、2004年に出た「Medulla」ってアルバムが本当に難解できつくて、それ以降も戻ってくる気配が感じられなかったので、そこから新作出ても無視するようになって。そこを彼女自身もブレーキかけてあるべき地点に戻ったのが「Vulnicura」なのではないかなと思いましたけどね。ただ、それが行きすぎて、新作から1曲しか披露しなかったのは相当意外でしたけど(笑)。

 ただ、それ以上に僕が感動したのは、彼女の歌声ですね。音盤で何度となく聞いたなじみのあの声が全くの衰えも見せない中、生で聞けたのはやはり感慨深いというか。舌足らずなまどろっこしさから突如高いキーをグイっと伸ばしたかと思ったら、低いキーもかなり音を沈ませて表現できるあの高低のダイナミズム。こういうのはやっぱり彼女以外では聞くことのできないものだし、音楽界にとっての貴重な宝だなと改めて思いましたね。

 そういうすごいことをしている人が、蜂のかぶりものみたいな衣装着て、すっとんきょうな声でカミカミのたどたどしい英語でMCしてるのもなんかおかしいんですけど、こういうとこも含めてすごく微笑ましく、リスペクトできるライブでしたね。1998年の豊洲でのフジロックのとき、裏のニック・ケイヴとイギー・ポップ見ないでヘッドライナーだった彼女を見ていたら、ひょっとしたら違う人生があったかもな、などとも思った次第です。

インターポール(第1ステージ 19 40)


 続いて第1ステージの方でインターポールのライブがあったんですけど、このステージがですね、ライブの内容以上に問題でした。

なんと

ステージを木が遮るってどういうこと??


この木がですね、フェスの間中、ネタにされまくってましたね。たしかにですね、これ、木より前に行けば問題はありません。しかし、人がたくさん入った場合はそうはいきません。木に視界が遮られるほかはありません。これ、ちょっとビックリでしたねえ。

 主催者も気を利かせて、モニター画面をたくさんもうけて見えるようにはしてたんですけど、たとえモニターがたくさんあったところで、やっぱ、どんなに小さくてもステージでの動く姿って確認したいものじゃないですか。それが全然できなかったのは非常に問題でしたね。

 そんなハンデの中、インターポール、いつものように淡々と黙々とライブやってましたけど、新作「The Other Side Of Make Believe」同様、けだるさが行きすぎてアクセントがなく、勢い単調な展開の連続なんですよね。ちょっと見ていて、これはいただけなかったですね。バンド自体がちょっと倦怠期入ってるのかなと、見ていて感じてしまいましたね。ショウ後半は申し訳ないですが、夕食と、次のミツキのライブの準備での早めの移動に使わさせてもらいました。

ミツキ(第2ステージ 2050)


そしてそして!1日目のみならず、今回のプリマヴェーラ・サウンド全体通しての最大のサプライズがミツキでした!

 彼女に関しては僕はFacebook内の彼女のファンページのメンバーになるくらいのファンです。ライブでやる曲もセットリスト見なくてもすぐに全部わかるレベルです。しかしですね、それでもですよ、ブラジルでの彼女の人気の凄まじさを予想することはできなかった!

 開演の20分くらい前に会場ついたんですよ。それで一応前の方は確保できたものの、そこまで前には行けなかったですね。もう数10メートルはガチガチで。リオの単独公演売り切れたとは聞いてて「ブラジルのラジオで流れでる印象ないのに、なんで?」とは思ってたんですけど、その状況がサンパウロでも同様だったことを実感してさらに驚きました。

 そして、もう驚きの連続はライブ本編がはじまってからでしたね。1曲目の「Knife In The Water」から、もう大合唱の嵐なんですよ!しかも新作とか、出世作となった「Be The Cowboy」の曲だけじゃなく、ブレイクする2作前の、超インディのレーベルの時代の曲まで大合唱なんですよ!

「え〜、いつのまに、そんなにファンが鍛えられたんだよ〜」と戸惑ってるうちに、彼女の曲で最もSpotifyでのストリーム数の多いこの曲では

この「Washing Machine Heart」での大合唱、すさまじかった!もう、あまりにも歌声が大きかったので、ミツキ自身が1コーラス目歌うのやめて、客にずっと歌わせたでしょ?本人もこれ、ビックリしたんじゃないかと思うんですけど、すごい機転利かせて歌わせましたね。最後「グッジョブ!」とまで叫んで(笑)。

 これ、最後の最後までこの調子で、何歌っても終始大合唱だったんですよね。この求心力の高さ、驚くほかはなかったですね。

 ただ、客の合唱だけじゃなくて、ミツキの持つカリスマ性がそれを煽った側面は間違いなくありましたね。

 ミツキ、昔はエレキギター肩から下げてプレイしてたんですけど、「Be The Cowboy」のツアーから、謎のダンスを踊るようになって、曲を全身で表現するようになりました。

 ただ、その動きがダンスとして美しい衣とかそういうのではなく、かなり力強く、かつ妙に必死で余裕がないのがすごい迫力として伝わるんですよね。


こういうダンスを、バックにいっしょに踊ってくれる人もなく、ただロックバンドが黙々と演奏する中、ひとりで踊り続けるんですよね。今回、いい写真がなかったんですけど、ボクシングのファイティング・ポーズとか、鮮やかなとびげりをロングドレス着たままやったりとか、その動き見るだけで、その迫力に圧倒されます。

  で、それだけ動くのに、しっかり彼女の歌声はちゃんとオーディエンスにも届いていてね。その点でもポイント高いです。

 おもしろいですよね。こんなの普通のダンス・ポップのライブとかでは絶対に見られない光景だし、ましてやロックのライブではもっと見ません。こんな一体感のない、孤独にもがき苦しむようなパフォーマンス。でも、それこそが、彼女が一貫して歌の中で歌う疎外感や孤独に妙にしっくりくるんですよね。だからこそ見守りたくなって余計に入り込んでしまうというか。そして、この見せ方が、各時期によって全く異なるサウンドをすごく統一感をもって見せることにも貢献してるんですよね。

 そして、必死の形相でのパフォーマンスがひと段落ついたら、普段の優しい口調の彼女に戻って、ニコッと笑って「Thank you so much」と短いコメントだけをする。このギャップもすごく楽しいです。

 この熱狂に僕は新しいタイプのロックスターの誕生を見た気がしました。ただ、このライブの説明だけではまだなぜここまでウケるのかわからない人も少なくないのでは、と思うこともたしかです。この背景説明はもう少し必要だと思いますが、それは、2日目にバカウケしたあるアーティストとセットで別記事で語らないと難しいことだと思います。その記事も近日中に書こうかなと思います。

アークティック・モンキーズ(第1ステージ 22 00)

そして、この日のヘッドライナーのアークティック・モンキーズとなるわけです。

僕は日本で2回、ブラジルではこれで4回目の計6回彼らのライブを見てますが、今回ほど楽しみなものはなかったですね。ブラジルでのそれまでの3回は全てアルバムのツアーの終わり頃でなんとなうどんな風になるか予想がついたんです。ところが今回は新作「The Car」が出た直後のライブ。歴代でもトップクラスのアルバムであった上に、まだどんなライブになるかわからず、そのワクワク感がいつになく強かったです。本当に予想がつかなかったですからね。

 ただ、ミツキのライブがあまりに盛り上がって中抜けできるような状態ではなかったため、アークティックのステージに行くのが遅れて着いた時には、さっき言った木に加え、客席のど真ん中にあるPAテントに阻まれて、ステージなんてまるで見えやしない最悪の状況。幸いにして目の前に設置されたモニターに頼るしかなかったのですが、充実したライブがその逆境する忘れさせてくれました。

1曲目からしていきなり意外でした。「Sculupture Of Anything Goes」。新作の3曲目収録のヘヴィなスロー・ナンバー。普通に考えてオープニングになるとは考え難いこの曲でライブは荘厳な雰囲気ではじまりました。

 ただ、もうこの時点から彼らのこれまでのライブで感じたことのない風格はビンビンに感じましたね。アレックス、とにかく歌が上手くなってるんです!声の持つ奥行きと伸びがこれまでと全く違う。新作聞いた時も思ったんですが、この3年ほどの不在の間、彼、間違いなくボイトレというか、ヴォーカル・レッスンやったんじゃないかな。これまでむしろのびにくい声質だったのが、すごく声が通るようになってて。思わず聴き惚れてしまいましたね。

それが終わると「Brianstorm」「Snap Out Of It」「Crying Lightning」「Dont Sit Down Cause I Moved Your Chair」「Whydyou Only Call Me When You Are High」と、歴代シングルを畳み掛け。ここはすごくベスト盤的で理屈抜きに楽しめましたね。

そして新作に戻って「Body Paint」。これのさらに4曲後にやった「The Car」もそうなんですけど、上手くなったのはアレックスのヴォーカルだけじゃないですね。ジェイミー・クックのギター・ソロの表現力も、マット・ヘルダーズのドラムの重量感も。もちろん名手ニック・オマーリーのファットなベースも。バンドごと表現力のスケール感が飛躍的にあがりましたね。すごく立体的な聞こえ方をするように進化しましたね。それはこの日も披露された前作「Tranquility Base Hotel & Casino」のタイトル曲やそこからのシングルの「Four Out Of Five」と比べるとすごくよくわかりました。

ここからは主に大人気の「AM」、そして意外やカルト作「Humbug」の曲を中心に進みます。なんだかんだいって、やはり最大ヒット作の「AM」は客の反応がやっぱり段違いというか。「Do I Wanna Know」のイントロがなる際、特に女の子が絶叫するんですよ。アークティック史上最もハードなロックアルバムゆえ男性に人気なのかと思ったら予想以上に女の子人気が高い。なんかすごくセクシーに聞こえるようですね。あと「Humbug」は当時、すごうまとまりのないケイオスのアルバムの印象があったんですけど、一つの形がまとまった今の彼らがプレイするとそこまでばらけて聞こえずいい感じに曲の多様性が表現できていて、そこはすごく興味深くありました。リリースから13年経った今だからこそ、当時に本当にならしたかったイメージが表現できるようになった感じですね。

そして終盤になってこれまで抑えてた初期の曲を披露。ちょっと意外でドッと反応が湧いた「Do Me A Favor」、そして17曲目にしてようやく初登場となったファーストからの「From The Ritz To Rubble」,、そして現在、Spotify上で大人気の名バラード「505」で一旦閉めます。

 そしてアンコールの1曲目で「Thered Better be A Mirrorball」。新作からは結局4曲が披露。もう少し多いかと思ったんですけどね。そしてここデビュー曲「I Bet You Look Good On The Dancefloor」ときて、ラストに「R U Mine」の大団円で終了しました。

選曲的にはベスト盤プラス新作、そして「Humbug」から4曲という、余すところなく代表曲を聞けながら意外なチョイスもあったという意味ですごくバランス取れてたと思います。でも、なによりたくましく進化した姿が確認できたのが一番うれしかったですね。

PS


と、本来ならここで帰宅したんですけど、悲しいニュースを。ブラジル音楽界を代表するディーヴァとして、カエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジル、ムタンチスとの「トロピカリア」の頃から50年以上にわたって君臨し続けたガル・コスタが9日に亡くなってしまいました。

 実はガル、キャンセルになってしまいましたが、このプリマヴェーラの初日にブッキングされてました。鼻の中にできた腫瘍の除去でキャンセルを余儀なくされていたんですけど、そのキャンセルからほどなくしての訃報となってしまいました。

僕自身もチャンスとタイミングがあればみたいと願っていたので本当に残念です。僕にとっては、NHKでの駆け出し時代にラテン音楽の番組の担当をやっている時に初めて知ったブラジル音楽のアーティストでもあったのでなおさら残念でした。ここで追悼させてください。







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