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アイドルやポップスターが、今やアメリカのキッズにとってのロックのイメージになりつつある理由について

どうも。

今日はこういう話をしましょう。

今日、この話をするべく、数日前に

こういうツイートを打ったら、すごくリアクションがありました。「ああ、この話、やはり興味持たれそうだな」と思ったので、今日はこの企画、

アイドルやポップスターが、今やアメリカのキッズにとってのロックのイメージになりつつある理由について

これについてやることにしましょう。

①MGKやマイリー・サイラスらが共感を得る最大の理由とは?

これをやってみたいと思った、そもそものきっかけはこれでしたね。

はい。こないだ3日連続でレポ載せました、ロラパルーザ・ブラジル、これにかなりメインで出たマシンガン・ケリーとマイリー・サイラス。この2人に熱狂する若いお客さんを見てですね、「ああ、今、キッズのロックへの接点って、インディ・ロックではなくて、こういうアイドルとかポップスターに当たる人たちなんだな」ということを強く確信したからです。

 「ちょっと待って。MGKはポップパンク〜エモ・リバイバルでマイリーはハナ・モンタナなわけだから、2000年代育ちのY世代が盛り上がってるんじゃないの?」。そう言われるかもしれません。確かにその要素も強くはあります。だけど、観客見るに、決してそれだけではなかった。一部の世代刺してるだけだったら、あんなに人気出ないと思うので。

 現実問題、MGKって、ロラパルーザ出た日にニュー・アルバム出たんですけど、全英2位の全米1位。ヨーロッパでもほとんどの国でトップ10ですよ。マイリーに至っては、ロラパルーザ・ブラジル史上最大動員となる1日10万人の最大の立役者ですよ!この求心力って、一体何なんだろうと思って、すごく気になったんですよね。

 で、僕が思った最大の理由、これ、一言で言うと

インティマシー


もう、これが抜群にあるんですよね。

これは、直訳すれば「親しみやすい距離感」、とでもいうべきものなんですけど、これが抜群なんですよね。キッズにとって、「自分たちも知ってるポップスター、アイドルがロックをやってくれているから分かりやすい」。ズバリ、これなんですよね。

MGKにしてもマイリーにしても、実際問題、すごく教科書的にロックやるんですよ。前者だったら普通に2000sのポップパンクに、ライブでマイ・ケミカル・ロマンスを1曲丸ごとBGで使って、パラモアをカバーするわかりやすさ。後者であれば、曲の合間にピクシーズのアドリブを入れて、さらにデボラ・ハリーやスティーヴィー・ニックスのオマージュをする。だからと言ってそれが上の世代にウケてるとかってわけでは決してなく、そういうのを知らない若い世代の子たちに新鮮に受け入れられている。ここなんだと思いますよ。

②2010年代に、ロックリスナーからなぜ「ティーン」が消えていたのか

「でも、そういうの”偽物のロックもどき”とかってバカにされないの?」とかって思うでしょ?それが、そんな雰囲気が全くないんですよ。というか、「そんなことを言えるほど、ロックそのものが若い子たちに浸透していない」から、やってくれるだけありがたい感じなんですよね。それくらい、もう既にロックとの距離感があったというかね。

 それくらい、特にアメリカですけど、この10年で、若いリスナーにアピールできるロックスター、ほとんど育ててなかったから。ここが大きいんですよね。

「ちょっと待って。2010年代前半はBon Iverとかフリート・フォクシーズとかナショナルみたいなUSインディ、強かったじゃないか」という人もいるでしょう。確かにそうなんですが、決して若いリスナーにアピールするタイプではなかったですよね。

 2000年代まではアメリカでも若い人もロック聴いてたんですよ。ただ、その一翼を担っていたのってニュー・メタルとポップパンク/エモで、インディ・ロックとなると、その世代よりも少し上が対象な感じでした。だから僕自身もインディ推してたんですけど、「ティーン向けにうるさい音が機能してるから、それでも別にいいや」と実際に思ってたんですね。

 ところが2000年代後半になってニュー・メタルの人気が急速に陰って、エモも10年代入ってすぐに飽きられたことでラウドロック総倒れの状態が来ちゃったんですね。アメリカで、ヨーロッパ型の夏フェスも浸透してたし、インディ・ロックがロックの勢力として拡大するには極めて大きな
チャンスだったんですよね。だとしたら、インディ・ロックの分野からキッズ・アピールするものが出ていかないことには、若年層がつかめない危険性もあったわけです。

 ただ、そのタイミングでアメリカで人気バンドの創出を担ったメディア。これが

ピッチフォーク

これが、本当にまずかった!!

 なぜか。彼らには大衆的スターを作り出す才能が根本的にないから。彼らは、それまでスター・バンド作り上げていたNMEが雑誌不況で苦しんでいる間にインディ・ロックのメディアの主役交代してのし上がってきたわけなんですけど、NMEほど魅力的なバンドを嗅ぎ取る臭覚がありません。

 で、スター作るどころか、ピッチフォークはNMEが手塩にかけて育ててイギリスで特大スターになり、アメリカでも大衆人気出てたキラーズとかキングス・オブ・レオンの一番売れてた時に酷評レビューの連続攻撃をしてたくらいでしたからね。これじゃ、育つものも育ちませんよね。

 で、推してたバンドがクラウド・ナッシングスとかリアル・エステートとか、ベスト・コーストとか、「悪くないけど、それじゃ売れないよ」みたいな地味でロウファイっぽい感じのバンドばっかり押してね。前述のアメリカーナ的なアーティストの方はサウンドの特異性とかアダルト層巻き込めたから売れたものの、このテのロウファイ・ギターバンドが本当に売れなくてね。この辺りはすごく、ピッチのエディター、ライターにいがちな「ペイヴメント命」みたいな人たちの地味な趣味性が出ちゃったかなあ、という印象でしたね。うちの妻がアメリカの大学行ってたんですけど彼女曰く、ペイヴメントとかソニック・ユースのファンって「非モテ系のナード感」が強くて、そういう人たちが学校のカレッジ・ラジオ牛耳ってたって言ってましたけど、その人たちみたいな人が大人になって「さあ、いざ、インディ、売れそうだぞ」って時に押すアーティストがとにかく地味すぎた。ここはごめんなさい、運が悪かったと思います。そうしてるうちに、ロック聞くかもしれなかったキッズがEDMに流れてね。

 で、そんな感じだったから、だんだん若い子たちがロック聴かなくなってしまって、そこに追い討ちをかけるように、若い子に訴求力のあったストロークスもアークティック・モンキーズも、ヴァンパイア・ウイークエンドも2013年から5年以上新作出なかったでしょ?そこに追い討ちかけるように、「2010年代のレディオヘッド」みたいになれそうだったアーケイド・ファイアが急にスランプに陥って。いい新人が出てこない上に、シーンの主役級でこれだけ不在、不調が重なったら、そりゃいい流れなんてできるわけないですよね。

 だから、ロックって、ティーンが全然聴かない音楽になっちゃったんですよね。だったら、少なくとも批評メディア界隈が聞くものだけでも押して欲しいって思うじゃないですか。だけど、それじゃアメリカのラジオ業界は嫌がるんですよね。彼らとしては、もう既に存在しなくなっていた若い層がリスナーに欲しいので。そこで、ちょっと産業ロック的にイマジン・ドラゴンズとかトウェンティ・ワン・パイロッツとかパニック・アット・ザ・ディスコみたいな、インディ・ロック聞くタイプのリスナーには逆に縁が薄いバンドを支持してたまに大きなヒットが出るのを期待するしかない、みたいな状況が2010年代の後半ありましたね。でも、キッズにとってみりゃ、そのたまにしか出ないヒットのイメージ、それこそがロックになってました。実際これ、9歳のうちの息子のちょっと前までのロックのイメージ、まさにこれでしたからね。

 そうしていくうちにSpotifyの時代になって、ティーンがリピート繰り返すタイプの音楽が強くなって、そうなるとロックはますます不利になって。これが2010年代の中ばですよ。この時はヒップホップが右肩上がりの最高の時期で、トラップが強くなってEDMが下降線。ロックなんてデイリーチャートに影も形もない、みたいな状態になって。

「でも、テイム・インパラやThe 1975を忘れてやいないか?」。いや、忘れてはないんですよ。彼らとかLorde、HAIM、ウルフ・アリスあたりは奮闘してはいるんですけど、彼らだけの力では変えられないくらい、この時期の逆風は強かったわけです。

③キッズのロックの摂取がどこから変わったか

 
で、その状態から、トップに書いたようなことがどのように起こったのか。それについて語っていきましょう。

 僕が「もしかしたら状況、ロックにいい方に変わってくるんじゃないか」と思い始めたのは、2020年に入ってからのことでしたね。

 2019年にビリー・アイリッシュが出たじゃないですか?確かに彼女で「ロックが戻ってきた!」とする人もいました。テクニカル的にはロック・チャートにエントリーすることもある人だったので。でも、彼女のサウンドそのものを指して具体的に「ロック」とするのはやや強引なところもあったわけですよね?だから僕は、ビリーのファースト・アルバムは大好きでしたけど、これが「ロック復興」に直接結びつくかはまだわかりませんでした。

それよりもむしろ、こっち聞いた時の方が「何かあるかも」と思ったんですよね。それが

ハリー・スタイルズの「Fine Line」。ワン・ダイレクションのハリーのセカンド・ソロだったわけですが、これ聞いた時に「これまでより格段に良くなってる。売れそう」と直感したんですけど、その時に「これ経由して、ロック聞く子、増えたりしないのかな」と思ったんですよね。

で、これが予想通りロングヒットになって、2020年の夏に「Watermelon Sugar」がアルバム発売から9ヶ月で全米シングルの1位になって。

で、そのすぐ後ですよ。

MGKの「Tickets To My Downfall」とマイリーの「Plastic Hearts」が出たのは。

MGKは僕とてすごく懐疑的でしたよ。「こんなポップパンクなんて何を今さら。初登場がいいだけだろ」とタカをくくっていたら、すごいロングヒットになったんですよね。で、マイリーの方は急成長にびっくりで、その年の年間ベストに「まさかマイリーのアルバムを年間ベストに入れる日が来るとは」なんて書きながら年間ベストの40位代に入れたんですよね。

これら3枚のアルバムが2020年にヒットしまして。この時に彼らを正面切って「ロック」と呼ぶ人はいなかったんですけど、だけど僕はこの時に「もしかして、この辺りを経由してロックを聴く若い子、出てこないのかな」と思ったことは確かでした。

 そうしたら2021年に

https://www.youtube.com/watch?v=gNi_6U5Pm_o

もう、これ、去年、何度書いたかわからないくらいですけど、オリヴィア・ロドリゴ、マネスキンの突如のSpotify、Tik Tok特大ブレイクでしょ。方やディズニー・チャンネルのアイドル女優、かたや、あまりかっこいいイメージを持たれていなかったユーロヴィジョン・ソング・コンテストの生中継から一夜にして人気が爆発したイタリアの伏兵バンドですよ!

この時はさすがに世界でも、「ロック復活か」は言われました。それくらい、この2組の独占ぶりは凄かったから。このヒットの最中は僕も、「突然変異」だと思ってたんですけど、今にして思うとこれ、「ああ、前の年からの続きなのかもな」と思うようになってきました。

それを裏付けるのが

このハリー・スタイルズの5月に出るアルバムからの先行シングル「As It Was」ですね。

 この曲、これまで以上にインディ・ロック色が濃いんですけど、これがなんとリリース日にSpotifyの記録となる367万ストリームを記録したんですね。

 いやあ、アイドルがここまでロックに接近した形でここまでの注目と、間違いなさそうなヒットを記録するということは、これ、今後への影響、絶対小さくないですよ。

 で、このタイミングでさっきも言ったようにMGKのアルバムも大ヒットなわけでしょ?で、明日、グラミーでオリヴィアなんか主要部門とりそうでしょ?これ、やっぱ、流れ、絶対にある気がするんですよね。

で、それと時を同じくして、トラップとかエモラップが以前ほど売れなくなってきている。まだゼンデーヤが出てるヒットドラマの「ユーフォリア」なんて見ると、そっち系まだ強いので流行が去ったとまでは思わないんですけど、以前ほどシングルヒットが出なくなって、それ系のアーティストのアルバムもアメリカだけでの初登場順位が目立つものが増えて、レビュー点数も落ちてきている。ちょっと前までは世界各国に、アメリカのトラップをコピペしたみたいな曲が溢れてたものですけど、さすがに飽きられてきたか。マーケッティングじゃなくてキッズ達がtik tokで見つけてきてる曲でもロックが増えてきてるのも、裏にそれがある気がしています。

④本格ロックの復活も、もちろん待っていたい!

 今のアイドル、ポップスターのロックスター化は、このような形で起こったものだと、少なくとも僕は理解してるし、外れてないと思ってます。

 ただ、「こんなのはロックなどとは言えない」という人もいるでしょう。「こういう、芸能界の手垢がついたような感じじゃない、本物のロックバンドが聞きたいんだ」。そう思う人たちがいても、僕は反論しません。「でも、キッズ取り戻すためには仕方なかったんだぞ」とは思いますけどね。

 実際問題、特にMGKなんかはロラのレビューでも書いたように、歌は反町隆史並でおあるわけだし、ごく普通のポップ・パンクなわけだから、「こんなものよりも売れるべきバンドは沢山いる!」となるのはわかるし、そうなるべきだと僕も思います。

だとしたら

それに代わる本物が台頭すべきだし、そうなると思う(思いたい)!

というのが僕の考えです。

例えばポップパンクだと

https://www.youtube.com/watch?v=iTRIrUMLsA8

すごくいい新作が出たPUPとか、新曲がすごく良くなってますビーチバニーとか、そういう人たちがやがて代わって欲しいと思うんですよね。

ただ、その兆候も出始めているというか。現に今、グラス・アニマルズが3週だか4週だかビルボードのシングル1位で、前も言ったけど、ミツキやビッグ・シーフのアルバムのチャート・アクションも格段に良くなったわけでしょ?わかりやすいところからロックに触れ始めた子たちがうまい具合にさらにインディ聞くようになっていけばすごく理想的なんですけどね。








 




















 















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