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沢田太陽の2021年間ベストアルバム 20-11位

どうも。

沢田太陽の年間ベスト・アルバム2021、いよいよトップ20に入ってまいりました。

20位から11位は以下のようになりました。

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はい。ここはかなり、他の年間ベストにはない、独自のカラーが出たとこのような気がしてます。

では20位から行きましょう。

20.Senjutsu/Iron Maiden

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20位はアイアン・メイデン。彼らみたいな、還暦を過ぎたメタル・バンドがこのテの年間ベスト・アルバムに入ってくることってあんまりないんですけど、今年、このアルバム、結構見るんですよね。メタル、ラウド・ロック系のメディアでは軒並み上位です。僕も今回のアルバムはリリース前方期待値高くてですね。彼らって、40代過ぎて、ブルース・ディッキンソンとエイドリアン・スミス戻って以降のメタル界でのキング君臨っぷりがすごくてですね。それ、特に南米だから強く感じるんですけど、見てて、ガンズやメタリカにさえ感じる「昔の名前で出ています」感がライブ見てても全くなく、現在進行形の現役バンドとしてすごくてですね。僕がこれのリリースと同時に「From ワーストToベスト」の企画やったのもそれが理由なんですけど、その21世紀以降の蓄積のマックスがここにきましたね。やってること自体は不変なんですけど、アンセミックなスピード・ナンバーが80s全盛期並みの輝きがあって、復活後に顕著な大曲やジェスロ・タル譲りのブリティッシュ・トラッド路線も完成度が高い。それで2枚組飽きずに聞かせるんですから。まだあまり彼らのことを知らない人、偏見抜きに聴いた方がいいですよ。

19.Bright Green Field/Squid

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19位はスキッド。今年、一気に噴き出し世界的にも注目された「サウスロンドン・ポストパンク四天王」の、ブラック・ミディ、ブラック・カントリー・ニュー・ロード、ドライ・クリーニング、そしてこのスキッドのなかで、僕がもっとも最高位にしたのは彼らです。なぜか。ひとつは、ポストパンク以前にロックンロールとしてカッコ良かったからですね。なんか初期フォールズのマスロック的なリズムをフォーマットとして持ちながらもアット・ザ・ドライヴ・インみたいに情熱的にロックするところがなんか惹かれたというか。もっと言ってしまえば、2000sのニューヨークのシーンにいたウォークメンにも感じが似てますけどね。あと、これらのバンドのなかで曲のレンジが一番広いのもこの人たちなんですよね。ただ単にロックンロールなだけでなく、淡々とミニマルなリズムを刻み続けるものから、リズムを抜いた静寂なもの、その静寂から突如爆発する静動のダイナミズムが巧みなものまで。スタイル的に完成されつつも曲が単調で飽きてしまうドライ・クリーニングより上にしたのもそのためです。ただ、全英トップ5には入ったものの、まだこれで「シーンの頂点極めた」印象まではまだ感じないので、まだ伸び代もあると思います。

18.新しい果実/Grapevine

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18位はグレイプバイン。去年もたしかGEZANがこのあたりで日本人最高位だった気がしましたが、今年はグレイプバインがそこに位置しました。僕にとっては昨年、ツイッター内での日本のオールタイム・アルバム企画で彼らがもっとも多くアルバムをエントリーさせていた事実を知って、そこから遡って僕が聴きそびれていた時期を再確認して、「みんなが知ってる90sより格段に成熟したその後がなぜ語られないんだ」と不憫に思い何度か記事も書いて好評もいただいてたんですけど、その最高のタイミングの本作の発表でした。いやあ、すごいですよ、このバンド。以前は90sのオルタナ、UKロックの同時代サウンド的な印象だったところがウィルコあたりのUSインディ通過して、今やディアンジェロをはじめとしたネオ・ソウルのグルーヴも巧みに表現できるようになって。そこに田中のソウルフルなヴォーカル、亀井の流麗なソングライティング、そして西川の鋭角性と歪みと職人肌が一体化したギターが一貫性持って表現できてるわけですからね。「ねずみ浄土」「ぬばたま」など、思いもよらない田中の日本語の引き出し方も見事です。この熟達された才能、もっと国内で真剣に論じられるべきだと思います。

17.Future Past/Duran Duran

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17位はデュラン・デュラン。これは自分でも感無量ですね。僕のブログを長く読んでいらっしゃる方なら、デュランが僕にとって10代の頃の最大のアイドルだったことをご存知かとも思うのですが、そういうひいき目だけでなく、この順位につけたとしても決しておかしくない状況が生まれたというのは非常に嬉しいことです。80年代の人気絶頂期、過度にアイドル扱いされて酷い批評も受けていた彼らが還暦近くになって人気を復活させ、イギリスではエルトン・ジョンとラナ・デル・レイと1位を争っての3位、全米でもトップ30入り(セールスだけなら3位)、世界8カ国でトップ10入り。今やフェスによってはヘッドライナーも任されるほどですよ。3度も人気が凋落したバンドがですよ。そして、内容がこれまた30年近くぶりの傑作で。デュランの場合、妖艶なシンセ・サウンドが売りで80sリバイバルのひとつの象徴にさえなっていたのに、なかなかそこに立ち返ろうとしなかったんですけど、ここでとうとう過去のレガシーを受け止め、「これぞ殿下の宝刀」とでもいうべきデュラン・サウンドを大開陳してくれています。奇しくもアイアン・メイデンも彼らもメタルとニュー・ウェイヴの違いこそあれ、デビューも年齢もほぼ同じ。そんな彼らが還暦過ぎて貫禄示して、シーンのサヴァイヴァーぶりを示した2021年でもありました。

16.Comfort To Me/Amyl & The Sniffers

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16位はアミル&ザ・スニッファーズ。オーストラリアはメルボルン出身の紅一点、エイミー・テイラーを擁したロックンロール・バンドです。僕は彼らのことに関しては2019年にデビューした時から大好きで、そのときも年間の40位台に入れていました。それは、彼らが同じ女性をフロントに据えたロックンロール・バンドでも、ロール・モデルをモーターヘッドに負ってるようなハードエッジな腕っ節の強い一本気な感じが気に入ったからでした。そして、この2枚目で彼ら、さらに化けましたね。ケレン味のないサウンドの攻撃性はしっかりとどめつつ、エイミーの歌の個性が強まったからなのか、そこにブロンディやXレイ・スペックスのようなパンク黎明期のガールズ・パンクを彷彿させる華やかさとコンパクトなわかりやすさ、そして切れ味とキャッチーさを格段に上げたエイミーの吐き捨てるようなトーキング調のヴォーカル。これらが理想的な形で進歩しましたね。今、エイミー、ヴァイアグラ・ボーイズとかスリーフォード・モッズなどの客演もやってますけど、こうやってアピールした方がいいと思います。マイリー・サイラスに真似されるくらい(ファッションすでに近いんだけど)になってほしいですね。

15.I Don't Live Here Anymore/The War On Drugs

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15位はザ・ウォー・オン・ドラッグス。この人たちもこの7年くらいかな。USインディを代表する人気バンドですよね。僕はこの人たちの評価はこれまで、すごく好きなのと、「ちょっと、そこまでは・・・」という複雑な評価でした。代表曲の「Under The Pressure」はロキシー・ミュージックの「夜に抱かれて」ソックリで好きなんですけど、曲によってはダイア・ストレイツとかクリス・レアとかブルース・ホーンズビーみたいな、あの当時の80sアレンジされた親父ロックみたいで、そういうのを「もう時代的に風化してダサくなった」と感じて育ったものに近く聞こえるため、若いインディ・リスナーの方たちのようには新鮮に受け止められなくてですね。ただ、この最新作は、楽曲の芯の部分はやはりスプリングスティーンとかディランではあるものの、80sっぽいところの解釈の部分が「なつかしい」ではなく、「今現在のシンセポップ」として十分聴ける、鋭角的なアレンジになってお見事でした。コンビ組んだプロデューサーのショーン・エレヴェットが良かったんですね。ちょうど良かったと思います。今年すでに、ジョン・メイヤーが同様のアプローチのアルバム出して、「70年代アーティストが1982年に出した、売れなかったアルバム」みたいになってたので(笑)。

14.Sling/Clairo

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14位はクライロ。これは僕にとっては大躍進アルバムですね。彼女が2019年にデビューした際、「Bags」という曲はすごく好きで「すごい才能が出た!」と思ったんですけど、アルバム聞いてすごくガッカリしたんですよね。曲そのものは良いんですけど、すごくはずかしそうに小声でモゾモゾ歌うから声域が極端に狭く、それでベッドルーム・スタイルの録音だからアレンジの幅も狭くてね。すごく単調に聞こえちゃったんですよね。ただ、それでもセールスは良かったようなので次作に期待をつなげての今作だったんですけど、いやあクレア(本名)、化けましたね!彼女が今作のプロデュースをジャック・アントノフに求めたのを聞いた時、「○番煎じになるのでは」と不安にもなったんですけど、フタ開けたら今年の顔になるはずだった」Lordeの自己満足ヒッピー・アルバムをはるかにこえ、彼女自身が刺激を受けたラナ・デル・レイのアルバムよりも結果が良かったですね。成功の理由は、クレアの中にあったブライアン・ウィルソンやヴァン・ダイク・パークス的なコードやアレンジ、あるいはその当時のバロック・ポップ、サンシャイン・ポップの芳醇なきらめきが覚醒した彼女の中で生きたからでしょうね。歌い方は相変わらずなんですけど、ここまで曲の表情が多彩だと関係ないです。名曲「Amoeba」をはじめ、職人ソングライターが生まれた瞬間かもしれません。

13.Pressure Machine/The Killers

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13位はザ・キラーズ。昨年のアルバム「Imploding The Mirage」に引き続いて2年連続で僕の年間ベスト入りしましたが、昨年30位から一気に13位まで上げました。いやあ、キラーズ、完全復活どころか、ここから第二の黄金期突入ですね。そう言い切って良い内容です。その契機となったのは、ブランドン・フラワーズが前作からコラボをはじめたショーン・エレヴェットの存在ですね。この名前、先ほどのウォー・オン・ドラッグスのとこでも出てきましたが、現在、USインディ・シーンの名ミキサーとして知られていたんですけど、ウォー・オン・ドラッグスにもキラーズにもソングライティングとアイデアで強い影響力を及ぼしてきてますね。キラーズの場合は、ブランドンが元来持っていたスプリングスティーンからの影響をさらにダイレクトに表現させ、このアルバムでは遂にアンプラグドの領域にまで突入ですよ。しかもアメリカの小さな町での叙事詩をナレーションつきで展開するという凝りよう。ただ、そうした作風においても、ブランドンが編み出す、一度聞いたら忘れないシンセ・フレーズを効果的に生かし、「アンプラグド・シンセポップ」という、本来相反する要素のものを絶妙に結合する、世にも珍しいものを見事に作り上げました。デビュー時から批評評価が不当に低すぎるバンドなので派手に気づかれにくいんですけど、カルト名作になる可能性秘めてると思います。

12.Promises/Floating Points, London Symphonic Orchestra & Pharoah Sanders

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12位はフローティング・ポインツ。これは、もしかしたら、日頃からかなり新作チェックをまめにしていないと気づかない作品かもしれませんが、これ、今年の様々なメディアの年間ベストで軒並み上位で、下手したら「今年最も評価されたアルバム」にさえなりそうな勢いです。このフローティング・ポインツが何者かというと、現在のイギリスきってのエレクトロ・アーティストです。でも、この作品はロンドン交響楽団と、伝説のフリージャズ・サックス奏者のファラオ・サンダースとの共演という異色のもの。たしかに実験的作品ではあるんですけど、これ、聞いてみればわかるんですけど、メチャクチャ聴きやすいんですよ。フローティング・ポインツ自らが奏でる、主題となるキーボードの旋律。これがとにかく一回聞いたら忘れない美メロなんですけど、ここを起点にミニマルなリズムでジワジワ盛り上がり、シンフォニーとファラオのサックスでドラマティックな高揚を迎える、といったタイプです。プログレ・ファンなんてすごく好きそうだし、実験性がありながらも室内BGとしても機能できる普遍性も備えてます。こういう作品にして全英アルバム・チャート6位という、異例の大ヒットになったのもそのためです。あまり僕が普段推すタイプのでないのでトップ10にこそ入れませんでしたが、3月に初めて聞いた時からずっと圧倒されています。

11.Sour/Olivia Rodrigo

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そして11位はオリヴィア・ロドリゴの「Sour」。この、世界的に見て2021年の最大のヒット・アルバムに関して、いろいろな解釈あるとは思うんですけど、僕はこれはやはり「ロック」だと思ってます。彼女のディズニーでティーン・アクトレスとして演じたキャラクターの数々見ても、決してクラスの中心にはいないタイプの女の子が、他の女の子とはちょっと違うセンスの良さをDIY的に表現してみたら、それが結果的にロックとして身を結んだというかね。やっぱり今のご時世、マジョリティの流行りの中で「自分の持つ価値観が反映されないこと」への欲求不満としてロックを掲げやすいのって、やっぱり男より女の子の方だと思うんですよね。かといって、一昔前みたいに男勝りにイキったりするのもカッコ悪い。そうした感じで自然と、ちょっとメインストリームから外れた女の子たちがギターへの距離がより近くなってたと思うんですけど、それがティーンまで降りた結果、爆発しちゃったのがオリヴィアなのかなと思ってます。しかもこれ、ここまでの大ヒット作なのに、基本コライトのプロデューサーと17歳の頃の彼女だけで手作りで作ってもいてね。ビリー・アイリッシュみたいな神がかった天才性もなく敷居も低く、ちょっと3枚目でユーモア溢れたコメディエンヌだった愛嬌ゆえに共感度高く愛されていくでしょうね。


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